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# 骨粗鬆症と「お口の健康」の深い関係 ## 顎の骨を守るために知っておきたいこと

# 骨粗鬆症と「お口の健康」の深い関係

## 顎の骨を守るために知っておきたいこと

── 最新のポジションペーパー2023(PP2023)に基づく解説 ──

日本における骨粗鬆症の患者数は約**1,590万人**に上り、超高齢社会において極めて身近な疾患です。実は、骨粗鬆症の病態やその治療は、歯科領域——とりわけ歯周病や顎の骨のトラブル——と密接に関わっています。最新の指針(『薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023』、以下PP2023)と最新のエビデンスに基づき、「顎の骨を守るための新常識」をわかりやすく解説します。

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## 1. エストロゲン低下と「骨粗鬆症・歯周病」の負の連鎖

骨粗鬆症患者の多くは女性であり、その背景には閉経に伴う女性ホルモン(**エストロゲン**)の低下があります。エストロゲンが減少すると、全身の骨密度が低下するだけでなく、歯を支える顎の骨の強度も落ちるため、**歯周病が悪化しやすく、歯を失うリスクが高まります**。

さらに近年の研究では、**歯周病による慢性的な「炎症」が骨粗鬆症の発症・進行を助長する**ことも明らかになっています。台湾で実施された約8万8,000人を対象とした6年間の追跡調査では、**重度の歯周病がある人はそうでない人と比べて約2倍の割合で骨粗鬆症を発症しやすい**ことが示されました。

骨粗鬆症と歯周病は互いに悪影響を及ぼし合う「負の連鎖」の関係にあり、全身と口の健康が一体であることが改めて示されています。

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## 2. 顎骨壊死(MRONJ)の真の原因は「抜歯」ではなく「感染と炎症」

骨粗鬆症の治療に用いられるビスホスホネート(BP)製剤やデノスマブといった骨吸収抑制薬は、骨折予防に優れた効果をもたらします。しかしごく稀に、顎の骨が壊死して治りにくくなる**「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」**を引き起こすことがあります。

以前は「抜歯などの外科処置」が最大の引き金と考えられてきました。しかしPP2023では、この認識が大きく改められました。

**現在の見解:MRONJの本態は「歯性感染症による難治性顎骨骨髄炎」**です。すなわち、抜歯そのものが原因なのではなく、**抜歯を要するほどの重度の歯周病や根尖病変(歯の根の先にできる膿の袋)といった口腔内の感染と、それに伴う慢性的な炎症こそがMRONJの主たる発症要因**です。歯周病菌が引き起こす炎症(サイトカインの誘導など)が、骨吸収抑制薬の影響下にある顎骨において壊死を促進することが基礎研究でも確認されています。

「歯科処置が怖いから歯医者に行かない」という選択は、むしろリスクを高めてしまうことを覚えておいてください。

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## 3. 日本の発症率が欧米より高い理由——「8020運動」の意外な側面

日本の骨粗鬆症患者におけるMRONJの発症率は約**0.1%**とされており、欧米(約0.01%以下)と比べて**約10倍**高く、台湾に次いで世界トップクラスの水準です。

この背景の一つとしてPP2023が指摘しているのが、日本が推進してきた**「8020運動(80歳で20本の歯を残そう)」**の影響です。欧米では状態の悪い歯は早期に抜去する傾向があるのに対し、日本では「できるだけ自分の歯を残す」治療が優先されてきました。

その結果、自覚症状がないまま**「慢性的な感染源(重度歯周病・根尖病変)」**を抱えた歯が口腔内に残りやすくなります。骨粗鬆症の薬を飲んでいる状態でこの感染源が放置されると、それが引き金となってMRONJを発症するケースがあると考えられています。

大切なのは、ただ歯を残すことではなく、**「感染のない、健康で清潔な状態で残す」**ことです。

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## 4. 総入れ歯(無歯顎)の方も油断は禁物

「自分の歯が一本もないから安心」というわけではありません。PP2023では、**「不適合義歯(合わない入れ歯)」や「過大な咬合力」**がMRONJの明確な局所リスク因子として挙げられています。

合わない総入れ歯を使い続けることで粘膜が擦れて傷(義歯性潰瘍)ができると、そこから顎骨へ直接細菌が侵入し、MRONJに至るケースが多数報告されています。歯のない方でも、定期的な入れ歯の調整と粘膜の感染管理が不可欠です。

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## 5. 予防の鍵は「口腔内の感染・炎症コントロール」

MRONJを防ぎながら骨粗鬆症治療を安全に続けるために、PP2023が推奨する重要なポイントをご紹介します。

### (1)薬を始める前に歯科を受診する

骨粗鬆症の薬を開始する前に口腔内を徹底的にクリーニングし、必要があれば抜歯などの外科処置を先に済ませておくことが、MRONJ発症予防に最も有効とされています。内科・整形外科で骨粗鬆症の薬を処方される際は、ぜひ事前に歯科へご相談ください。

### (2)「休薬」は原則不要

かつては抜歯前に骨粗鬆症の薬を一時中止する「休薬」が行われていました。しかしPP2023では、**「休薬にMRONJ予防効果があるというエビデンスはない」**とされており、現在は**「原則として休薬しない」**という方針です。むしろ休薬によって骨折リスクが高まるデメリットの方が大きいとされています。「歯科治療のために薬をやめるべきか」とご心配の方はご安心ください。

### (3)定期的な歯科クリーニングと丁寧な歯磨き

韓国での250万人規模のデータでは、年1回以上の歯科受診と1日2回以上の歯磨きを継続している方は、**全身の骨折リスク自体が大幅に低下する**ことが示されています。口の健康を守ることは、全身の骨を守ることにも直結しています。

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## まとめ

骨粗鬆症の治療薬は骨折を防ぐために非常に大切な薬であり、むやみに恐れる必要はありません。MRONJのリスクを最小限に抑えながら安心して治療を続けるために、**「口腔内の感染・炎症管理(定期的なメインテナンス)」**こそが最も効果的な予防策です。

骨粗鬆症の薬を使用中の方、またはこれから使い始める方は、ぜひ一度当院にご相談ください。医科と歯科が連携して、皆さまの全身の健康をサポートします。

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## 参考文献

1. 顎骨壊死検討委員会(委員長:岸本裕充). 薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023. 日本口腔外科学会・日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会ほか合同委員会, 2023年.
1. 岸本裕充. 薬剤関連顎骨壊死ポジションペーパー2023-改訂の要点および今後の課題-. 日本口腔外科学会雑誌, 2023; 71(8): 344-348.
1. 濱口明. 骨粗鬆症治療薬による薬剤関連顎骨壊死(MRONJ). 薬事, 2023; 65(15): 74-79.
1. 田口明. 歯科における骨粗鬆症患者への対処と薬剤関連顎骨壊死のポジションペーパー2023の解説. 東京松風歯科クラブ 第750回実例会 講演, 2025年.

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