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お口の細菌が教えてくれるお腹のSOS 〜唾液と便から消化器がんを見つける 最新研究〜

お口の細菌が教えてくれるお腹のSOS

〜唾液と便から消化器がんを見つける

最新研究〜

はじめに

「お口の健康は体全体の健康とつながっている」——最近そんな話をよく耳にするようになりました。虫歯や歯周病が心臓病や糖尿病に関係することは、これまでも度々お話ししてきましたが、今回ご紹介するのは、お口の細菌と「胃がん」「大腸がん」といった消化器がんとの関係についての最新研究です。2026年8月に発表されたばかりの論文をもとに、なるべくわかりやすくご説明します。

お口の細菌が腸まで届く?「口-腸連関」とは

私たちは毎日1〜1.5リットルもの唾液を飲み込んでいます。その唾液の中には、お口の中にすむ無数の細菌も一緒に含まれています。

健康な状態であれば、これらの細菌は胃酸や胆汁という強力なバリアによってほとんどが死滅し、腸まで生きて届くことはありません。しかし、次のような条件が重なると話は変わってきます。

  • 加齢による体の変化
  • 胃薬(胃酸を抑える薬)の長期服用による胃酸の低下
  • 歯周病が進行し、口の中の悪玉菌が大量に増えている
  • 腸内環境の乱れ(ディスバイオーシス)

こうした要因が重なると、本来は死滅するはずの口腔細菌が生きたまま腸まで到達し、そこに定着してしまうことがあるのです。この「お口から腸への細菌の移動」は「口-腸連関(oral-gut axis)」と呼ばれ、近年の研究で注目されているメカニズムです。

最新論文が示したこと

今回ご紹介する研究では、次のようなことが明らかになりました。

① 口から腸へ移動した細菌の「痕跡」に着目したこと 口腔細菌が腸内に定着すると、腸内細菌叢(腸内フローラ)の中に特徴的な「サイン(シグネチャー)」が残ります。研究チームはこの痕跡を詳しく解析しました。

② 内視鏡を使わない、体にやさしい検査での高精度診断 便や唾液に含まれる細菌の情報(マイクロバイオームデータ)を解析することで、胃がんや大腸がんを高い精度で早期に発見できる可能性が示されました。

③ 早期がんの段階から特定の菌が関わっていること 大腸ポリープ(腺腫)や早期の大腸がんの段階から、歯周病の原因菌として知られる**フソバクテリウム(Fusobacterium nucleatum)アトポビウム・パルブルム(Atopobium parvulum)**といった口腔細菌の関与が確認されました。

なぜ口の菌ががんに関係するのか

歯周病菌の代表格であるフソバクテリウムは、腸の粘膜に強力に付着する性質を持っています。この菌が腸に定着すると、

  • 慢性的な炎症を引き起こす
  • がん細胞を免疫細胞の攻撃から守ってしまう

といった働きをすることで、がんの成長を後押しすることがこれまでの研究でわかってきました。今回の研究は、こうした「口から腸へ移動する細菌の動き方(移行パターン)」そのものを、がんを早期発見するための手がかりとして活用できることを示した点が新しいところです。

歯科医師としての考察

お口は「消化管の入り口」であり、外の世界から細菌が体内に入り込む最前線です。

これまで歯科は「虫歯や歯周病を治して、しっかり噛めるようにする場所」というイメージを持たれることが多かったと思います。しかし、この研究をはじめとする近年の基礎・臨床研究が示しているのは、歯周病を放置してお口の中の悪玉菌を増やし続けることが、消化器がんだけでなく、非アルコール性脂肪肝(MASLD)や炎症性腸疾患(IBD)といった病気の発症・重症化リスクにも直結しているということです。

日々の丁寧な歯みがきや舌のケア、そして歯科医院での専門的な歯周病治療・定期的なメインテナンス(プロフェッショナルケア)によってお口の細菌をコントロールすることは、単にお口の健康を守るだけではありません。それは「腸内環境を守り、消化器がんを未然に防ぐ、全身の予防医療」そのものだと言えるのです。

「お口をきれいに保つことが、お腹と全身の健康を守る第一歩」——このことを、日々の診療や地域医療の現場から、これからも発信していきたいと思います。

参考文献

  • Jang, L. G., Huh, J. W., Kim, S., et al., Lee, Y. C., Jee, S. H., & Kim, J. F. (2026). Mouth-to-gut microbial transmission signatures enable robust, non-invasive diagnosis of gastrointestinal cancers. Clinical and Translational Report.
  • 日暮琢磨(2026)「歯周病と消化器がんをつなぐ新しい視点 ―疫学・臨床研究からみた口腔細菌叢の意義」『実験医学 増刊』Vol.44 No.12, pp.92-97.
  • 柴知史(2026)「消化器がんと口腔細菌叢との関連メカニズム」『実験医学 増刊』Vol.44 No.12, pp.163-169.
  • 山崎和久(2021)「口腔細菌叢 健常と病気を操るもう一つの生態系」『実験医学』Vol.39 No.16, pp.2502-2507.
  • 鎌田信彦(2021)「口腔細菌叢と炎症性腸疾患」『実験医学』Vol.39 No.16, pp.2532-2537.

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