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2040年問題は、私のことでもある ── 在宅歯科の現場から、「食べること」の大切さを訴える


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2040年問題は、私のことでもある
── 在宅歯科の現場から、「食べること」の大切さを訴える
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「2040年問題」という言葉を聞いたことはありますか?

2040年には、日本の高齢者人口がピークを迎え、介護が必要な方の数が今よりもずっと増えると言われています。介護の担い手が足りなくなる、医療や介護の費用がかさむ、地域の支え合いが崩れていく……そうした未来への警鐘として、よく語られる問題です。

でも、行政や制度の話として語られることが多くて、なんとなく遠い話のように感じてしまいませんか。

私もそうならないように、あえて正直に言います。
この問題は、私にとって他人事ではありません。

在宅歯科に20年携わってきた私にとって、2040年問題は、今まさに診ている患者さんのことです。私が暮らすこの地域のことです。そして、いつか年を重ねていく私自身のことでもあります。だから今日は、現場の歯科医師として感じていることを、率直にお伝えしたいと思います。

「要支援」に目を向けはじめた、それは前進

先日、市が主催する地域連携に関する講演会に出席しました。

テーマは、「要支援」の方への支援をどう充実させるか、というものでした。「要支援」とは、まだ介護が必要なほどではないけれど、日常生活に少し手助けがあるといい状態のことです。要介護になる手前の段階、とイメージしてください。

これまでの高齢者支援は、どちらかというと「要介護になってから」に重点が置かれてきました。それを、もっと手前の段階から支えようとする方向性は、正しいと思います。私は、ここには前進を感じました。

■ でも、大事なことが抜けている

ただ、その講演会を聞きながら、私はずっとモヤモヤしていました。

リハビリテーションの話、体を動かすことの話、地域でつながることの話は出てくるのに、「食べること」の話がほとんど出てこないのです。

「歩けるか」はとても重要です。でも、「食べられるか」はそれと同じくらい、いやそれ以上に、その人の生活の質を左右します。

噛めているか。飲み込めているか。むせていないか。食事を楽しめているか。誰かと一緒に食卓を囲めているか。

これらはすべて、その人が「生活できているかどうか」に直結する話です。「食べること」を軽く扱ったまま要支援を語るのは、生活を支える議論としては不十分だと、私は感じています。

20年前から、同じことを言い続けてきた

私は在宅歯科を始めてから20年、ずっと同じことを言い続けてきました。

高齢者の支援で本当に大切なのは、「歩けるか」だけではなく、「食べられるか」だということです。

在宅で患者さんのご自宅を訪問すると、よくこういう場面に出会います。食事量が少しずつ減っている。やわらかいものばかり食べるようになった。食事に時間がかかるようになった。むせることが増えた。食べることが億劫になって、外に出る気力も失われていく……。

こうした小さな変化が積み重なって、やがて生活全体がしぼんでいきます。そのサインに一番早く気づける場所のひとつが、歯科の診療室なのです。

歯科には「早期発見」の大きな役割がある

ここで少し、歯科医院の特徴についてお話しさせてください。

定期検診や口腔ケアのために、比較的元気なうちから、多くの方が1か月・3か月・半年に1度、歯科に通います。病院には「具合が悪くなったら行く」という方も多いですが、歯科には元気なうちから来てくださる方がたくさんいます。

だから歯科の診療室では、こういうことに気づけます。

・以前より少し表情が暗くなっていないか
・受け答えが遅くなっていないか
・「最近あまり外に出ていない」という言葉が増えていないか
・食事の話をしたときに、以前と様子が変わっていないか

こうした「生活の変化のサイン」を、歯科医師や歯科衛生士は診療のなかで感じ取ることができます。まだ要介護ではない、プレフレイル(フレイルの一歩手前)と呼ばれる段階の方を早めに見つけ、適切な支援につなぐ。歯科にはそういう役割があると、私は強く思っています。

※フレイルとは:加齢とともに心身の機能が低下し、疲れやすくなったり、転びやすくなったりする状態のことです。早めに気づいて対応することで、進行を遅らせることができます。

医療保険の制度も、すでに変わってきている

こうした考え方は、歯科の診療報酬(保険制度)にも反映されはじめています。

2024年(令和6年)の診療報酬改定では、口腔の機能低下への対応、栄養との連携、そして悪くなってから治すのではなく「悪くなる前に支える」予防的な歯科医療を評価する仕組みが、明確に打ち出されました [1][2]。

医療の側は、すでに「食べること」「口の機能」「予防・連携」へと舵を切り始めているのです。

だからこそ、介護の要支援の議論でも、同じ方向に進んでほしい。そう強く感じています。

私が患者さんにお伝えしたいこと

この記事を読んでくださっている患者さん、またはご家族の方へ。

「最近、食べるのに時間がかかるようになった」「むせることが増えた」「やわらかいものばかり食べている」「食欲が落ちた気がする」……もしそういう変化に気づいたら、ぜひ早めに歯科にご相談ください。

それは「歯が悪いから」だけではなく、お口全体の機能、飲み込みの力、食べる力が低下しているサインかもしれません。

歯科は、虫歯や歯周病を治すだけの場所ではありません。「食べること」を通じて、その方の生活と健康を支える場所でもあります。2040年に向けて、私はそういう歯科医院でありたいと思っています。

まとめ

・2040年には高齢者人口がピークを迎え、介護・医療の需要が急増します [3]
・「要支援」の段階から支援することは正しい方向ですが、「食べること」への視点が不足しています
・歯科は、元気なうちから通える場所として、生活の変化を早めに発見できる貴重な接点です
・2024年の診療報酬改定では、予防・栄養・連携を重視する歯科医療が評価されています [1][2]
・「食べること」を中心に据えた支援が、これからの高齢者ケアには欠かせません

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参考文献
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[1] 厚生労働省保険局医療課. 令和6年度診療報酬改定の概要【歯科】. 2024.

[2] 厚生労働省. 令和6年度歯科診療報酬改定の主なポイント
(口腔管理体制強化加算・口腔機能管理・在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料). 2024.

[3] 厚生労働省推計. 介護職員、2040年度までに57万人の増員必要. 日本経済新聞, 2024年7月.
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA126450S4A710C2000000/

[4] 厚生労働省. 介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン(概要). 2023.

[5] 厚生労働省. 高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン. 2023.

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※ 本記事は院長の個人的見解と臨床経験に基づくものです。
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