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シェーグレン病と「お口の乾き」

 シェーグレン病と「お口の乾き」

歯科と医科で支える、これからの治療

## はじめに

「口が渇いて食べ物が飲み込みにくい」「夜中に何度も水を飲んでしまう」「入れ歯がこすれて痛い」——シェーグレン病の患者さんから、こうしたお悩みをよくうかがいます。

まず知っていただきたいのは、**「口の乾きを何とかしたい」というご希望は、歯科で対応できる、訴えだ**ということです。

一方で、シェーグレン病は「歯科で唾液の検査をすれば診断がつく」という単純な病気ではありません。唾液の検査、眼科でのドライアイの検査、血液検査、場合によっては組織の検査までを組み合わせて、はじめて総合的に診断される病気です。つまり、**歯科・眼科・内科がそれぞれの専門的な検査を持ち寄ることそのものが、診断のプロセスに欠かせない**のです。今回は、この「医科歯科連携」の大切さについて、診断から日々のケアまでを通して、できるだけわかりやすくお伝えします。

## シェーグレン病とは

シェーグレン病は、涙腺や唾液腺などに炎症が起こり、涙や唾液が出にくくなる自己免疫疾患です。日本では長らく「シェーグレン症候群」と呼ばれてきましたが、近年、国際的に呼称の見直しが進んでいます。2021年に米国リウマチ学会の機関誌で問題提起がなされたのをきっかけに、米国・欧州の医療者と患者による投票が行われ、2023年に国際的な合意として「シェーグレン病(Sjögren disease)」という名称が採択されました。日本でも「日本シェーグレン症候群学会」が「日本シェーグレン病学会」へと改称するなど、呼び方の変化が進んでいます。[1] 日本の指定難病制度上は現在も「シェーグレン症候群(指定難病53)」という病名が使われていますので、両方の呼び方を目にすることになります。[2][3]

主な症状は次のとおりです。

- 目が乾く、ゴロゴロする、まぶしい
- 口が乾く、唾液がねばつく
- パンなど乾いた食品が飲み込みにくい
- 話しにくい、味がわかりにくい
- 舌や口の粘膜がヒリヒリする
- 耳の下や顎の下が腫れる
- 疲れやすい、微熱が続く
- 関節の痛みやこわばり

口や目の乾燥だけでなく、関節、肺、腎臓、神経、皮膚などに影響が及ぶこともあり、関節リウマチなど他の膠原病を合併することもあります。[2][3]

## 診断には歯科・眼科・内科の検査が欠かせません

シェーグレン病は、「口が乾く」「目が乾く」という自覚症状だけで診断される病気ではありません。厚生労働省の診断基準やアメリカリウマチ学会の分類基準では、性質の異なる複数の検査を組み合わせ、一定数以上の項目が当てはまるかどうかで診断を進めます。[6][7] 代表的な検査は次のとおりです。

- **歯科・口腔外科での検査**:ガムテスト(ガムを10分間噛んで分泌される唾液量を測定)、サクソンテスト(乾いたガーゼを2分間噛んで唾液量を測定)、唾液腺造影やシンチグラフィー、口唇の小唾液腺の生検など、唾液腺そのものの機能や組織を調べる検査
- **眼科での検査**:シルマーテスト(目尻に細長い試験紙を挟み、5分間でどれだけ涙が出るかを測定)、涙液の質を調べる涙液層破壊時間(BUT)、角膜や結膜の傷を染色して観察する検査など
- **血液検査**:抗SS-A(Ro)抗体・抗SS-B(La)抗体といった自己抗体、抗核抗体、リウマトイド因子などを調べ、自己免疫の関与を確認する検査

血液検査で自己抗体が陽性であっても、それだけでシェーグレン病と確定するわけではなく、逆に自己抗体が陰性でも、唾液腺や涙腺の客観的な機能低下が認められれば診断につながることがあります。[6][7] つまり、**歯科で行う唾液の検査、眼科で行う涙の検査、内科で行う血液検査は、どれか一つで十分というものではなく、三者がそろって初めて診断の全体像が見えてくる**のです。

このため、「口が乾く」という症状で歯科を受診された段階から、「目の乾きはありますか」「関節の痛みはありませんか」といった問診を通じて、必要に応じて眼科や内科への受診をご提案することがあります。これは決して大げさな話ではなく、正確な診断のために欠かせないプロセスとしてご理解いただければと思います。

## 唾液腺造影の「アップルツリー像」につい

以前、歯科・口腔外科でよく行われていた検査に、唾液腺造影があります。耳下腺や顎下腺の開口部から直径1.5mmほどの細い管を挿入してヨード系の造影剤を約1mL注入し、レントゲン撮影を行う検査で、唾液腺の中の導管(唾液の通り道)の状態を映し出します。[8]

