お腹の炎症と歯の根の炎症、実はつながっているかもしれません
お腹の炎症と歯の根の炎症、
実はつながっているかもしれません
〜 腸の病気(IBD)と歯の根の治療に関する最新研究のご紹介 〜
「お腹の具合が悪いと、歯の治りも悪くなることがあるの?」
そんな疑問に答えてくれる、興味深い研究が2026年に発表されました。今回は、東北大学の研究グループが発表した論文をもとに、腸の病気とお口の健康のつながりについて、わかりやすくお伝えします。
「IBD」ってどんな病気?
IBD(炎症性腸疾患)とは、腸に慢性的な炎症が続く病気の総称です。潰瘍性大腸炎やクローン病がその代表で、日本でも患者さんの数は増えています。
IBDはお腹だけの病気と思われがちですが、実は腸以外にもさまざまな症状が出ることが以前からわかっています。お口の中でも、口内炎・歯ぐきの腫れ・粘膜の変化などが起こりやすいと報告されています(Mortada 2017, Pereira 2016)。
さらに最近の研究では、「歯の根の先に炎症や膿がたまる病気(根尖性歯周炎)」が、IBDのある方により多くみられる可能性も示されてきました(Piras 2017, Poyato-Borrego 2020, La Rosa 2025)。
今回の研究でわかったこと
東北大学の中野らの研究グループは、腸に炎症を起こしたマウスに、歯の根の先の炎症を人工的につくり出しました。そして腸炎のないマウスと比べて何が違うかを調べました(Nakano 2026)。
結果は明確でした。腸に炎症がある状態だと、あごの骨の壊れ方がより強くなったのです。研究者たちは、体の免疫を担う細胞(とくに「好中球」という白血球の一種)の働きが変化することが、この悪化に関係していると考えています。
さらに、タクロリムスという薬を特別な方法で炎症のある部位に届けると、骨の破壊が抑えられることも確認されました。これは将来の新しい治療法につながる可能性があるとして、注目されています。
「IBDがあると必ず歯が悪くなる」
わけではありません
正直にお伝えしたいのですが、今回の研究はマウスを使った実験です。「IBDの人は必ず歯の根が悪化する」と断言できる段階ではなく、人間で同じことがどの程度起こるかは、これからの研究で確認が必要です(La Rosa 2025, 2023年メタアナリシス, Nakano 2026)。
ただし、人を対象にした研究でも、IBDのある方では根尖性歯周炎が多い傾向や、治りにくい場合があるという報告が複数あります。そのため、IBDのある方は、過去に神経の治療をした歯や、大きな虫歯があった歯を、より丁寧に経過観察していくことに意味があります(Poyato-Borrego 2020, Piras 2017, La Rosa 2025)。
「歯の炎症が腸に影響する」可能性も
反対に、「歯の根の炎症が腸の病気を悪化させるのか」という点は、まだはっきりとはわかっていません。ただ、慢性的な細菌感染や炎症は、全身の炎症負担を増やすと考えられています。IBDのような免疫に関わる病気に、何らかの影響を及ぼす可能性は、研究者の間で議論されています(2023年メタアナリシス, La Rosa 2025)。
この考え方は「オーラル・ガット軸」、つまり**「お口と腸はつながっている」**という視点と重なります。口の中の炎症を減らすことは、腸の健康を含めた全身の管理にもつながる可能性があります(Oral-Gut Axis 2024)。
ただし「歯の根の治療をすれば腸の病気も良くなる」と言えるほどの証拠はまだありません。過大な期待よりも、地道な口腔ケアの継続が大切です。
こんな症状があれば歯科にご相談を
IBDのある方で、次のような症状が続くときは、ぜひ一度歯科にご相談ください。
∙ 歯の治療後も、噛むと痛みや違和感がある
∙ 歯ぐきが腫れやすい、または繰り返す
∙ 口内炎がよく出る
∙ 根管治療(神経の治療)をした歯のレントゲンをしばらく撮っていない
受診の際には、消化器内科でIBDの治療を受けていること、飲んでいる薬の種類(とくに生物学的製剤や免疫を調整する薬)を歯科医師にお伝えください。治療計画を立てるうえでとても大切な情報になります(Pereira 2016, La Rosa 2025, Oral Manifestations 2024)。
大切なのは、基本をしっかり続けること
新しい治療への期待は高まっていますが、歯の根の炎症の基本はあくまで「細菌感染をきちんと取り除くこと」です。正確な診断、丁寧な根管治療、そして再発を防ぐための定期的なメンテナンス、この積み重ねが何より大切です(Poyato-Borrego 2020, Nakano 2026)。
「腸の病気があるから歯は後回しに」ではなく、**「全身の健康を守るためにも、お口のケアをしっかり続けましょう」**というメッセージを、私たちは大切にしたいと思っています。
何かご不安なことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
1. Nakano M, Tanaka Y, Kyaw MS, et al. Novel Method to Target Apical Periodontitis Worsened by Inflammatory Bowel Disease. Journal of Dental Research. 2026. doi:10.1177/00220345251412776
2. 東北大学プレスリリース. 腸の病気は顎骨破壊も悪化させる―腸炎で悪化した顎骨破壊に対する新治療技術開発―. 2026
3. Mortada I, et al. Oral manifestations of inflammatory bowel disease. Int J Dent Hyg. 2017. PMID: 28958141
4. Pereira MS, et al. Oral Manifestations of Inflammatory Bowel Diseases. J Crohns Colitis. 2016. PMC4851452
5. Piras V, et al. Prevalence of Apical Periodontitis in Patients with Inflammatory Bowel Diseases and Immunomodulators. J Endod. 2017. PMID: 28231978
6. Poyato-Borrego M, et al. High Prevalence of Apical Periodontitis in Patients With Inflammatory Bowel Disease. Inflamm Bowel Dis. 2020. PMID: 31247107
7. La Rosa GRM, et al. Apical periodontitis in inflammatory bowel disease: a meta-analysis at patient and tooth level. Front Dent Med. 2025. PMID: 40008255
8. The Potential Association Between Inflammatory Bowel Diseases and Apical Periodontitis: A Systematic Review and Meta-Analysis. 2023. PMID: 37968968
9. Unravelling the Oral–Gut Axis: Interconnection Between Oral and Gut Inflammation in IBD. J Crohns Colitis. 2024. doi:10.1093/ecco-jcc/jjae032
