「舌が汚れている人は歯垢もつきやすい?」 花王×島津の新研究を、 歯科医が冷静に読み解きます
「舌が汚れている人は歯垢もつきやすい?」
花王×島津の新研究を、
歯科医が冷静に読み解きます
「歯垢(プラーク)がつきやすい人は、舌の汚れ(舌苔:ぜったい)も多い」
——こんな研究結果が、花王と島津製作所の共同研究として2026年10月に発表されました。
「じゃあ、毎日舌をゴシゴシ磨けば虫歯も歯周病も防げるの?」
そう思った方、ちょっと待ってください。この研究、とても面白いのですが、「舌をきれいにすれば歯垢が減る」とまでは言えないのです。
今回は、この研究の「面白いところ」と「まだわかっていないところ」、そして明日からのお口のケアにどう活かせばいいのかを、わかりやすくお話しします。
🧪 どんな実験だったの?
研究チームは、健康な男女40人に協力してもらい、次のような実験を行いました。
- まず、歯についた歯垢をきれいに取り除く
- 食べるもの・飲むものを全員そろえる
- 2日間、歯みがきなどのお口の掃除を一切しない
なかなかの「我慢大会」ですね(笑)。
そして2日後、歯垢がたくさんたまった15人を「つきやすいグループ」、あまりたまらなかった15人を「つきにくいグループ」として比べました。
🔍 わかったこと
「つきやすいグループ」には、こんな特徴がありました。
- 舌苔の量:つきにくいグループの約1.2倍
- 舌苔に含まれる「アスパラギン酸」(アミノ酸の一種で、細菌の栄養になりうるもの):約1.8倍
さらに、舌苔に含まれる500種類を超える細菌や代謝物(細菌がつくる物質)のデータを統計的に解析したところ、「はじめの時点で舌苔が多い人ほど、2日後の歯垢が多くなる」という傾向も推定されました。
つまり、**「お口が汚れやすい人は、舌の上も汚れていて、しかも細菌のエサになりそうな成分も多い」**ことがデータで示されたわけです。最新の分析機器を使って、お口の中を細菌・成分・唾液の面から丸ごと調べた点が、この研究のすごいところです。
💡 ここが大事!「関係がある」と「原因である」は違う
ここで「なるほど、歯垢の犯人は舌苔だったのか!」と結論づけたくなりますが、科学的にはそれは早とちりです。
カギを握るのは、お口の中の名脇役「唾液(だえき)」です。
唾液には、食べかすや細菌を洗い流す「自浄作用」や、お口の中の酸性・アルカリ性のバランスを保つ働きがあります。歯垢の中の細菌のバランスは、唾液などの「お口の環境」によって大きく左右される、という考え方が、現在の歯科医学の主流です。
そうすると、こんなシナリオも考えられます。
【もう一つのシナリオ】
もともと唾液の量や働きなど「お口の環境」に個人差がある
↓
その影響で舌苔がたまりやすくなる
↓
同じ環境のもとで、歯にも歯垢がたまりやすくなる
この場合、舌苔は歯垢を増やす「犯人」ではなく、お口の環境の状態を知らせてくれる「目印(サイン)」にすぎない、ということになります。
🚫 「舌を磨けば歯垢が減る」とはまだ言えない理由
今回の研究は「歯みがきをしなかった2日間」を観察したものです。
「舌を掃除したら、歯垢が実際に減ったかどうか」を確かめた実験ではありません。
実は、この疑問に答えようとした研究が以前にあります。2014年に発表された日本の研究では、30人を「舌を掃除する期間」と「しない期間」に分けて比べました。その結果——
- 舌の掃除で、舌苔の細菌は減った
- でも、歯垢ができるのを抑える効果ははっきりしなかった
- 舌と歯の細菌の増減は、それぞれ独立して動いていた
そしてこの研究の結論は、「舌の掃除と歯みがき、両方やりましょう」というものでした。
つまり、舌のケアは「歯みがきの代わり」にはならない、ということです。
👅 では、舌のケアは意味がないの?
いいえ、そんなことはありません。舌苔は口臭の大きな原因ですし、高齢の方では、お口の細菌が肺に入り込んで起こる誤嚥性(ごえんせい)肺炎の予防の面からも、舌を含めたお口全体のケアがとても大切です。介護施設で口腔ケアをしっかり行うと肺炎が減ったという有名な研究もあります。
当院では20年以上、訪問歯科診療で多くの方のお口を拝見してきましたが、舌の状態は「お口全体の元気さ」を映す鏡だと感じています。
舌ケアのポイント
- 柔らかい舌ブラシ(または専用の舌クリーナー)を使う
- 奥から手前へ、やさしく数回なでる程度でOK
- ゴシゴシこするのはNG(舌を傷つけ、かえって汚れがつきやすくなることも)
- 1日1回、汚れがたまりやすい朝がおすすめ
唾液を味方につけるコツ
- よく噛んで食べる(噛むほど唾液が出ます)
- こまめな水分補給
- お口の乾燥が気になる方は、お薬の影響なども含めてご相談ください
📝 まとめ
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わかったこと |
歯垢がつきやすい人は、舌苔が多く、細菌の栄養になりうる成分も多い |
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まだわからないこと |
舌苔が本当に歯垢を増やしているのか。舌の掃除で歯垢が防げるのか |
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今できること |
歯みがき+フロスを基本に、舌はやさしくケア。唾液の働きも大切に |
企業による最先端の分析は、お口の健康を守るための大きな一歩です。ただ、ニュースを見るときは「何が証明されていて、何がまだ仮説なのか」を見極めることが大切ですね。
「自分の舌、汚れてるのかな?」「口が乾きやすい気がする」——そんな方は、定期検診の際にお気軽にお声がけください。舌や唾液の状態も一緒にチェックいたします。
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参考文献
- 花王株式会社.歯垢がつきやすい人は「舌の汚れ(舌苔)」が多く、舌苔中に細菌の栄養となりうるアミノ酸も多いことを発見(ニュースリリース).2026年10月20日.
- 薬事日報.【花王/島津製作所】共同研究で"舌ケア"の重要性を示唆‐機器分析で歯垢のつきやすさに新知見.2026年10月23日.https://www.yakuji.co.jp/?p=140831
- Nyvad B, Takahashi N. Integrated hypothesis of dental caries and periodontal diseases. J Oral Microbiol. 2020;12(1):1710953. doi:10.1080/20002297.2019.1710953
- Matsui M, Chosa N, Shimoyama Y, et al. Effects of tongue cleaning on bacterial flora in tongue coating and dental plaque: a crossover study. BMC Oral Health. 2014;14:4. PMID: 24423407
- Yoneyama T, Yoshida M, Matsui T, et al. Oral care and pneumonia. Lancet. 1999;354(9177):515.
