顔は「体の窓」 訪問歯科医が毎回お顔をじっくり見る理由
顔は「体の窓」
訪問歯科医が毎回お顔をじっくり見る理由
「〇〇さん、おはようございます!」
施設のお部屋に入ると、私はまず患者さんのお顔を見ます。血圧や脈拍を測るより先に、です。
「今日は目に力があるな」
「いつもより口数が少ないかな」
「唇がカサカサしているけど、お水は飲めているかな」
ほんの数秒ですが、この「顔を見る時間」は、その日の診療を左右するほど大切です。体調の変化をうまく言葉にできない方も多いので、お顔が代わりに体の状態を教えてくれるからです。
「顔を見て体調がわかるなんて、経験とカンの話でしょう?」と思われるかもしれません。ところが、これにはしっかりした研究の裏付けがあります。今日は、顔にあらわれる体のサインを一緒にのぞいてみましょう。
🔍 その1:「老けて見える」は気のせいじゃない
デンマークで行われた、ちょっとユニークな研究があります。
対象は70歳以上の双子1,826人です。双子なので、生まれ持った遺伝子や育った環境がよく似ています。この双子の顔写真を、看護師や一般の人たちに見せて「この人は何歳に見えますか?」と判定してもらいました。
その後、何年にもわたって経過を追った結果は、とても興味深いものでした。
- 実年齢より老けて見える人ほど、その後の生存率が低かった
- 双子のうち老けて見える方が先に亡くなる傾向があり、見た目の差が大きいほどその傾向ははっきりしていた
- 「見た目年齢」は体の動き・もの忘れの程度、さらにはテロメアとも関係していた
💡 テロメアってなに?
細胞の中にある遺伝子の「端っこ」の部分です。靴ひもの先についているプラスチックのキャップのようなものだと思ってください。細胞が分裂するたびに少しずつ短くなるため、「細胞の年齢」の目安とされています。
つまり、顔は細胞レベルの老化まで映し出しているのです。お医者さんや看護師さんが昔から患者さんの顔色を大事にしてきたのには、ちゃんと理由があったわけです。
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❤️ その2:心臓からの「4つのメッセージ」
もう一つ、デンマークの研究をご紹介します。約1万人(10,885人)を35年間という長い期間追跡した大規模な研究です。
この研究で、次の4つの見た目のサインがある人は、心筋梗塞や狭心症になりやすいことがわかりました。
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ポイントは2つあります。
- 年齢・血圧・喫煙など、よく知られた危険因子を考えに入れても関係が認められた
- サインが多いほどリスクは高く、3〜4個ある人は1つもない人に比べて、心筋梗塞のリスクが約1.6倍だった
🙋 「耳たぶにしわがある!どうしよう…」と思った方へ
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ご安心ください。これは「そういう傾向がある」という目印で、サインがある人が必ず心臓病になるわけではありません。「健康診断を受けてみようかな」「血圧やコレステロールを測ってみよう」と考えるきっかけにしていただければ十分です。
😐 その3:「表情が乏しくなった」は年のせい?
「最近、父の表情が少なくなった気がする。年だから仕方ないのかな」
そう思う前に、少しだけ立ち止まってください。表情の変化の裏に、治療できる病気が隠れていることがあります。
- パーキンソン病:顔の筋肉の動きが少なくなり、まばたきも減って、お面をかぶったような表情(仮面様顔貌)になることがあります。
- 甲状腺の働きの低下:顔がむくみ、肌が乾燥し、眉毛の外側が薄くなることがあります。
- 気分の落ち込みや認知機能の変化:表情や反応の変化として、周りの人が先に気づくことがあります。
いずれも、早く見つけて治療やケアにつなげることで、生活が楽になる可能性があります。
🎨 その4:顔色とむくみは「体の天気予報」
- 顔色が青白い、まぶたの裏が白っぽい
→ 貧血のサインかもしれません。 - 顔、とくにまぶたがむくむ
→ 腎臓の病気でみられることがあります。
※心臓の働きが弱っている場合は、顔よりも足のむくみが目立つことが多いです。 - 頬がこけた、顔が急にやせた
→ 体重が減っている、栄養が足りていないサインかもしれません。
🦷 その5:歯医者だから気づける「口元のSOS」
ここからは、歯科医ならではの視点です。
歯科の診療では、患者さんのお顔を手が届くほどの距離で、しかも毎回のように拝見します。実は、体の変化に気づきやすい立場なのです。訪問診療では、こんなところもチェックしています。
- 💧 唇や舌がカサカサ
水分不足(脱水)のサインのことがあります。高齢になると喉の渇きを感じにくくなるので、「喉は渇いていない」というご本人の言葉だけでは安心できません。 - 👄 口の端(口角)のただれ・ひび割れ
栄養不足、カンジダ(カビの一種)、入れ歯の高さが合わなくなっていることなどが原因になります。 - 😮 頬がこけた、入れ歯が急にゆるくなった
やせて歯ぐきや頬の肉が落ちたサインかもしれません。「ちゃんと食べられているか」を見直す合図です。 - 🚨 顔の片側が急に下がった
口の端が片側だけ下がる、片側からよだれがこぼれる、といった変化です。脳卒中の可能性があります。言葉がもつれる、片方の手足に力が入らないといった症状が一緒にあれば、様子を見ずにすぐ119番へ。時間との勝負です。
当院は「食べられること」を守ることを何より大切にしています。お口を診ることは歯を治すだけでなく、全身の変化にいち早く気づくチャンスでもあると考えています。
✅ ご家族・施設の方へ 今日からできる「お顔チェック」
難しい知識は必要ありません。毎日のあいさつのときに、次の5つをさっと見てみてください。
- 顔色はいつも通り?(青白くない?赤すぎない?)
- 表情はいつも通り?(笑顔は出る?反応はある?)
- 左右差はない?(口元や目元が片側だけ下がっていない?)
- 唇や口の中は乾いていない?
- むくみ・やせはない?(まぶたが腫れぼったくない?頬がこけていない?)
いちばん大切なのは、「いつもの顔」を知っていることです。毎日そばにいるご家族や職員の方の「なんとなく、いつもと違う」という感覚は、どんな検査にも負けない大切な情報です。
おわりに
顔は、体の中の状態をそっと映し出す「窓」のようなものです。
もちろん、見た目だけで病気を決めつけることはできません。それでも、「あれ?」と思った小さな気づきが、大きな病気の早期発見につながることがあります。
気になる変化があれば、どうぞ遠慮なく、かかりつけの医師や私たち歯科医師、施設の看護師にお声がけください。
さあ、今日は鏡の中のご自分の顔と、大切なご家族の顔を、いつもより少しだけじっくり眺めてみませんか?
【参考文献】
- Christensen K, Thinggaard M, McGue M, et al. Perceived age as clinically useful biomarker of ageing: cohort study. BMJ. 2009;339:b5262. PMID: 20008378. https://doi.org/10.1136/bmj.b5262
- Christoffersen M, Frikke-Schmidt R, Schnohr P, et al. Visible age-related signs and risk of ischemic heart disease in the general population: a prospective cohort study. Circulation. 2014;129(9):990-998. PMID: 24334176. https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.113.001696
- 上田剛士 編著. 『高齢者診療で身体診察を強力な武器にするためのエビデンス 第2版』. シーニュ, 2020.
