国民皆歯科健診――2026年5月、国が本格的な議論を始めました
国民皆歯科健診――2026年5月、国が本格的な議論を始めました
「国民皆歯科健診って、もう義務になるの?」――最近、こう聞かれることが増えました。
結論から言うと、まだ何も決まっていません。2026年5月11日、厚生労働省で「歯科健診等のあり方等に関する検討会」の第1回会議が開かれました。これは義務化の通達ではなく、「どんな制度にするか」を専門家が本格的に話し合い始めた、という節目の出来事です。第2回は6月22日に予定されており、議論はこれからが本番です。
■ 会議で話し合われたこと
第1回の議題は主に2つでした。ひとつは「歯科健診を取り巻く現状と今後の進め方の整理」。もうひとつが「簡易な口腔スクリーニングを用いた歯科健診」。全員に専門的な検査を行うのではなく、まず簡単なふるい分けで問題のある方を見つけ、歯科医院につなぐ仕組みを最初から具体的な選択肢として検討しています。
■ なぜ国は今、歯の健診を広げようとしているのか
背景には、口の健康が全身の健康に深く関わるという認識の広まりがあります。歯周病は糖尿病や心臓病との関連が報告されており、噛む力・飲み込む力の衰え(オーラルフレイル)が体全体の老化の入り口になりうることも、少しずつわかってきました。
ところが今の制度には大きな「すき間」があります。子どもの頃は乳幼児健診や学校の歯科検診がありますが、社会人になると公的に受ける機会はぐっと減ります。市区町村の歯周疾患検診の受診率は全国で約5%にとどまっており、せっかくの制度が多くの人に届いていないのが実情です。
■ 問題点と課題――簡単には進まない理由
この制度にはまだ解決されていない大きな論点がいくつもあります。
費用を誰が払うのかが決まっていません。国・自治体・健康保険・事業主・本人のどこが主に負担するかで、制度の形も受診率も大きく変わります。
健診の中身をどう統一するかも未解決です。目で見るだけの簡単な確認にするのか、歯ぐきの詳しい検査まで行うのか。「どこで受けても同じ質」が担保されなければ、制度への信頼は生まれません。
担い手が足りるかという問題もあります。常勤の歯科衛生士がいない歯科診療所は全国で約4割とされており、制度だけ先行しても受け皿がなければ機能しません。
そして最も大切なのは、受けて終わりにしないことです。過去の報告でも「受診勧奨だけでは効果が乏しい」と指摘されています。検診の後、継続的なケアにつなげる仕組みがなければ、本当の意味での予防にはなりません。
■ 展望と、院長の私見
率直に言えば、この議論は以前にも立ち上がっては進まなかった歴史があります。ただ今回、「簡易スクリーニング」を最初から具体策として持ち込んだ点は違います。「全員にフルスペックを」ではなく「まず必要な人を見つけてつなぐ」という現実的な発想で進んでいる。現場の歯科医師として、この姿勢は素直に歓迎したいと思っています。
地域で診療してきて実感するのは、「痛くなったら歯医者へ」という文化が変わらない限り、制度だけ作っても歯は守れないということです。国民皆歯科健診の本質は、件数を増やすことではなく、検診を入り口に口腔管理を日常に組み込む文化をつくることだと考えています。
なお、八街市でも昨年度から成人歯科検診、今年度からパパママ歯科検診が始まりました。国の制度を待たず地域から動きが生まれていることを、嬉しく思っています。
■ 参考文献
[1] 厚生労働省「第1回 歯科健診等のあり方等に関する検討会」(2026年5月11日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73064.html
[2] 厚生労働省「歯科口腔保健の推進に向けた取組等について」(2025年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001448480.pdf
[3] 8020推進財団「今後の歯科健診のあり方検討会 報告書」
https://www.8020zaidan.or.jp/8020/data/JDA_DentalExam_Report_200501.pdf
[4] 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針2025)」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/2025_basicpolicies_ja.pdf
※本記事は2026年6月時点の公的資料に基づき、院長の見解を交えて作成しました。制度の内容は今後変わる可能性があります。
