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キシリトールと心臓・血管の病気について ― 論文からわかること

# キシリトールと心臓・血管の病気について ― 論文からわかること

「虫歯予防にキシリトール」というのは、もう皆さんおなじみだと思います。しかし最近、「血液中のキシリトール濃度が高い人は、心筋梗塞や脳卒中が多かった」という研究結果が話題になりました。心臓や血管の持病がある患者さんから、「キシリトールガムをやめたほうがいいですか?」というご質問をいただくこともあります。

今回は、この研究で実際に何がわかり、何がまだわかっていないのかを、できるだけわかりやすく整理してみます。

## きっかけになった研究

2024年、心臓病を専門とする医学誌『European Heart Journal』に、アメリカのクリーブランドクリニックのグループによる論文が発表されました。心血管疾患の検査を受けた人たちの血液を調べたところ、血中のキシリトール濃度が高いグループは、低いグループに比べて、その後3年以内に心筋梗塞・脳卒中・死亡などの重大な出来事が起こる割合がおよそ1.6倍だった、というものです。

さらに研究チームは、実験室でヒトの血液や血小板を使った検討も行いました。血小板は、出血を止めるために集まって固まりを作る細胞ですが、必要以上に活発になると血管の中で血栓(血のかたまり)を作り、それが心筋梗塞や脳梗塞の引き金になることがあります。この実験では、キシリトール濃度が高い条件で血小板が刺激に反応しやすくなることが示されました。あわせて、10人の健康な成人にキシリトール入りの飲み物を飲んでもらったところ、摂取後に血小板の反応が強くなったとも報告されています。

## ただし、まだ「証明された」わけではない

ここで大切なのは、この研究が示したのは「血液中の濃度」と「病気の起こりやすさ」の関連であって、「キシリトールを食べたことが直接の原因である」と証明したものではない、という点です。

実は、キシリトールは食品として体に入るだけでなく、体の中の糖代謝の過程でも作られることがあります。そのため、糖尿病や肥満、心血管疾患、体の炎症といった状態があると、キシリトール製品をとっていなくても血中濃度が上がりやすい可能性が指摘されています。つまり「キシリトールが病気を起こした」のではなく、「病気になりやすい体の状態が、結果としてキシリトール濃度を上げていた」という見方もできるわけです。実際、2025年に同じ雑誌に掲載された意見論文では、こうした点から元の研究の解釈に注意が必要だと述べられています。

一方で、元の研究チームは、血中濃度と病気の関連だけでなく、血小板や動物実験、摂取後の血液変化でも血栓ができやすくなる方向のデータを示しているため、単なる「体調の目印」とは言い切れないと反論しています。

つまり現時点では、専門家の間でもまだ結論が一致していない、発展途上のテーマなのです。

## 歯科で使うキシリトールガムやフッ素配合の歯みがき剤はどうする?

当院としては、現時点でキシリトール入りの歯みがき剤や洗口液を一律にやめる必要はないと考えています。これらは口に含んだあと吐き出して使う製品なので、体に取り込まれる量はもともとごくわずかです。元論文の著者たちも、吐き出して使う口腔ケア製品は摂取量が少ないため、心血管リスクの面では問題になりにくいだろうと述べています。

キシリトールガムやタブレットについても、虫歯予防で使う量は少量を数回に分けてとるのが一般的で、今回の研究で使われた「一度に30gを摂取する」という条件とはかなり事情が異なります。神経質になりすぎる必要はないでしょう。

ただし、キシリトールは今やガムだけでなく、糖質制限をうたったお菓子や低カロリー飲料、サプリメントなど、いろいろな商品に砂糖の代わりとして使われています。複数の製品を毎日重ねてとっていると、気づかないうちに摂取量が増えている可能性はあります。

## 心臓や血管に持病のある方へ

次のような方は、キシリトールを含む食品・飲料・ガムなどを「毎日たくさん」習慣的にとることは、積極的にはおすすめしていません。

- 心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳卒中の既往がある方
- 心房細動など、血栓や塞栓症に関わる病気がある方
- 糖尿病、慢性腎臓病、肥満、高血圧、脂質異常症のある方
- 喫煙されている方
- 主治医から心血管リスクが高いと言われている方

これは「キシリトールが危険だと証明されたから」ではなく、「安全性がまだ十分に確かめられていないものを、あえて大量に習慣化するメリットが今のところ明確ではないから」という考え方です。不安な場合は、自己判断で急に食事を変えるのではなく、使っている製品の商品名や量を、主治医や当院にお見せいただければご相談に乗ります。

## 虫歯予防はキシリトールがなくてもできます

そもそも虫歯予防で一番大切なのは、キシリトールそのものではありません。

- フッ素配合の歯みがき剤で、毎日2回しっかりみがく
- 甘い飲み物やお菓子を「だらだら」と口にし続けない
- 甘いものは量だけでなく回数を意識して減らす
- 歯と歯の間をフロスや歯間ブラシで清掃する
- 虫歯になりやすい方は、歯科医院でのフッ素塗布やシーラントを活用する
- 定期的に歯科検診を受け、小さな虫歯のうちに見つけて管理する

キシリトールを使う・使わないにかかわらず、これらの基本的な習慣のほうがずっと重要です。

## まとめ

- 血中のキシリトール濃度が高い人で、心筋梗塞や脳卒中が多かったとする研究が2024年に発表されました。
- 血小板を刺激し、血栓を作りやすくする可能性も報告されています。
- ただし、キシリトールの摂取が心血管疾患を直接引き起こすと証明されたわけではなく、専門家の間でも解釈に議論があります。
- 歯みがき剤や洗口液は吐き出して使うため、一律に中止する根拠は今のところありません。
- 心臓や血管に持病のある方は、キシリトール製品を毎日大量に続けてとることには、念のため慎重になったほうがよいでしょう。
- 虫歯予防の基本は、フッ素配合歯みがき剤・糖の摂取回数を減らすこと・歯間清掃・定期検診です。

ご不安な点や、普段お使いのガム・タブレット・サプリメントについてご相談がありましたら、診療時にお気軽にお尋ねください。

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### 参考文献

1. Witkowski M, Nemet I, Li XS, et al. Xylitol is prothrombotic and associated with cardiovascular risk. *European Heart Journal*. 2024;45(27):2439-2452. doi:10.1093/eurheartj/ehae244. PMID: 38842092
   https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38842092/

2. Valentine GC, Söderling E, Milgrom P. Oral health benefits and safety of xylitol and potential cardiovascular risk: questioning the validity of the model of Witkowski et al. *European Heart Journal*. 2025;46(27):2705-2706. doi:10.1093/eurheartj/ehaf058
   https://academic.oup.com/eurheartj/article/46/27/2705/8069562

3. Witkowski M, Hazen SL. Xylitol and cardiovascular risks. *European Heart Journal*. 2025;46(27):2707-2708. doi:10.1093/eurheartj/ehaf059
   https://academic.oup.com/eurheartj/article/46/27/2707/8069563

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