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「わさび」の中に隠れた"サビ"を落とす? お寿司の名脇役と認知症研究の意外な関係

# 「わさび」の中に隠れた"サビ"を落とす? お寿司の名脇役と認知症研究の意外な関係

お寿司でおなじみの本わさびの香り成分「ヘキサラファン」が、アルツハイマー病に関わる異常なタウタンパク質を減らす可能性が、細胞とマウスの研究で報告されました[1]。
- ただし今回はあくまで基礎研究の段階。「わさびを食べれば予防・治療できる」という話ではありません。
- 面白いのは、その"減らし方"の発想です。今回は詳しく解説します。

## 実は「わさび」という言葉に、ヒントが隠れている

日本語の「わさび」、よく見ると中に「サビ」という文字が隠れているのをご存知でしょうか(単なる偶然の語呂合わせですが)。

実はこの記事でご紹介する研究、まさに脳の中の"サビ"を落とすような話なのです。もちろん金属のサビとは違いますが、神経細胞の中に溜まった「余計なもの」を取り除く——そんなイメージで読んでいただくと、少し親しみやすくなるかもしれません。

きっかけは、スペイン・バスク地方の研究チームが2026年に学術誌『Redox Biology』で発表した論文です[1]。本わさび(*Wasabia japonica*)に含まれる「ヘキサラファン」という成分が、アルツハイマー病の原因の一つとされる異常なタウタンパク質を減らす可能性を示したというのです。

## 脳の中で起きている「付箋の貼りすぎ」問題

私たちの神経細胞の中には「タウタンパク質」という物質があります。これは細胞内で物質を運ぶレールのような構造(微小管)を支える、いわば縁の下の力持ちです。

ところが加齢やアルツハイマー病の過程で、このタウに「リン酸」という目印が過剰に貼り付いてしまうことがあります。これを**過剰リン酸化**と呼びます。

イメージとしては、レールの支柱に付箋(リン酸)がどんどん貼られていく状態です。少しなら問題ありませんが、貼られすぎると支柱はもつれて塊になり、「神経原線維変化」という異常な構造をつくってしまいます。この結果、神経細胞同士の連絡が滞り、炎症や神経細胞の障害、そして記憶力の低下へとつながると考えられています[1]。

これが、冒頭の"サビ"の正体です。金属を放っておくとサビつくように、脳の中でもタウというレールに、時間とともに"サビ"(過剰なリン酸)が溜まっていく——そんなふうに捉えると、今回の研究の面白さが見えてきます。

## 「貼らせない」ではなく「剥がす」という発想

これまでのアルツハイマー病研究では、タウにリン酸を**貼る**酵素(GSK-3βというキナーゼが代表格)を抑え込む薬の開発が数多く試みられてきました。いわば「サビをつけさせないよう、あらかじめ塗装しておく」作戦です。

一方、今回の研究が着目したのは逆側、リン酸を**剥がす**酵素「PP2A(ホスファターゼ)」でした。ヘキサラファンはこのPP2Aの働きを高めることで、すでについてしまった"サビ"を落とす方向に作用する可能性が示されたのです[1]。予防ではなく、後片付けを手伝う。この発想の転換こそが、今回の研究のユニークなところです。

## マウスの脳では、実際にこんな変化が

アルツハイマー病の病態を再現したマウス(APP/TAUマウス)にヘキサラファンを口から投与したところ、研究チームは次のような変化を報告しています[1]。

- 大脳新皮質・海馬・脳幹で異常なリン酸化タウが減少
- 神経の炎症を示す指標が改善
- シナプスの柔軟性(記憶を作る神経細胞同士のつながりの変化)が保たれる傾向
- 記憶に関わる行動テストや運動機能テストの成績が改善
- 血液中のp-tau217(近年注目されているアルツハイマー病の血液バイオマーカー)の値が低下

特に最後のp-tau217は、将来「血液検査だけでアルツハイマー病の進行度がわかる」時代を見据えて世界中で研究が進んでいる指標です[1]。マウスの実験とはいえ、薬剤投与でこの値が下がったというのは、研究者にとってかなり気になるデータといえます。

## で、結局わさびをたくさん食べればいいの?

ここが今日一番お伝えしたいポイントです。

**結論から言うと、現時点で「わさびを食べればアルツハイマー病を予防・治療できる」とは言えません。**

理由はシンプルで、今回の研究で使われたのは食品としてのわさびそのものではなく、成分を抽出・精製した「ヘキサラファン」であり、それをマウスに計画的な量で投与した実験だからです。食事として摂ったわさびの中のヘキサラファンが、同じように脳まで届くのか、どれくらいの量が必要なのか、そもそも人で安全なのかは、まだ何もわかっていません[1]。

つまり今回の話は、「わさびの成分が新薬のヒントになるかもしれない」という基礎研究段階のニュースであって、「わさびを食べる健康法」の話ではないのです。お寿司を食べるとき、わさびを気持ち多めにのせても罰は当たりませんが、それで認知症が防げるわけではない——そこは冷静に受け止めていただければと思います。

## 歯科医院からひとこと——「食べる」を守るという視点

私たちのように、日々「食べる」ことに関わる歯科医の立場から見ても、この研究は面白い切り口だと感じます。将来もし治療薬につながったとしても、それを活かすためには、噛んで飲み込んで栄養を摂る力——つまり口腔機能——がしっかり保たれていることが前提になります。

認知症予防として現時点で科学的に支持されているのは、やはり地道な生活習慣です。

- バランスの良い食事(よく噛んで食べること自体にも意味があります)
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- 人との交流
- 高血圧・糖尿病など生活習慣病の管理

脳のサビは、わさびひとさじでは落とせません。けれど、毎日の「よく噛んで、よく食べる」という習慣は、確実に積み重なっていきます。わさびは食事を彩る名脇役として楽しみつつ、今回の研究は「将来の治療薬につながるかもしれない、面白い基礎研究」として気軽に受け止めていただくのがよいでしょう。

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### 参考文献

García-Yagüe ÁJ, Carnicero-Senabre D, Núñez Á, et al. Hexaraphane as a potential therapeutic strategy for tauopathies. *Redox Biology.* 2026;92:104107. PMID: 41785736 / PMCID: PMC12969043
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12969043/

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