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その「とろみ」、飲み込みやすさに本当につながっていますか? ―研究が教えてくれる「とろみ」の正しい理解―

その「とろみ」、飲み込みやすさに
本当につながっていますか?
研究が教えてくれる「とろみ」の正しい理解
 
今日は、飲み込みを助けるために使われる「とろみ」について、意外と知られていない大切なお話をします。
 
とろみ剤はなぜ使うのか
脳卒中後の麻痺や加齢による筋力低下などで飲み込みが難しくなると、水やお茶のようにサラサラした液体は気道に流れ込みやすく(誤嚥)、肺炎の原因になります。そこで液体にとろみ剤を加えて流れる速さを落とし、むせ込みや誤嚥のリスクを減らすことが、在宅や施設の現場で広く行われています。
しかし摂食嚥下の研究は、「粘性を高めても必ずしも摂食嚥下障害に適切に対応できるわけではなく、むしろ過剰なとろみが嚥下障害をかえって引き起こしている場合もある」と指摘しています¹。
とろみをつけておけば安心」ではない—これが出発点です。
 
「同じ量を入れたから大丈夫」とは限らない
市販のとろみ剤(キサンタンガム系)10製品を比較した研究では、製品間で物性(かたさ・付着性・凝集性)に違いがあることが報告されています²。また添加量が増えすぎると、かえって「べたつきが気になり飲み込みにくい」状態になることも示されています。同じスプーン1杯でも、製品が違えば仕上がりが違う—これが研究の示す現実です。
さらに、使う液体の種類によっても仕上がりは変わります。お茶や水と、みそ汁・スポーツドリンクのようにイオンを含む飲み物では、とろみのつき方や時間経過による変化が異なることが知られています。作り立てと10分後でとろみの状態が変わっていることもあるのです。
 
とろみの「濃さ」は体の動きにも影響する
飲み込む瞬間、口蓋帆(軟口蓋)は鼻腔と口腔を仕切って食塊が鼻に流れ込まないようにする、いわば「仕切り弁」の役割を担います。この動きを担う口蓋帆挙筋は、口腔内に含んだ食物の量や粘性を感知して活動量を調節していることが、筋電図を用いた実験で示されています¹。
さらに、同じ粘度に調整した場合でも、食物が動くときの流れやすさ(ずり速度依存性粘度)が異なれば、嚥下時の筋活動も変わることが確認されています¹。「静かにしているときの固さ」だけでなく、「口の中で動かしたときの流れやすさ」も、体の嚥下反応に影響しているということです。
また、水に近い低粘性の液体でも、わずかな粘性の差が口蓋帆挙筋の活動量に影響することが報告されています³。牛乳は水と粘度が近いにもかかわらず、水よりも有意に小さな筋活動で嚥下できる—体は液体の物性を精密に感知して嚥下動作を調節しているのです。
 
「濃ければ安全」ではない
粘性が高くなるほど、一回に飲み込める量は減ります¹。水分摂取量が確保しにくくなり、脱水のリスクが生じます。また、高すぎるとろみはかえって飲み込む負担を増やすこともあります。
研究が示しているのは、「その方にとってちょうどよい粘性」を見極めることが大切だということです。
 
ご家庭で気をつけたい3つのポイント
① 使う液体によってとろみのつき方は変わる
水・お茶と、みそ汁・スポーツドリンクは同じように考えないでください。イオンを含む飲み物は時間経過で状態が変わることがあります。
② 作り置きをしすぎず、飲む前に状態を確認する
作った直後と少し時間が経った後でとろみが変化していることがあります。飲む前にもう一度軽く混ぜて確かめましょう。
③「とろみをつけた」で終わりにしない
実際にむせていないか、飲み込みやすそうか、表情や様子を観察することが最も大切です。製品や液体の種類を変えたときは特に注意してください。
 
おわりに
とろみは、ただ液体をドロドロにするためのものではありません。体は液体の物性を精密に感知して嚥下を調節しています。「マニュアル通りに作ったか」だけでなく、「今、目の前の一杯がどういう状態か」「その方の体がどう反応しているか」—その一杯ごとの丁寧な確認が、安全で少しでもおいしい食事につながります。
ご不明な点は、いつでもご相談ください。
 
参考文献
1. 舘村卓. 食物物性および一口量の嚥下機能に対する影響―口蓋帆咽頭閉鎖機能に焦点を当てて―. 日本味と匂学会誌. 2010;17(2):87-96.
2. 出戸綾子, 江頭文江, 栢下淳. キサンタンガム系の市販とろみ調整食品の使用方法に関する研究―液体に添加する場合―. 日摂食嚥下リハ会誌. 2008;12(3):197-206. DOI: 10.32136/jsdr.12.3_197
3. 河合利彦, 舘村卓, 外山義雄, 阪井丘芳. 低粘性液状食品の粘性の相違が嚥下時口蓋帆挙筋活動におよぼす影響. 日摂食嚥下リハ会誌. 2009;13(2):128-134.

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