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恐竜は石を飲みこんで「奥歯」を作っていた?〜2億年前の知恵とヒトの歯を比べてみる

恐竜は石を飲みこんで

「奥歯」を作っていた?

〜2億年前の知恵とヒトの歯を比べてみる

ちょっと想像してみてください。あなたが何十トンもある巨大な恐竜で、毎日大量の木の葉や枝を食べなければならないのに、口の中には鉛筆の芯ほど細い歯しかなかったら、どうやって食事をすませますか。

これは空想の話ではありません。竜脚類と呼ばれる首の長い巨大な草食恐竜たちが、実際に抱えていた問題です。彼らの化石には、人間のような「すりつぶす奥歯」がはっきり見当たりません。それなのに、糞石(消化された食べ物の化石)を調べると、未消化のものはほとんど残っておらず、きれいに消化されていたことがわかっています。歯でかみつぶせないのに、消化はきちんとできている。これはちょっとした謎です。

その謎を解く鍵として注目されてきたのが「胃石(いせき)」です。恐竜の化石のそばから、周りの地層には見られないはずの丸くなめらかな石が見つかることがあります。三重県総合博物館の解説によると、恐竜はこうした石をのみこんで胃の中に持ち、胃が動くたびに石同士がゴロゴロとこすれ合うことで、食べた葉っぱをすりつぶしていたと考えられています。

つまり、奥歯がない代わりに、胃の中に「石臼(いしうす)」を持っていたようなものです。口でかむかわりに、体の中でかんでいた、と言ってもいいかもしれません。

この話、実は恐竜だけのものではありません。今も身近な動物がこの技を使っています。鳥は砂のうという器官に小石を蓄え、まるで小さなミキサーのように食べ物を砕きますし、ワニも胃の中に石を持つことが知られています。歯でじゅうぶんにかめない動物たちが、それぞれ独自の工夫で乗り切ってきたのだと思うと、進化のたくましさを感じます。

ただ、ここで終わらないのが研究の面白いところです。「すべての巨大恐竜が、鳥と同じくらいしっかり石ですりつぶしていたのか」というと、どうもそう単純ではないようです。Wings と Sander による研究では、竜脚類から見つかる胃石の量を調べたところ、現代の鳥が持つ本格的な「すりつぶし装置」と比べてかなり少なく、石の質量は体重の0.1%にも満たないことがわかりました(鳥は約1%)。

ということは、竜脚類は石でガリガリすりつぶすというより、食べ物を消化管に長くとどめて、じっくり時間をかけて発酵・消化させていた可能性のほうが高いのかもしれません。何百キロもの植物を、いわば「ゆっくり煮込む」ように消化していたとしたら、なんともダイナミックな話です。

さて、ここからが私の出番です。私たちヒトの口の中には、食べ物をかみ切る前歯、引き裂く犬歯、そしてすりつぶす臼歯(奥歯)がそろっています。恐竜が体の中に石を飲みこんでまで手に入れようとした「すりつぶす力」を、私たちは生まれつき口の中に備えているのです。これは考えてみると、ものすごく贅沢なことではないでしょうか。

童話『オオカミと七匹の子ヤギ』には、お腹に石を詰められたオオカミが、その重みで池に沈んでしまう場面があります。もし人間も食べ物を消化するために石をのみ込まなければならなかったら、と思うとぞっとしますが、私たちにはその心配がありません。奥歯がしっかり仕事をしてくれているからです。

よくかむことには、食べ物を細かくして飲みこみやすくする、消化液とよく混ざって消化をスムーズにする、胃腸への負担を減らす、といった働きがあります。むし歯やかみ合わせの不調、歯を失ったままの放置などで奥歯がうまく機能しないと、本来お口の中で済ませるはずの「すりつぶし」が不十分になり、結果として胃腸にしわ寄せがいってしまいます。

恐竜は、何百万年もかけて石を飲みこむという工夫にたどり着きました。一方私たちは、生まれながらにその答えを口の中に持っています。だとすれば、毎日の歯みがきと定期検診は、その貴重な「天然のすりつぶし装置」を錆びつかせないための、当たり前だけれど見過ごされがちなメンテナンスだと言えそうです。

次に食事のとき、ひとくち多めにかんでみてください。その何気ない一かみの裏には、2億年前から続く生き物たちの「どうやって食べ物を細かくするか」という壮大な試行錯誤の歴史が詰まっているのです。

参考文献

  1. 岡崎好秀.「No.8. 恐竜は胃に石を持っていた?」『ドクター岡崎のおもしろ歯学』http://www.teeth.co.jp/shigaku/article/08072006000013.html
  2. 三重県総合博物館.「ギザストーン(恐竜の胃石)」https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/MieMu/82946046633.htm
  3. Wings O. Identification, Distribution, and Function of Gastroliths in Dinosaurs and Extant Birds with Emphasis on Ostriches. Dissertation, University of Bonn, 2004. https://bonndoc.ulb.uni-bonn.de/xmlui/handle/20.500.11811/2110
  4. Wings O, Sander PM. No gastric mill in sauropod dinosaurs: new evidence from analysis of gastrolith mass and function in ostriches. Proc Biol Sci. 2007;274(1610):635-640. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17254987/

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