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昨日の食事が今夜の眠りに関係する? ## 約4,800人夜のデータで見えてきた「食事と睡眠」の傾向 〔プレプリント(査読前)論文の解説記事〕

# 昨日の食事が今夜の眠りに関係する?

## 約4,800人夜のデータで見えてきた「食事と睡眠」の傾向

〔プレプリント(査読前)論文の解説記事〕

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「食物繊維をとると眠りが深くなる」——そんな見出しをネットで見かけた方もいるかもしれません。これは最近発表されたある研究をもとにした話ですが、正確に読むと少しニュアンスが違います。今回はその研究の内容を、歯科医師の視点も交えながら、正直にわかりやすく解説します。

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## どんな研究なの?

イスラエルのワイツマン科学研究所のグループが、「昨日の食事の内容と、その夜の睡眠の質に関係はあるか」を大規模データで調べた研究です(プレプリント、つまり専門家による最終審査=査読はまだ完了していません)。

約4,800人夜分(1人×1夜を積み上げた数)のデータを使い、参加者はスマートフォンで食事を記録しながら、ウェアラブルデバイスで睡眠中の状態(眠りの深さや夜間の心拍)を同時に測定しました。

工夫されている点が一つあります。「野菜をよく食べる人は睡眠も良い」という結果が出ても、それはただ「もともと健康意識の高い人が両方できている」だけかもしれません。この研究では、同じ人の中で「食事が多かった日と少なかった日」を比べることで、そうした個人の特性による影響を減らそうとしています。ただしこれも完全に解消できるわけではなく、あくまで「工夫した観察研究」という位置づけです。

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## 何がわかったの?

著者らの要約によると、食物繊維を多く含む食事をとった翌夜は、深い眠り(深睡眠)や夢を見やすい眠り(REM睡眠)が多く、浅い眠りが少なく、夜間の心拍数が低い傾向がありました。野菜・豆・海藻・きのこなど植物性の食品の種類が多い日も、同様の傾向が見られたと報告されています。食べるタイミングも関係し得るとされています。

一方で「意外な結果」もあります。糖質・脂質・タンパク質のバランス(比率)は、翌日の睡眠との関連が明確には出なかったのです。「何をどれくらいの割合でとるか」よりも、「食物繊維が豊富で、植物性食品が多様かどうか」の方が、翌夜の睡眠の状態と結びついていた、ということになります。

**ただし、大事なことをひとつ。**

これは「関連がある」という話であって、「食物繊維を食べれば眠れるようになる」と証明されたわけではありません。たとえば、「よく眠れた日の翌日は食欲が安定して食物繊維も自然に増える」という逆方向の流れも十分考えられます。食事と睡眠はどちらが先ともいえない、互いに影響し合う関係にあります。睡眠不足の翌日は甘いものや高脂質な食品を欲しやすくなることは多くの研究で示されており、「眠れないから食事が乱れる」という方向も同時に起きている可能性があるのです。また、この論文はまだ専門家の最終審査(査読)を通っていないため、今後内容が修正される可能性もあります。

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## なぜつながる可能性があるのか?

仮説の段階ですが、いくつかの経路が考えられています。

食物繊維は腸内細菌のエサになり、「短鎖脂肪酸」という物質が腸内でつくられます。これが神経を通じて脳に信号を送り、睡眠に関わる調節に影響する可能性があるとされています(腸と脳のつながり、いわゆる「腸—脳軸」)。また、腸内環境が乱れると体のなかで慢性的な炎症が起きやすくなり、それが睡眠の質に影響するとも言われています。夜遅い食事が体内時計を乱すことも、睡眠に影響する要因のひとつです。

これらはあくまで「こういうルートが考えられる」という仮説であり、今回の研究で直接確かめられたものではありません。食事と睡眠の関係はまだ解明途上にあり、研究者たちが様々な角度から調べ続けています。

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## 歯科医師として感じること

この研究で注目された食品——根菜、豆類、海藻、きのこ——には共通点があります。噛みごたえがあって、よく噛む必要があるものが多いのです。

歯が少なかったり、入れ歯が合っていなかったりすると、こういった食品を自然と避けるようになります。すると食事の多様性が失われ、今回注目された「植物性食品の豊富さ」から遠ざかることになります。また口の中の細菌と腸の中の細菌は互いに影響し合うことも知られており、口の清潔を保つことは腸内環境を整える観点からも意味があります。

よく噛んで食べられる口を守ることが、食事の質を守り、ひいては睡眠の質にもつながるかもしれない——そう感じています。

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## この研究の限界と今後への期待

正直に書くと、この研究にはいくつかの限界があります。

まず、観察研究である以上、「食物繊維をとったから眠れた」とは言い切れません。それを確かめるには、「食物繊維を増やすグループと増やさないグループを比べる介入試験(RCT)」が必要です。次に、ウェアラブルで測る眠りの深さは、病院の睡眠検査(ポリソムノグラフィ)ほど精度が高くありません。食事記録もアプリへの入力に頼るため、記録漏れや誤りが生じやすい面があります。そして繰り返しになりますが、この論文はまだ査読前です。

今後は、「食物繊維を実際に増やすと睡眠がどう変わるか」を検証する介入研究が求められます。腸内細菌のデータと組み合わせた解析も進めば、「誰にどんな食事が有効か」という個人差の解明にもつながるでしょう。歯科の立場からは、噛む力や飲み込む機能と食事の多様性・睡眠の質を結びつける研究にも期待しています。

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## まとめ:できることから、無理なく

「食物繊維を増やせば必ず眠れる」とは言えません。でも、野菜・豆・海藻・きのこを日々の食卓に取り入れることは、生活習慣病予防の観点からも厚生労働省が推奨していることであり、睡眠との関連もデータとして示されつつあります。

主食を麦ごはんや全粒粉パンに変える、みそ汁に具をたっぷり入れる、夕食を寝る2〜3時間前には済ませる——小さな習慣の積み重ねが、体全体の調子を整えていきます。

そして、そのためにもしっかり噛める口を保つことが大切です。歯が痛い・入れ歯が合わないといった理由で食べたいものが食べられなくなると、食事の多様性は自然と失われていきます。定期的な歯科検診で「食べる力」を維持することが、食事の質、そして眠りの質を支える土台になります。

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## 参考文献

1. ナゾロジー「食物繊維を多くとると夢を見る眠り時間が増える――大規模研究で見えた傾向」https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/192475
1. Hagai Rossman. LinkedIn post: “Can what you eat today measurably change how you sleep tonight?” (Human Phenotype Project, 4,793 person-nights) https://www.linkedin.com/posts/hagai-rossman
1. Sterne JAC, et al. ROBINS-I: a tool for assessing risk of bias in non-randomised studies of interventions. BMJ 2016;355:i4919.
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1. Besedovsky L, et al. The Sleep-Immune Crosstalk in Health and Disease. Physiol Rev. 2019;99(3):1325-1380.
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1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント」

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