お口の体操だけで大丈夫?―フレイルの「よくある勘違い」
お口の体操だけで大丈夫?
オーラルフレイルの「よくある勘違い」
「お口の衰えを防ぐために、毎日パタカラ体操をしています」
診療室や訪問先で、こんなお話をうかがう機会が増えました。「オーラルフレイル」という言葉が広まり、お口の変化に早めに気づこうとする方が増えたのは、とてもうれしいことです。
ただ、ひとつ気をつけたい思い込みがあります。それは、**「お口さえ鍛えれば、全身も元気でいられる」**という考え方です。
車にたとえると、タイヤだけを新品にしても、エンジンが弱っていたりガソリンが足りなかったりすれば、うまく走れませんよね。お口と体の関係も、これに少し似ています。
2024年に3つの学会が合同で出した声明でも、お口の衰えは体・心・社会とのつながりの中でとらえ、さまざまな職種で支えることが大切だと示されています。[1]
今回は、よくある4つの勘違いをもとに、オーラルフレイルの本当の姿を見ていきましょう。
勘違い①「オーラルフレイル=お口だけの老化」
オーラルフレイルは、「口の老化」を言い換えた言葉ではありません。
日本老年医学会・日本老年歯科医学会・日本サルコペニア・フレイル学会は、オーラルフレイルを次のように説明しています。歯を失うことや、食べる・話すといった働きの**「ちょっとした衰え」が重なって**、お口の機能が低下しやすくなっている状態。そして大切なのは、まだ改善が可能な状態だということです。[1]
つまり「年だから仕方ない」とあきらめる段階ではなく、「今なら戻れる」というサインなのです。
勘違い②「お口が衰えるから、体が衰える」
「噛みにくくなる → 食べられるものが減る → 栄養が足りなくなる → 体が弱る」。これは確かに注意したい流れです。
でも、その逆向きの流れもあります。
病気で寝込んだり、活動量が減ったり、栄養が不足したりすると、全身の筋肉がやせていきます。その影響は、手足の筋肉だけでなく、飲み込むための筋肉にも及びます。こうして起こる飲み込みの障害は「サルコペニアの摂食嚥下障害」と呼ばれています。[3]
つまり、お口と全身の関係は一方通行ではなく、双方向です。
- 食べにくさが、体の栄養状態を悪くすることがある
- 体の衰えが、食べる力を弱めることもある
入院のあとに急にむせやすくなった、という方は、まさにこの「体からお口へ」の流れが起きている可能性があります。
勘違い③「研究で関係があるなら、お口を治せば体も治る」
お口の衰えと全身の健康の関係は、研究でもはっきり示されています。
千葉県柏市で65歳以上の地域在住の方2,011人を追跡した研究では、お口の小さな問題が3つ以上重なっていた人は、その後、体のフレイルやサルコペニア、要介護、死亡のリスクがおよそ2倍高かったと報告されました。[2]
(この研究は、現在使われている簡易チェック「OF-5」とは別の6項目で評価しています。)
ここで注意したいのは、「関係がある」ことと「治せば防げる」ことは同じではないという点です。
この研究は、経過を観察した研究です。「お口の体操をすれば全身のフレイルを防げる」と証明したものではありません。お口の変化は、体全体を見直すための大切な手がかり。そう受け止めるのが正確です。[2]
勘違い④「お口の体操さえ続ければ十分」
お口の体操や訓練は、もちろん無駄ではありません。早めに適切に取り組めば、お口の機能が改善する可能性があります。[1]
ただし、誰にでも同じ方法で十分とは限りません。
たとえば、栄養不足や全身の筋肉の衰えが原因の飲み込みにくさでは、飲み込む訓練と栄養の改善の両方が必要とされています。[3] 材料(栄養)がないまま筋トレだけをしても、筋肉は育ちにくいのです。
一方で、「全身が大事だから、歯の治療は後回し」というのも違います。合わない入れ歯やむし歯、歯周病などお口そのものの問題を整えることは欠かせません。歯科を中心に、必要に応じて医師、管理栄養士、リハビリの専門職などと協力して支えていくことが求められています。[1]
セルフチェック「OF-5」は"ゴール"ではなく"入り口"
現在、オーラルフレイルの目安として使われているのが「OF-5」です。次の5項目のうち、2つ以上当てはまると、オーラルフレイルと判定されます。[1][4]
- 自分の歯が20本未満
- 半年前と比べて、かたいものが食べにくくなった
- お茶や汁物などでむせることがある
- 口の渇きが気になる
- ふだんの会話で、言葉をはっきり発音できないことがある
特別な機器がなくても確認できる、便利な方法です。
ただし、チェックで分かるのは「衰えのサイン」まで。「なぜ衰えたのか」は分かりません。点数を良くすることが目的ではなく、その背景にあるお口・体・生活の課題を見つけ、必要な支援につなげることが大切です。[1]
さいごに
「前より食べにくい」「むせることが増えた」「最近、食事の量が減った」
そんな変化に気づいたら、お口だけの問題と決めつけず、体調や食事、生活の変化もあわせて歯科医院でお話しください。
お口を診ることは、体と暮らし全体を見直すきっかけになります。「食べられること」を守るために、一緒に考えていきましょう。
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参考文献
- 日本老年医学会・日本老年歯科医学会・日本サルコペニア・フレイル学会.オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント.2024年4月.
https://jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/20240401_01.html - Tanaka T, Takahashi K, Hirano H, et al. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73(12):1661–1667. doi:10.1093/gerona/glx225
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29161342/ - Fujishima I, Fujiu-Kurachi M, Arai H, et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int. 2019;19(2):91–97. doi:10.1111/ggi.13591
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30628181/ - 日本歯科医師会.No.225 3学会合同ステートメントを受けてのオーラルフレイルに関する見解.
https://www.jda.or.jp/jda/release/detail_253.html