シェーグレン病では、この検査で唾液腺の中に点状・顆粒状の影が散らばって写ることが古くから知られています。この影が、葉の落ちた木の枝先にだけ実がついているように見えることから、「アップルツリー像(apple tree appearance)」、あるいは「branchless fruits laden tree pattern(枝のない果実のなる木様パターン)」と呼ばれてきました。[9]

**原因**:シェーグレン病では、唾液腺の導管のまわりにリンパ球が集まって慢性的な炎症を起こし、唾液をつくる腺房細胞が壊れて減っていきます。一方で、導管そのものは部分的に壊れて拡張した状態になります。造影剤は、この拡張した末梢の導管にたまり込むため、点々とした影として写し出されます。[6][9] これが、りんごの木に実がなっているように見える理由です。

**進行度**:この所見は、Rubin and Holt分類でステージI〜IVの4段階に分けられ、影の量や広がりが唾液腺の破壊の進み具合とおおむね一致するとされています。[8] つまり、アップルツリー像そのものは独立した「症状」ではなく、唾液腺の組織がどれだけ壊れているかを映し出す画像所見だとご理解ください。

**治療について**:アップルツリー像という画像所見そのものを狙って治す治療はありません。これは、すでに起こってしまった唾液腺の組織変化の「結果」を映したものであり、壊れた腺組織そのものを元通りにする治療は、現時点ではまだ確立されていないためです。そのため実際の対応は、これまでにお伝えしたとおり、サリベートなどによる口腔乾燥症状の緩和と、むし歯・歯周病の予防が中心になります。

**最近あまり聞かなくなった理由**:唾液腺造影は、日本の指定難病の診断基準(1999年)でも、唾液腺の異常所見を確認する検査の一つとして現在も位置づけられており、過去の検査というわけではありません。[6] ただし、造影剤を通すために唾液腺の開口部に細い管を挿入する必要があり、多少の痛みを伴う侵襲的な検査です。[8] そのため近年は、体への負担が少ない唾液腺エコー(超音波検査)や唾液腺MRI、唾液腺シンチグラフィーを優先して行う施設が増えており、以前に比べて「アップルツリー像」という言葉を耳にする機会自体が少なくなっているのが実情です。[6][8] 現在の日本リウマチ学会のガイドラインでも、唾液腺造影・唾液腺MRI・口唇腺生検・唾液腺シンチグラフィーなど複数の検査法が選択肢として並記されており、施設や患者さんの状態に応じて使い分けられています。[6]

## サリベートは「大切な治療」です

口の乾きに対して処方される人工唾液の代表が、サリベートエアゾールです。唾液の代わりに口の中を潤し、乾いた粘膜を保護することで、食事や会話、入れ歯を使うときの不快感をやわらげます。添付文書上も、シェーグレン症候群による口腔乾燥症の症状緩和が正式な効能・効果として認められている薬です。頭頸部への放射線治療で唾液腺が障害された場合の口腔乾燥にも使われます。[4]

使い方は、通常1回1〜2秒間口の中に噴霧し、1日4〜5回、症状に応じて回数を調整します。国内で行われた臨床試験では、シェーグレン症候群による口腔乾燥症に対して7割の方に何らかの改善がみられたと報告されています。[4] どのタイミングで使うか、何回まで増やしてよいかは、処方医・歯科医師・薬剤師の指示に沿って調整してください。

「人工唾液は根本的な治療ではない」という説明を受けることがあるかもしれません。しかし、これは「使っても意味がない」という意味ではなく、**病気そのものを治す薬ではないけれど、日々のつらさを和らげる、れっきとした治療**だということです。私たち歯科医院としても、まずはこの「困りごと」に正面から向き合うことを大切にしています。

## なぜ「乾き対策」と「歯を守る予防」を同時に行うのか

唾液には、口の中を洗い流す、酸を中和する、歯の表面を修復する(再石灰化)、粘膜を保護する、細菌やカビの増殖を抑える、といった働きがあります。唾液が減ると、これらの働きが弱くなり、口の中にさまざまな問題が起こりやすくなります。

米国歯科医師会(ADA)も、口腔乾燥を伴うシェーグレン病の患者さんに対して、局所的なフッ化物の使用を強く推奨しています。[5] これは、人工唾液で「今のつらさ」をやわらげながら、フッ化物や定期的な歯科受診で「将来の歯」を守る、という2つの対策を並行して行うことの重要性を示しています。

乾燥がつらいと、少しずつ何度も甘い飲み物を口にしたり、のど飴を手放せなくなったりすることがあります。お気持ちはよくわかるのですが、糖分を頻繁にとる習慣はむし歯のリスクを高めてしまいます。「乾きをどう和らげるか」と「歯をどう守るか」は、ぜひ歯科で一緒に考えさせてください。

