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口の中が勝手に動く? 「口腔ジスキネジア」を歯科医師が解説します

口の中が勝手に動く?

「口腔ジスキネジア」を歯科医師が解説します

「最近、舌が勝手にモゴモゴ動く気がする」「口がひとりでに動いてしまう」「入れ歯がいきなり合わなくなった」——そんなお悩みを患者さんから聞くことがあります。

こうした症状の背景には、**口腔ジスキネジア(こうくうジスキネジア)**と呼ばれる状態が含まれることがあります。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、最初に歯科へ相談されるケースも少なくない症状です。今回はこの「口腔ジスキネジア」について、できるだけわかりやすくお話しします。

口腔ジスキネジアってどんな症状?

ジスキネジアとは、自分の意思とは関係なく体が動いてしまう不随意運動の一種です。このうち、口の周り・舌・唇・下顎などに現れるものを口腔ジスキネジア(または口部ジスキネジア)と呼びます。

具体的には、次のような動きとして現れることがあります。

  • 舌が前に出たり、左右になめるように動く
  • 食べていないのに口がモグモグと動く
  • 唇をすぼめたり、吸い込むような動きを繰り返す
  • 顔がしかめ面になる、まばたきを繰り返す

患者さんご本人は「口の中が落ち着かない」「舌が浮いている感じ」「何もしていないのに歯に当たる」などと表現されることもあります。また、睡眠中は症状が消えるのが口腔ジスキネジアの大きな特徴です。

なぜ起こるの? 薬・加齢・病気、さまざまな原因があります

口腔ジスキネジアの原因はひとつではありません。大きく分けると「薬剤性」と「それ以外」があります。

① 薬の副作用(遅発性ジスキネジア)

もっとも重要な原因が、薬の副作用です。

脳内にはドパミンという神経伝達物質があり、抗精神病薬はドパミンが受容体に結合するのを妨げることで症状を改善します。しかし受容体が長期間ブロックされ続けると、細胞はドパミンを受け取ろうとして受容体の数を増やします。その結果、ドパミンによる刺激が過剰になり、不随意運動が起きると考えられています。 この流れで起きるものを遅発性ジスキネジアと呼びます。

症状は薬を使い始めてから通常3か月以上経って現れ、数年単位の長期間が経ってから現れることもあります。

原因薬剤として代表的なのは抗精神病薬(統合失調症・双極性障害などに使われる薬)ですが、抗精神病薬のほかにも制吐剤(吐き気止め)や抗てんかん薬、抗うつ薬などで現れることもあります。 

また、非定型抗精神病薬(新しいタイプ)は定型抗精神病薬(古いタイプ)よりも発症リスクが低いとされています。 

一つ大切なお願いがあります。気になる症状があっても、薬を自己判断で中止・減量することは危険です。自己判断で薬を中断すれば、もとの病気の症状が悪化することもありますから、必ず主治医に相談してください。

② 薬以外の原因

口腔ジスキネジアの原因としては、統合失調症・アルツハイマー・認知症・自閉症・知的障害など、さまざまな中枢神経系の病態が関与していると考えられています。 また、パーキンソン病・ハンチントン病・脳梗塞なども原因となることがあります。

さらに、不適合義歯の装着が特発性口腔顔面ジスキネジアの危険因子であるという報告もあります。加えて、加齢そのものによって口元の不随意運動が出てくることもあります。

歯科医院で気づくことが多いのはなぜ?

口腔ジスキネジアが最初に「歯の問題」として気づかれる理由があります。この症状は、歯科医師が毎回じっくりと観察する部位——口・舌・唇・顎——にまさに現れやすいからです。

不随意運動により生じる問題として、歯の咬耗(歯が削れること)、義歯の損傷、口腔粘膜の咬傷(歯によるかみ傷)、発語障害、嚥下障害などがあります。 

つまり、「入れ歯の調子が急に悪くなった」「口の中に傷ができやすくなった」「食べ物が飲み込みにくい」というお悩みで来院された方が、実は口腔ジスキネジアだったというケースは珍しくありません。義歯の調整を繰り返しても改善しない場合は、別の角度からの視点が必要になります。

似た症状との見分け方

口の中のトラブルにはさまざまな原因があり、似た症状でも別の病態のことがあります。

口腔・顔面ジストニア:ジスキネジアと同じ不随意運動の仲間ですが、筋肉が持続的に収縮・緊張する点が異なります。繰り返す動きではなく、ねじれや突っ張りが特徴です。

ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり):主に咬む筋肉の活動が中心で、舌や唇の反復運動とは性格が異なります。なお、一部の抗うつ薬(SSRIなど)がブラキシズムを引き起こすことは報告されていますが、これは遅発性ジスキネジアとは別のメカニズムです。

顎関節症:顎の痛み、開口しにくい、関節のカクカク音が主な症状です。

舌痛症・口腔異常感症:「ヒリヒリする」「何か入っている感じ」という感覚の異常が前面に出ます。

これらはそれぞれ原因も対処法も異なります。「なんとなく口が変」と感じたら、自己判断せずにご相談ください。

歯科受診のときに役立つこと

口腔ジスキネジアを含む不随意運動の評価に、お薬手帳はとても重要です。歯科受診の際、内科・精神科・神経内科など他科からの処方も含めてお持ちいただけると、原因の整理に役立ちます。

また、症状がいつ頃から始まったか、どのタイミングで薬が変わったかを覚えておくと、担当医師への説明がしやすくなります。「動いている様子をスマートフォンで動画撮影しておく」ことも、診断に役立つことがあります。

歯科医師は「口の中の専門家」ですが、口の動きの異常には神経内科的な背景や薬の影響があることもあり、必要に応じて神経内科・精神科などへのご紹介も行います。

まとめ

「口が勝手に動く」「舌が落ち着かない」「入れ歯が急に外れやすくなった」——こうした症状は、単なる老化や義歯の問題ではないこともあります。口腔ジスキネジアという一つの可能性を頭の片隅に置いていただき、気になることがあればお気軽にご相談ください。

受診の際はお薬手帳をご持参いただけると、より丁寧な対応ができます。

参考文献

  1. Bendahan N, et al. The Spectrum of Abnormal Tongue Movements: Review of Phenomenology, Etiology, and Differential Diagnosis. Mov Disord Clin Pract. 2025.
  2. 厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル「ジスキネジア」. 2006.(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1c22.pdf)
  3. 日本医事新報社. 遅発性ジスキネジア[私の治療].(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_22222)
  4. 口腔ジスキネジア. 時事メディカル 家庭の医学.(https://medical.jiji.com/medical/011-1301-01)
  5. 遅発性ジスキネジアについて. メディカルノート.(https://medicalnote.jp/diseases/遅発性ジスキネジア)
  6. 遅発性ジスキネジアが起こるしくみ. サーチライト.(https://td-searchlight.jp/about/cause.html)
  7. Sato S, et al. Clinical Characteristics of Functional Movement Disorders in the Stomatognathic System. Front Neurol. 2020;11:123.
  8. 顎口腔系にみられるジストニア,ジスキネジア. 顎関節誌 2010;32(3):91.

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