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赤ちゃんの「マンマ」はなぜ世界共通語なの?――お口の発達から見えてくる理由

#赤ちゃんの「マンマ」は

なぜ世界共通語なの?

――お口の発達から見えてくる理由

「マンマ」という言葉、実は世界中どこの国に行っても、赤ちゃんが「食べ物」や「お母さん」を指す言葉として使われています。国も言語も違うのに、なぜこんなに似た音になるのでしょうか。

その答えは、赤ちゃんの「お口の働き(口腔機能)」の発達過程にあります。今日は、歯科医師の視点から、そのしくみを分かりやすくご紹介します。

## お口には「食べる」と「話す」という2つの大切な役割がある

私たちのお口には、大きく分けて2つの働きがあります。ひとつは、文化に根ざした食事をとる「食べる」機能。もうひとつは、言葉で人とコミュニケーションをとる「話す」機能です[1,2]。

一見別々の働きのように思えますが、実はこの2つは深く結びついています。赤ちゃんが言葉を話せるようになっていく過程は、「食べる機能」の発達ととても密接に関わっているのです。

## ステップ1:意味のない声、喃語(なんご)から始まる

生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ意味のある言葉を話せません。機嫌のよいときに出す「アーアー」という声は、「喃語」と呼ばれるものです。このとき赤ちゃんは、下あごを固定したまま声を出しています。

## ステップ2:下あごが動き出すと、声が変化する

成長するにつれて、赤ちゃんは「アーアー」と声を出しながら下あごを動かせるようになります。すると口や頬が共鳴して、「アウアウアウ」「アグアグアグ」というような音に変わっていきます。

## ステップ3:離乳食を通じて「くちびるを閉じる」動きを覚える

離乳食が始まると、赤ちゃんはスプーンから食べ物を取り込み、上下のくちびるをしっかり閉じてしごき取り、飲み込む(嚥下する)という動きを練習します[3,4]。

ここがポイントです。「マ行・バ行・パ行」の音は、発音する瞬間に必ず一度上下のくちびるを閉じなければならない「口唇音(こうしんおん)」と呼ばれる音です。試しに口を開けたまま「マミムメモ」と言おうとしても、うまく発音できないはずです。

## ステップ4:「アウアウ」と「くちびるを閉じる」が組み合わさり「マンマ」になる

下あごを動かして「アウアウアウ」と声を出す動きに、離乳食で身につけた「くちびるを閉じる」動きが加わると、「ンマ・ンマ・ンマ」という音になり、やがて「マンマン」「マンマ」と聞こえるようになっていきます。

## なぜ「お母さん」や「食べ物」を意味するようになったのか

「お母さん」と「食べ物」は、赤ちゃんが生きていくうえで最も欠かせない存在です。人間を含む哺乳類は、母乳を飲んだり食事をとったりするなかで、くちびるを使う機能を発達させていきます。その発達過程で、赤ちゃんにとって最も自然に出しやすい口唇音が「マンマ」だったのです。

つまり、「くちびるを閉じて食べる・飲む」という生きるために必須の機能の発達と、赤ちゃんが最初に求める存在である「お母さん・食べ物」とが結びついたことで、「マンマ」が世界共通の赤ちゃん言葉になったと考えられています。

## コラム:「パパ・ママ」はすぐ言えるのに、「じいじ」はどうして遅いの?

ここで、言葉の発達に関する興味深い研究を紹介します。1972年、言語学者サンダー(Sander)が行った大規模な研究により、子どもが言葉の音(音素)を獲得していく年齢には、音の種類ごとにはっきりとした順番があることが分かっています[5,6]。

最初に獲得されるのは、「パパ(p)」「ママ(m)」「ババ(b)」といった口唇音です[6,7]。早い子では1歳半頃から出始めます[6,8]。くちびるの動きは目で見えるため、赤ちゃんにとってもまねしやすく、いちばん早く身につく音なのです[7]。

一方、「じいじ(j/z)」のような摩擦音は、口の中に絶妙なすき間を作って息を出す、非常に複雑な動きが必要です[6,9]。そのため、しっかり発音できるようになるのは早くても3歳半頃、遅い場合はさらに後になります[6]。

おじいちゃんが「パパやママ、おばあちゃんは呼んでくれるのに、自分だけなかなか呼んでもらえない…」と寂しく感じるのは、決してお孫さんの愛情が足りないからではありません。単純に「じいじ」という発音が、お口の機能としてまだ難しい段階だから、というわけです[6,10]。もし早く呼んでほしければ、「ディディ」のように、赤ちゃんが発音しやすい音に変えてあげると、案外早く呼んでもらえるようになるかもしれませんね[11]。

## 余談:チンパンジーも同じ口唇音を話した

人間に育てられ、言葉の訓練を受けた知能の高いチンパンジーが、最終的に発音できるようになった言葉はわずか4つ、「ママ」「パパ」「アップ」「カップ」でした。これらもすべて、同じ口唇音だったそうです。

赤ちゃんの何気ない「マンマ」という一言には、お口の発達というきちんとした裏付けがあります。離乳食を通じてくちびるを使う練習をすることは、食べる機能だけでなく、言葉の発達にもつながっているのですね。

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## 参考文献

1. Babbling - Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Babbling
2. The Speech Language Center. Developing the M, B, and P Sounds. https://www.thespeechlanguagecenter.com/developing-the-m-b-and-p-sounds/
3. Speech and language development from birth to 12 months - Great Ormond Street Hospital. https://www.gosh.nhs.uk/conditions-and-treatments/procedures-and-treatments/speech-and-language-development-birth-12-months/
4. What Sounds Develop First? - Enrichment Therapies. https://enrichmenttherapies.com/what-sounds-develop-first/
5. Why Do Babies Babble? The Science Behind Early Speech. https://daily-kids-activities.com/en/blog/why-do-babies-babble
6. Sander, E.K. When are speech sounds learned? Journal of Speech and Hearing Disorders, 1972, 37:55-63.

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