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サメの歯は一生で数万本、ヒトの永久歯はたった一度きり 〜「使い捨てのサメ」と「大切に使うヒト」の物語〜

サメの歯は一生で数万本、ヒトの永久歯はたった一度きり 〜「使い捨てのサメ」と「大切に使うヒト」の物語〜

昨日、印旛郡市歯科医師会主催の「いい歯のイベント」のお手伝いに参加し、動物の歯の進化や多様性について学ぶ機会をいただきました。会場にはたくさんの親子連れが訪れ、クイズや展示を通して歯の不思議に触れる、大盛況のイベントとなりました。

中でも、大日本水産会 魚食普及推進センターの早竹忠利先生による「海の生き物の歯」のご講演は、大人も思わず身を乗り出すほど面白い内容でした。

今回は、ご講演で登場した「サメの歯」の話題に、歯科医師としての解説と少しばかりの(痛い)体験談を加えながら、私たちの歯の価値について考えてみたいと思います。

1. 食べ方に合わせて進化した「魚の歯」

早竹先生のご講演では、魚の口や歯が、それぞれの食べ方にいかに合った形をしているかが、ユーモアたっぷりに紹介されました。

  • 石についたコケをこそげ取る歯(アユなど)
    川の石に生えた藻類を削り取って食べるため、くし状の細かい歯をもっています。
  • のどの奥にある「咽頭歯(いんとうし)」(コイなど)
    コイの仲間は口の中に歯がなく、代わりにのどの奥に歯をもっていて、ここで貝や硬いエサをすりつぶします。ヒトにはないこの仕組みに、会場からも驚きの声が上がりました。
  • 獲物を逃がさない鋭い歯(タチウオなど)
    釣り針のような「返し」のついた鋭い歯で、つかまえた小魚を逃がしません。

そして、ひときわ目を引いたのが「サメの歯」です。ホオジロザメなどは、使っている歯のうしろに何列もの予備の歯が控えていて、前の歯が抜けると、ベルトコンベアのように次の歯が前へ出てきます。一生のうちに生え替わる歯は、数万本にもなると言われています。

2. なぜサメの歯はポロポロ抜けるのか?

「むし歯になっても、サメみたいに何度でも生え替わればいいのに……」と、誰もが一度は思うのではないでしょうか。では、なぜサメの歯はあんなに簡単に抜けるのでしょう。

その理由は、歯の付き方にあります。サメのあごは骨ではなく軟骨でできていて、歯はあごに「埋まって」いるのではなく、歯ぐきのような膜の上に「のっている」だけなのです。

根の浅い木が強い風で倒れやすいように、サメの歯は強い力がかかると簡単に抜けてしまいます。でもサメにとっては、それで問題ありません。「抜けてもすぐ次が出てくる」という、いわば使い捨て方式で、いつでも切れ味の良い歯を保っているのです。

3. ヒトの歯が一度しか生え替わらない理由 〜「歯根膜」という高性能センサー〜

一方、私たちヒトの歯は、乳歯から永久歯へ一度生え替わるだけ。永久歯を失えば、二度と生えてきません。

ただ、これは決して「劣っている」わけではありません。ヒトの歯は、あごの骨の穴の中に長い「歯根(しこん)」がしっかり埋まっていて、歯根と骨の間には**「歯根膜(しこんまく)」**という薄い膜があります。この歯根膜は、クッションであると同時に、とても敏感なセンサーの役割を果たしています。

  • わずかな異物も見逃さない
    ごはんに混ざった小さな砂粒や、髪の毛1本ほどの異物にも気づくことができます。
  • 噛む力を自動で調節する
    やわらかいお刺身と歯ごたえのあるお肉とで、無意識のうちに噛む力を加減しています。
  • 歯とあごを守るブレーキ
    硬いものを思いきり噛んでしまったとき、反射的に力をゆるめて、歯やあごが壊れるのを防いでくれます。

サメが「使い捨て」で歯の鋭さを保つのに対し、ヒトは一生使う歯と、繊細なセンサーを手に入れました。だからこそ私たちは、食べ物の「食感」や「おいしさ」を細やかに味わうことができるのです。

4. サメの歯のお守りと、ちょっと痛い思い出

ちなみに、ハワイをはじめとする太平洋の島々では、サメの歯は古くから海の力や勇気の象徴とされてきました。現在でも、サメの歯のペンダントは「身を守るお守り」や「幸運のお守り」として親しまれています。次々に生え替わることから、「再生」や「繁栄」の意味が込められているとも言われます。

その幸運にあやかろうと、私も実際にサメの歯のペンダントを身につけてみたことがあります。ところが……本物の歯のギザギザが胸元にチクチク当たって痛くてたまらず、あえなく3日で外してしまいました。サメのパワーを身にまとうには、それなりの我慢が必要なようです。

おわりに:一生ものの歯を大切に

サメと違って、私たちの永久歯には「次」がありません。代わりのきかない、世界にひとつだけの「あなた自身の歯」だからこそ、毎日の丁寧な歯みがきと、歯科医院での定期的なメインテナンスがとても大切です。

ペンダントのように首から下げることはできませんが、私たちの口の中には、すばらしい「一生ものの宝物」が備わっています。今日もご自身の歯で、おいしい食事をゆっくり味わってください。

【参考文献】

  1. 印旛郡市歯科医師会.令和8年度 いい歯のイベント プログラム・講演資料(早竹忠利「口や歯はなぜ違う? 海の生き物とヒトから学ぶ『歯』の進化」).
  2. 後藤仁敏,大泰司紀之,田畑純,花村肇,佐藤巌 編.歯の比較解剖学 第2版.医歯薬出版,2014.
  3. 岡崎好秀 著.動物たちのよい歯甲子園.東山書房,2010.

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