骨粗しょう症のお薬を飲んでいると、骨折の治りは遅くなるの?
# 骨粗しょう症のお薬を飲んでいると、
骨折の治りは遅くなるの?
## こんな不安をお持ちの方へ
「骨粗しょう症のお薬を飲んでいるけれど、もし骨折したら治りが遅くなるのでは…」
「骨折したばかりなのに、骨粗しょう症の薬を新しく始めて大丈夫なの?」
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診療の中で、患者さんからこうしたご心配の声をうかがうことがあります。今回は、2026年に医学雑誌「The Lancet Healthy Longevity」に発表された最新の研究をもとに、この疑問について歯科医師の立場からわかりやすくご説明します。
## そもそも、なぜ「治りが遅れる」と心配されるのか
骨粗しょう症の治療によく使われる「ビスホスホネート」というお薬は、骨を壊す働きをする細胞(破骨細胞)のはたらきを抑えることで、骨がもろくなるのを防ぎます。
骨折が治る過程では、いったん壊れた骨が新しく作り直される「リモデリング」という現象が必要です。ビスホスホネートは骨の代謝(壊しては作る、というサイクル)をゆっくりにするお薬なので、「骨折の治癒に必要なリモデリングまで抑えてしまうのでは」という懸念が、長年にわたり議論されてきました。
## 大規模な調査でわかったこと
この疑問に答えるため、研究チームは世界中の研究データを集めて解析しました。骨折をした大人の患者さんを対象とした28件、合計5,085人分の研究をまとめて検討し、そのうち数値として統合できた12件について、詳しい統計解析(メタ解析)が行われました。
### ビスホスホネートについて
結果として、ビスホスホネートを使っているグループと使っていないグループを比べても、骨がくっつくまでの期間に、はっきりとした差は見られませんでした。骨のつきが悪い状態(遷延癒合)や、骨が最終的にくっつかない状態(偽関節)についても、明らかな差は確認されませんでした。
つまり、「骨粗しょう症のお薬を飲んでいるから骨折が治らない」と、過度に心配する必要はなさそうだということです。
骨折の後は、実は次の骨折が起こりやすい時期でもあります。「治りが心配だから」という理由だけで骨粗しょう症の治療を先延ばしにすることは、かえって次の骨折のリスクを高めてしまう可能性がある、という点も知っておいていただきたいポイントです。
なお、今回の結果は「どんな患者さんの、どんな骨折でも絶対に安全」と言い切るものではありません。特にまれなケースについては、今回のデータだけで完全に否定できるほど精密な結果ではない、という点も正直にお伝えしておきます。
### 骨を作るタイプのお薬(テリパラチド)について
一方、骨粗しょう症の治療薬の中には、骨を壊す働きを抑えるタイプだけでなく、骨を新しく作る働きを助けるタイプの「テリパラチド」というお薬もあります。
こちらについては、使っていないグループに比べて、骨がくっつくまでの期間が統計的にはっきりと短くなる、という結果が出ました。
ただし、これがどのくらいの期間の差(日単位なのか、週単位なのか)を意味するのかは、元の論文の要約だけでははっきりとわかりませんでした。そのため「テリパラチドを使えば必ず〇日早く治る」と具体的にお伝えすることは、正確ではないため控えさせていただきます。
また、テリパラチドを使っても、骨のつきが悪い状態(遷延癒合)そのものが明らかに減るわけではなく、股関節の骨折で用いられる画像上の評価スコアにも、はっきりとした改善は見られませんでした。ですので、「テリパラチドを使えば骨折治癒のすべての面で必ず改善する」とまでは言い切れません。
## この研究の限界について、正直にお伝えします
今回の研究では、集められた28件の研究のうち、実際に数値として統合できたのは12件にとどまりました。これは、骨折した場所、手術をしたかどうか、固定の方法、お薬の種類や量、開始した時期、「治った」と判断する基準などが、研究ごとにバラバラだったためです。
例えば、手首の骨折と、太ももの付け根の骨折とでは、骨にかかる力も、血の巡りも、患者さんの年齢や体力も大きく異なります。これらを一つの結果としてまとめて論じることには、もともと限界があります。
さらに、実際の臨床の現場では、体力が落ちている方、栄養状態がよくない方、認知機能に不安のある方など、研究の対象から外れやすい患者さんも多くいらっしゃいます。今回の研究結果を、そのままご自身の状況にあてはめて考えるのではなく、あくまで一つの参考情報としてとらえていただければと思います。
## まとめ
- 骨を壊す働きを抑えるタイプのお薬(ビスホスホネート)は、骨折の治りをはっきりと遅らせる、という結果は今回のデータからは示されませんでした。
- 骨を作る働きを助けるタイプのお薬(テリパラチド)は、骨がくっつくまでの期間を短くする可能性が示されましたが、すべての指標で改善するわけではありません。
- どちらのお薬を使うか、続けるかどうかは、骨折の治りの早さだけでなく、次の骨折のリスク、骨粗しょう症の重症度、全身の状態などを総合的に考えて、担当の医師と相談しながら決めていくことが大切です。
歯科の立場から見ても、しっかり噛んで食べることは、骨や筋肉を維持していくうえでとても重要です。骨粗しょう症の治療や骨折のご心配がある方は、どうぞ遠慮なくご相談ください。
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## 参考文献
1. Agarwal N, Bell KR, Ross LE, Clement ND, Ralston SH, Duckworth AD. The effects of anti-osteoporotic medication on fracture healing and outcomes: a systematic review and meta-analysis. *Lancet Healthy Longev.* 2026;7(5):100827.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42229491/
2. Shin YH. Effect of Osteoporosis Medication on Fracture Healing: An Evidence Based Review. *J Bone Metab.* 2020;27(1):15-26.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7064359/
3. エディンバラ大学によるプレスリリース「Study finds osteoporosis medications do not delay fracture healing」
https://usher.ed.ac.uk/news-events/news/study-finds-osteoporosis-medications-do-not-delay-fracture-healing
4. Impact of osteoporosis and osteoporosis medications on fracture healing: a narrative review. *Osteoporos Int.* 2024.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38587674/
