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「甘い?しょっぱい?」どちらを先に感じるかは、あなたの”心の個性”と関係している

「甘い?しょっぱい?」どちらを先に感じるかは、あなたの”心の個性”と関係している
――味覚と共感性をめぐる最新研究から
先日、とある児童施設で摂食指導を行いました。食事をうまく摂れない子どもたちと向き合いながら、「なぜこの子はこの味を嫌がるのだろう?」という問いが、いつも頭をよぎります。偏食や食事拒否は、わがままや食育の問題ではなく、その子固有の「感覚の受け取り方」から生じている場合があります。今回ご紹介する研究は、そのことをとても興味深い角度から示してくれています。
 
スイカに塩をかけると、なぜ美味しくなる
…はずなのに?
スイカに少量の塩をかけると甘みが増すと感じる方は多いでしょう。「対比効果」と呼ばれるこの味覚現象は、しかし万人に通用するわけではありません。「スイカに塩なんてかけたら不味い」という人も一定数います。国立障害者リハビリテーションセンター研究所の和田真先生らのチームは、この素朴な疑問を出発点に、「なぜ同じ味を混ぜても感じ方が人によって違うのか」を科学的に検証しました。
 
味は、脳の中で「並べ替え」られている
甘味と塩味が同時に舌に届いたとき、一般的な味覚の生理学では塩味のほうが早く脳に伝わると考えられています。そのため「塩→甘」の順に感じるのが素直な予測です。
ところが実際に、甘味液と塩味液を時間的に変えながら提示し「どちらを先に感じたか」を答える心理物理実験を行うと、混合提示の場面で「甘味を先に感じた」と答える人が一定数存在したのです。これは脳が味覚情報を受け取ったあと、時間的に再構成してから意識にのぼらせていることを示唆しています。
 
「甘味が先」と感じやすい人の特徴とは?
研究チームはオンライン調査と心理物理実験、さらにMEG(脳磁図)による脳機能計測を組み合わせて解析を行いました。その結果、共感性スコア(他者の感情への敏感さ)が高い人ほど、甘塩混合を「甘味が先」と感じやすい傾向があることが明らかになりました。
研究者たちはこれを「味覚情報の時間的統合スタイルが、共感性という認知スタイルと関連している」と解釈しています。共感性が高い人は複数の情報をひとまとまりとして受け取る傾向があり、味覚においても甘味と塩味を「甘味先行のひとつの体験」として再構成しやすい可能性があります。この知見はこれまで知られていなかった新規の発見として、研究チームも強調しています。
 
発達特性と偏食の新しい見方
同じ研究プロジェクトのアンケート調査では、自閉スペクトラム症(ASD)傾向が高い人ほど、味の混ざりへの忌避感や食感へのこだわりが強く、特に酸味が苦手な傾向があることも報告されています。
研究チームはこれを踏まえ、「基本味間の時間的に過剰な統合が、味覚の問題に起因した偏食を引き起こすのではないか」という仮説を提起しています。偏食を考えるときに大切なのは、行動の問題として見るのではなく、感覚情報の時間的統合スタイル・共感性の強さ・発達特性(ASD傾向など)、これらの組み合わせがその人固有の「味の世界」を作っているという視点を持つことです。
 
児童施設での摂食指導から感じたこと
今回訪問したとある児童施設では、食事の場面で強いこだわりを示す子どもたちに接しました。混ざった食べ物を極端に嫌がる子、特定の食感だけを受け付けない子——そのひとりひとりの背景には、この研究が示すような「感覚の個性」があるのかもしれません。
「なぜ食べないのか」を行動の問題として見るのではなく、「この子はどのように感じているのか」を想像することの大切さを、改めて実感しました。この研究は、味覚の感じ方そのものが人によって根本的に異なり、それが性格特性や発達特性とつながっていることを科学的に示してくれています。口腔機能の支援は、単に「食べさせる技術」ではなく、その人の感覚と個性を理解することから始まるのだと、今回の摂食指導と論文を通じて、深く学ばせていただきました。
参考文献
1. 和田真,高野弘二,小早川達.「味覚時間順序判断における時間的校正は共感化傾向の影響を受ける」.第100回日本生理学会大会,2023年.
2. Chen Na, Watanabe Katsumi, Kobayakawa Tatsu, Wada Makoto. “Relationships between autistic traits, taste preference, taste perception, and eating behaviour.” European Eating Disorders Review, 30(5): 628-640, 2022. https://doi.org/10.1002/erv.2931
3. Chen Na, Watanabe Katsumi, Kobayakawa Tatsu, Wada Makoto. “Reasons for Adding Different Tastes: An Example of Sprinkling Salt on Watermelon and Its Relation to Subjective Taste Perception, Taste Preference, and Autistic Traits.” Journal of Food Quality, 2023: 1-9. https://doi.org/10.1155/2023/9945339
4. 科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)課題番号19K22885「スイカに塩が不味いわけ――発達障害者の偏食と基本味間の時間的相互作用」研究代表者:和田真(国立障害者リハビリテーションセンター研究所).研究期間:2019-2024年.https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K22885/​​​​​​​​​​​​​​​​

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