## 関節の症状があるときに考えたいこと

口の乾きの相談で歯科を受診された方でも、次のような症状があるときは、全身の状態を確認しておくことをお勧めしています。

- 朝、手や指がこわばる
- 手首や足の指などの関節が腫れている
- 左右対称に複数の関節が痛む
- だるさや微熱、体重減少が続く
- 息切れ、しびれ、皮疹がある
- 耳下腺・顎下腺の腫れを繰り返す

シェーグレン病そのものでも関節の症状が出ることがありますし、関節リウマチなど他の膠原病を合併している可能性もあります。[2][3] こうした症状は、リウマチ・膠原病内科での評価が必要なサインです。

ここで大切なのは、**「内科を受診すること」と「口の乾きの治療を始めること」は、まったく別の話**だということです。「まず全身の検査が終わるまで歯科では何もできない」わけではありません。サリベートによる症状緩和や、むし歯・歯周病の予防は、内科での評価と並行して、今日からでも始められます。

## 医科歯科連携の進め方

医科歯科連携は、診断がついた後だけの話ではありません。**「診断を確定させる段階」から、すでに歯科・眼科・内科の連携は始まっています。** 歯科で唾液分泌量の低下が疑われた場合、眼科でのドライアイの検査や、内科での血液検査・自己抗体検査を受けていただくよう紹介状をお渡しすることがあります。逆に、内科や眼科でシェーグレン病が疑われ、唾液腺の検査や口唇腺の生検を目的に歯科・口腔外科へ紹介されるケースもあります。

診断がついた後、すでにリウマチ・膠原病内科にかかっていて薬の調整や病状の評価が続いている場合、抜歯や歯周外科など全身状態への配慮が必要な処置については、病院歯科や歯科口腔外科と連携すると安心です。血液検査の結果や、ステロイド・免疫抑制薬の使用状況などの情報を、歯科と内科の間で共有しやすくなるためです。

一方で、口腔乾燥のケアやフッ化物の応用、定期的なむし歯・歯周病の管理、入れ歯の調整といった日常的な歯科治療のすべてを、病院歯科だけで行う必要はありません。紹介状や診療情報提供書を通じて、かかりつけの歯科医院が継続して担当することができます。

## まとめ

- シェーグレン病は、歯科での唾液の検査、眼科でのドライアイの検査、内科での血液検査を組み合わせて総合的に診断される病気です。どれか一つの検査だけで診断が完結するわけではありません。
- 唾液腺造影で見られる「アップルツリー像」は、唾液腺の組織破壊を映し出す特徴的な画像所見ですが、それ自体に対する治療法はなく、近年は体への負担が少ない超音波検査やMRIが優先されることも増えています。
- サリベートなどの人工唾液は、シェーグレン病による口の乾きのつらさを和らげる、大切な治療です。
- 唾液が減ると、むし歯・歯周病・口腔カンジダ症・入れ歯のトラブルなどが起こりやすくなるため、フッ化物の使用や定期検診など、歯を守る予防を並行して行うことが重要です。
- 関節の痛みなど全身症状があるときは、リウマチ・膠原病内科など内科との連携が必要ですが、それは歯科での治療を先延ばしにする理由にはなりません。
- 「口の乾きを今すぐ和らげる治療」「将来の歯を守る予防」「全身の状態を評価する内科診療」——この3つを同時に進めていくことが、患者さんにとって一番安心できる形だと考えています。

気になる症状がある方は、遠慮なくご相談ください。

## 参考文献

1. 日本シェーグレン病学会.疾患について〈シェーグレン病〉.
2. 難病情報センター.シェーグレン症候群(指定難病53)—概要、診断基準・重症度分類.
3. 難病情報センター.シェーグレン症候群(指定難病53)—一般利用者向け疾患解説.
4. サリベートエアゾール 添付文書・医薬品情報(帝人ファーマ).
5. American Dental Association. Sjögren Disease. ADA Oral Health Topics.
6. 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学.シェーグレン病(Sjögren disease)—検査所見・診断基準.
7. 済生会(医療情報サイト監修記事).「シェーグレン症候群」はどんな基準で診断されるか.
8. 慶應義塾大学病院 KOMPAS.唾液腺造影法.
9. OralStudio 歯科辞書.シェーグレン症候群.

### 情報源URL
[1] https://sjogren.jp/menus/index/00068
[2] https://www.nanbyou.or.jp/entry/267
[3] https://www.nanbyou.or.jp/entry/111
[4] https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med_product?id=00057672
[5] https://www.ada.org/resources/ada-library/oral-health-topics/sjogren-disease
[6] https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/imed3/disease/d-immu04-5.html
[7] https://medicaldoc.jp/m/qa-m/qa1483/
[8] https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000369.html
[9] https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/6214

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