「腸内細菌の“タッグプレー”が便秘を引き起こす?」
腸の中の“ふたり組”が便秘の原因に? ―新しい便秘の考え方
「便秘は腸の動きが悪いから」というイメージをお持ちの方も多いと思います。もちろんそれは正しいのですが、名古屋大学などの研究グループが2026年に発表した研究では、腸内細菌どうしが協力して起こす便秘があることが分かりました。今回はこの研究を、できるだけわかりやすくご紹介します。
まず、「ムチン」ってなに?
大腸の内側は「ムチン」という粘液でおおわれています。ムチンには大きく2つの役割があります。
- 便に水分を含ませて、やわらかく通りやすくする「潤滑油」の役割
- 腸内細菌が腸の壁(上皮細胞)に直接触れないようにする「防御壁」の役割
このムチンが減ってしまうと、便が乾いて硬くなりやすくなるだけでなく、腸のバリア機能そのものが弱くなる可能性があります。
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ふたつの菌が“役割分担”していた
研究の主役になったのは、バクテロイデス・シータイオタオミクロン と アッカーマンシア・ムシニフィラ という、どちらも人の腸に普通にいる細菌です。「悪玉菌」というわけではなく、むしろ有用な働きも報告されている菌たちです。
ポイントは、この2種類が組み合わさったときだけ、便秘につながる働きをするということでした。
- ムチンの糖鎖には「硫酸基」という保護のフタのようなものが付いていて、そのままでは分解されにくくなっています。
- シータイオタオミクロンが持つ酵素(スルファターゼ)が、このフタを外します。
- フタが外れたことで、ムシニフィラがムチンを分解しやすくなります。
- その結果、粘液層が薄くなり、便の水分保持力が下がって、便が硬く・出にくくなります。
たとえるなら、「鍵を開ける係」と「中身を取り出す係」がタッグを組むことで、初めて便秘という結果につながる、というイメージです。
無菌のマウスで確かめた「原因と結果」
人のデータだけでは、「菌が多いから便秘になったのか、便秘だから菌が増えたのか」は分かりません。そこで研究チームは、腸内細菌をまったく持たない無菌マウスを使って実験しました。
- どちらか一方の菌だけを腸に入れても、便秘のような変化は起きなかった
- 両方の菌を同時に腸に入れると、便の水分量や排便量が減少した
- 菌の酵素(スルファターゼ)を働かなくする遺伝子操作をすると、便秘のような変化や腸のバリア機能低下がやわらいだ
この結果から、「2種類の菌の協力」と「特定の酵素の働き」が、便秘に直接関わっていることが確かめられました。
すべての便秘がこれで説明できるわけではありません
大切な注意点として、今回見つかったのは便秘の一部の原因であり、研究者らはこれを「細菌性便秘」と呼んでいます。便秘には他にも、
- 大腸の動き(蠕動運動)そのものが弱くなるタイプ
- 排便時の筋肉の協調がうまくいかないタイプ
- お薬や糖尿病、甲状腺の病気などが関係するタイプ
- 加齢や低栄養、運動不足などが複合的に関わるタイプ
など、さまざまな種類があります。慢性的な便秘でお悩みの方は、自己判断せず、まずはかかりつけ医にご相談いただくことをおすすめします。
今後の可能性
今すぐ便秘の検査や治療が変わるわけではありませんが、将来的には、
- 便の中のムチンや細菌の状態を調べて便秘のタイプを見分ける
- 悪さをする酵素だけをピンポイントで抑える薬をつくる
といった、新しいアプローチにつながる可能性があります。「悪玉菌をやっつける」のではなく、「菌の組み合わせや働き方を整える」という、より精密な考え方が広がっていくのかもしれません。
私たち歯科も、「食べる」だけでなく「出す」まで含めた体の巡りを大切に考えていきたいと、今回の研究を通じて改めて感じました。
参考文献
- Hamaguchi T, Gibo N, Ohara M, et al. Bacterial constipation: Mucin-degrading intestinal commensal bacteria cause constipation. Gut Microbes. 2026;18(1). doi:10.1080/19490976.2025.2596809
- 名古屋大学. 腸内細菌がタッグを組んで便秘を引き起こす仕組みを解明. 2026年2月19日.
- Johansson MEV, Hansson GC. Role of mucus layers in gut infection and inflammation. Current Opinion in Microbiology. 2011;14(6):632–638.
- 日本消化管学会. Evidence-Based Clinical Guidelines for Chronic Constipation 2023.
