# 入院すると筋肉はなぜやせる? 〜「1週間で15%」の真相と最新メタ解析〜
# 入院すると筋肉はなぜやせる?
〜「1週間で15%」の真相と最新メタ解析〜
## この記事のポイント
- 重い病気で入院すると、筋肉は細くなり、「壊す仕組み」が活発になっている目印が見られる
- 病気でなくても、動かさないだけで筋力は1〜2週間で大きく落ちる
- よく聞く「1週間で15%」は、筋肉の量ではなく**筋力**の目安として考えるのが近い
## 「測った値」にこだわる理由
私の学位論文のテーマは、噛む筋肉「咬筋(こうきん)」が太くなる仕組みでした。当時、指導医から「ノギスで実際に測ることが、実は正確なデータ集めにつながる」と教わり、徹夜で計測したものです。それ以来、論文を読むときは「実際に測った値か、目印から推測したものか」を意識しています。
「入院して2週間で、足がすっかり細くなってしまった」。ご家族からこうした声を聞くことがあります。重い病気でICU(集中治療室)に入った方は、病気が治ったあとも筋力の低下に悩まされることが少なくありません。筋肉はなぜ、それほど早くやせてしまうのでしょうか。
## 筋肉は「お風呂の水位」
筋肉のタンパク質は、毎日**作られ(合成)**、同時に**壊されて(分解)**います。お風呂にたとえると、蛇口から入る水が「作る働き」、排水口から出る水が「壊す働き」、水位が「筋肉の量」です。水位が下がるのは、蛇口が細くなったか、排水口が広がったか、あるいはその両方です。
## 75の研究をまとめた最新論文
2026年、米国ケンタッキー大学などの国際チームが、ICUの重症患者の筋肉を調べた75の研究(患者2,023人)をまとめた「メタ解析」を発表しました[文献1]。主に太ももの筋肉をごく少量採取して調べた研究です。わかったことは4つあります。
**① 筋線維が約22%細かった(実際に測った値)**
筋肉をつくる細い線維の断面積が、ICUに入っていない人より約22%小さく、ICUを出たあとも差が見られました。ただし、「全身の筋肉が22%減った」という意味ではありません。
**② 作る速さには、はっきりした差がなかった(実際に測った値)**
筋肉を作る速さは、ICUに入っていない人と比べて統計的な差が見られませんでした。ただし調べた患者は126人と多くなく、「作る力は正常」と証明されたわけではありません。
**③ 壊す仕組みの「目印」は高かった(目印)**
タンパク質に荷札を付けて処理する「ユビキチン・プロテアソーム系」や、細胞内のリサイクル機能「オートファジー」に関わる目印が、一貫して高くなっていました。ただし、実際にどれだけ壊れたかを測ったわけではありません。
**④ 筋肉の「質」も変わっていた**
線維の壊死、エネルギーを作るミトコンドリアの異常、炎症や線維化なども報告されました。重い病気による筋肉の変化は、単に「量が減る」だけでは説明できないのです。
## 「使わないと1週間で15%落ちる」は本当?
では、病気ではなく「動かさない」だけならどうでしょうか。よく聞くこの数字を、実際に測定した研究で確かめてみました。
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健康な人でも、わずか5日で筋肉は細くなり始めていました。ギプス固定の研究では、③で紹介した「壊す仕組み」に関わる遺伝子の目印も早くから上がっていました。
筋力は5日で約9%、10日で約13%低下しているので、1週間ならおよそ1割です。「15%」はやや大きめですが、**筋力**の目安としてなら大きく外れてはいません。一方、筋肉の**太さ**の減り方はそれより小さめです。
なお、「1週間で10〜15%」の出典としてよく挙げられる1970年の論文[文献5]は、内容を確認できなかったため、根拠にはしていません。
## 「寝たきり」と「重い病気」は同じ仕組み?
動かさないことによる筋肉の衰えでは、**作る速さの低下**や、タンパク質をとっても筋肉が作られにくくなる「同化抵抗性」が重要と考えられています[文献2]。壊す仕組みの目印が早く上がるという報告はあるものの、実際に壊れる速さのデータは少なく、その役割ははっきりしていません。重い病気による筋肉の衰えとは重なる部分もありますが、同じ仕組みとは言えません。
また、今回のメタ解析は、リハビリや栄養療法の効果を確かめた研究ではありません。
## まとめ:言えること・言えないこと
**言えること**
- 重い病気の患者さんでは筋線維が細く、壊す仕組みの目印が高い
- 病気でなくても、動かさないだけで筋力は短期間で落ちる
**言えないこと**
- 重い病気のときも筋肉を作る力は正常だ、ということ
- 筋肉が実際にどれだけ壊れたか
- 「1週間で筋肉の量が15%減る」ということ
- 噛む筋肉や舌、のどの筋肉にも同じことが起きる、ということ(今回の研究の対象外)
## 歯科医師としてのひとこと
今回紹介した研究は主に太ももの筋肉が対象で、咬筋や飲み込みの筋肉で何が起きるかは、別に確かめる必要があります。「測れたこと」と「測れていないこと」を分けて考える。その姿勢を、これからの診療でも大切にしていきます。
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## 参考文献
1. González-Seguel F, Robinson CM, Caceres-Parra C, et al. Rethinking Muscle Wasting in Critical Illness: A Systematic Review and Meta-Analysis of Myofiber Size and Protein Turnover. *Critical Care Medicine*. 2026;54(10):2636-2647. doi: [10.1097/CCM.0000000000007288](https://doi.org/10.1097/CCM.0000000000007288)(PubMed: [42565658](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42565658/))
2. Rudrappa SS, Wilkinson DJ, Greenhaff PL, Smith K, Idris I, Atherton PJ. Human Skeletal Muscle Disuse Atrophy: Effects on Muscle Protein Synthesis, Breakdown, and Insulin Resistance—A Qualitative Review. *Frontiers in Physiology*. 2016;7:361. doi: [10.3389/fphys.2016.00361](https://doi.org/10.3389/fphys.2016.00361)(PubMed: [27610086](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27610086/))
3. Wall BT, Dirks ML, Snijders T, Senden JMG, Dolmans J, van Loon LJC. Substantial skeletal muscle loss occurs during only 5 days of disuse. *Acta Physiologica*. 2014;210(3):600-611. doi: [10.1111/apha.12190](https://doi.org/10.1111/apha.12190)(PubMed: [24168489](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24168489/))
4. Kortebein P, Symons TB, Ferrando A, et al. Functional impact of 10 days of bed rest in healthy older adults. *The Journals of Gerontology Series A*. 2008;63(10):1076-1081. doi: [10.1093/gerona/63.10.1076](https://doi.org/10.1093/gerona/63.10.1076)(PubMed: [18948558](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18948558/))
5. Müller EA. Influence of training and of inactivity on muscle strength. *Archives of Physical Medicine and Rehabilitation*. 1970;51(8):449-462.(PubMed: [5448109](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5448109/))※要旨がPubMedに掲載されていないため、本文の根拠には用いていません。
*この記事は、論文の内容を一般の方向けに紹介するものです。ご自身やご家族の治療については、主治医にご相談ください。*
