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「痩せる注射」の思わぬ危険 〜ケトアシドーシスについて知っておきたいこと〜

「痩せる注射」の思わぬ危険 

ケトアシドーシスについて知っておきたいこと

近年、「マンジャロ」をはじめとする糖尿病治療用の注射薬が、ダイエットや美容を目的に使われる例が増え、国や学会が注意を呼びかけています。

これらの薬は、本来、医師の管理のもとで病気の治療に用いられるものです。本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害につながるおそれがあります。今回は、その中でも重い副作用のひとつである**「ケトアシドーシス」**について解説します。

1. ケトン体とは

私たちの体は、通常、食事から得られる糖(ブドウ糖)を主なエネルギー源としています。

食事がとれず糖が不足すると、体は蓄えていた脂肪を分解してエネルギーをつくります。このとき肝臓でつくられるのが**「ケトン体」です。いわば、停電時に動く非常用の発電機**のようなもので、短期間であれば体を支える大切なしくみです。

2. ケトアシドーシスとは

ケトン体が過剰にたまると、血液が酸性に傾きます。この状態を**「ケトアシドーシス」**といいます。

血液の酸とアルカリのバランスは、ふだん非常に狭い範囲に保たれています。このバランスが崩れると、脱水が進み、呼吸・循環・意識などに影響が及びます。入院による点滴などの治療が必要となり、対応が遅れると命に関わることがあります。日本肥満学会も、生命を脅かしうる状態として注意を呼びかけています。

主な症状

  • 吐き気・嘔吐
  • 腹痛
  • 食欲低下
  • 強い口の渇き
  • 強い倦怠感(だるさ)
  • 息苦しさ
  • 意識がぼんやりする
  • 吐く息の甘酸っぱいにおい(熟した果物や除光液のようなにおい)

これらの症状は、薬の添付文書(公式な説明書)でも注意すべき症状として示されています。

注意点: これらは胃腸炎やかぜの症状とよく似ているため、「おなかの調子が悪いだけ」と見過ごされ、受診が遅れやすい傾向があります。

3. 血糖値が正常でも起こることがあります

ケトアシドーシスは、従来、糖尿病で血糖値が著しく高くなった際に起こるものとして知られてきました。

しかし近年、**血糖値がそれほど高くない、あるいは正常範囲でも起こる「正常血糖ケトアシドーシス」**が問題となっています。血糖値という"警報装置"が反応しないため、発見が遅れやすいことが特徴です。

たとえば糖尿病治療薬の一種である「SGLT2阻害薬」の添付文書には、血糖コントロールが良好であってもケトアシドーシスに至ることがあると記載されています。また、過度な糖質制限、食事摂取不良、感染症、脱水などを伴う場合に起こりやすいとされています。2024年には、薬の中止後もケトアシドーシスが長引くことがあるとの注意も追加されました。

マンジャロ(成分名:チルゼパチド)などの薬は、食欲を強く抑える作用があります。医師の管理のもとで治療に用いれば有用な薬ですが、食事がほとんどとれない状態や、吐き気・嘔吐による脱水が続くと、体がエネルギー不足に陥り、ケトン体がたまりやすくなると考えられています。

4. 国内で報告されている事例と行政の対応

国内の症例報告
糖尿病も肥満もない若い女性が、美容目的でチルゼパチドを使用した後に正常血糖ケトアシドーシスを発症した症例が、2026年4月に医学雑誌で報告されました(大阪けいさつ病院)。食欲低下や強い胃腸症状による急なエネルギー不足が関与した可能性が指摘されています。

副作用の疑い報告
ダイエット・美容目的で使用した後の副作用の疑いが、この3年余りで35件、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告されていました。薬との因果関係が不明なものも含まれますが、その中にはケトアシドーシスも含まれています。

厚生労働省の通知(2026年6月)
一部の医療機関で美容・痩身目的の使用が広がっていることを受け、厚生労働省は2026年6月16日、適正使用を求める通知を発出しました。厚生労働大臣も、臨床試験でダイエットなどの効果は証明されていないと説明しています。

日本肥満学会の声明と再通知(2026年10月)
日本肥満学会は2026年10月、肥満や糖尿病のない方でもケトアシドーシスなどが報告されているとして、ケトン体の増加によると考えられる症状が現れた場合は薬の使用を中止し、速やかに受診するよう呼びかけました。これを受け、厚生労働省も10月14日、医療機関に対して適正使用の再周知を求めています。

5. 極端な糖質制限との併用について

炭水化物を極端に減らす「ケトジェニックダイエット」は、意図的にケトン体が増える状態をつくる食事法です。

前述のとおり、SGLT2阻害薬では過度な糖質制限がケトアシドーシスの起こりやすい条件として挙げられています。食欲を抑える薬によって食事量が大きく減っている状態に、さらに極端な糖質制限を重ねると、ケトン体を増やす方向に二重の負担がかかるおそれがあります。薬を使用中の方は、食事療法を変更する前に必ず主治医にご相談ください。

6. よくあるご質問

Q. 糖尿病でなければ心配ありませんか?
A. 糖尿病でも肥満でもない方に発症した例が報告されています。糖尿病の有無にかかわらず注意が必要です。

Q. 血糖値が正常なら安心してよいですか?
A. 血糖値が正常でも起こるタイプがあります。症状がある場合は、血糖値にかかわらず受診してください。

Q. インターネットで購入した薬を使用しています。
A. ご自身の判断で使用を続けず、医療機関にご相談ください。症状がある場合は速やかに受診してください。

7. まとめ

  • ダイエット目的で、ご自身の判断により薬を使用しないでください。 SNSや個人売買での入手は避けてください。
  • 薬の使用中は、自己流の極端な食事制限・糖質制限を行わないでください。
  • 吐き気・腹痛・強いだるさ・息苦しさ・甘酸っぱい息などがあれば、速やかに医療機関を受診してください。 血糖値が正常でも安心はできません。
  • 体調不良などで食事がとれない日(シックデイ)は、薬の扱いを主治医に確認してください。 歯科治療などで数日食事がとりにくくなる場合も同様です。
  • 医療機関を受診する際は、自由診療で処方された薬も含めてお伝えください。 お薬手帳の活用をおすすめします。

ケトアシドーシスは、発見が遅れると命に関わることがある一方、正しい知識があれば早期に気づき、予防することができます。体重を減らすことよりも、しっかり食べて健康に暮らせることを大切にしていただきたいと考えています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。薬の使用・中止については、必ず処方した医師または薬剤師にご相談ください。

参考文献

  1. Kemmotsu R, Okita T, et al. 美容目的でのチルゼパチド使用に伴う正常血糖ケトアシドーシス(症例報告). JCEM Case Reports. 2026年4月8日(ケアネット 2026年6月30日 紹介記事)
  2. 厚生労働省. GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に関する通知(2026年6月16日)
  3. 共同通信. 美容目的使用後に副作用の疑い35件、糖尿病治療薬マンジャロ(2026年9月22日)
  4. 日本肥満学会. 安全な減量に関するステートメント(2026年10月3日)
  5. 厚生労働省. GLP-1受容体作動薬等の適正使用の再周知に関する通知(2026年10月14日)
  6. 厚生労働省. SGLT2阻害薬の使用上の注意改訂(ケトアシドーシス関連)
  7. 厚生労働省医薬局医薬安全対策課長通知(2024年12月17日)SGLT2阻害薬 電子添文改訂
  8. 医薬品医療機器総合機構(PMDA). マンジャロ皮下注 電子添文

Sources:

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