わかな歯科

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## 噛み合わせと全身疾患を語る代表論文の紹介

## 噛み合わせと全身疾患を語る

代表論文の紹介

まずご紹介したいのは、Abeらによる以下の論文です。[2][4]

> Abe K, Mitani Y, et al.  
> Systemic Disorders Closely Associated with Malocclusion in Late Adolescence: A Review and Perspective.  
> Int J Environ Res Public Health. 2022.[4][2]

この論文は、  
- 若年者(高校卒業直後〜大学生世代)における「噛み合わせ(咬合)」と「全身疾患」の関連をテーマとしたレビュー  
- 同じ研究グループが行った大規模調査のデータ(大学生約9000人)を踏まえて、咬合とアレルギー・不整脈などの関係を議論したもの  
です。[3][1][2]

噛み合わせと全身疾患の関係を扱う論文の中では、比較的引用されやすい一つの“代表選手”と言ってよい内容です。

***

## この論文と関連研究が示している「事実」

Abeらのレビューと、その基盤になっている疫学研究では、次のようなデータが示されています。[1][2][3]

### 1. 大学生約9000人での

アンケート調査

- 対象:17〜19歳の大学生 9098人。[3]
- 方法:自己記入式アンケートで  
  - 「自分の噛み合わせが悪いと感じるか(自覚的咬合異常)」  
  - 「アレルギー性鼻炎」「喘息/咳喘息」「不整脈」などの病歴  
  を尋ね、統計解析を行った。[1][3]

### 2. 見つかった“関連”の大きさ

- 噛み合わせが「気になる」と答えた人は全体の約2.1%(195人)。[3]
- このグループでは、そうでない人と比べて  
  - アレルギー性鼻炎:オッズ比 2.184  
  - 喘息/咳喘息:オッズ比 1.843  
  - 不整脈:オッズ比 2.809  
  と、有意に高い値が報告されました。[1][3]

### 3. 基礎研究からの補足

レビュー論文の中では、咬合挙上マウスモデルなどを用いた実験も紹介されており、「極端な咬合の変化が、自律神経や心機能(心房リモデリング、心房細動の誘発性など)に影響しうる」という結果が引用されています。[2]

ここまでの内容は、  
「噛み合わせが気になる若年者では、アレルギーや不整脈が多い傾向がある」  
「動物実験では、咬合の変化が心臓の機能に影響することが示唆される」  
という観察結果として、十分に評価できる部分です。[2][3][1]

***

## この論文が“優れている”と評価できる点

この論文とその関連研究には次のような明確な貢献があります。

- 若年者の大規模データ(約9000人)を使って、「噛み合わせの自覚」と全身疾患歴の関連を数量的に示したこと。[3][1]
- 口腔と全身の話の中でも、あまり語られてこなかった「咬合」「アレルギー・不整脈」という組み合わせに焦点を当てたこと。[2][1]
- 基礎研究と臨床データを組み合わせて、「咬合が自律神経・心血管系に影響し得るかもしれない」という仮説を体系的に整理しようとしたこと。[2]

つまり、「噛み合わせと全身の関係を考えるうえでの重要なヒントを出した論文」であることは、正当に評価してよいと思います。

***

## それでも「噛み合わせが全身疾患の原因」とまでは言えない理由

一方で、この論文をそのまま「噛み合わせが悪いと不整脈になる」「噛み合わせを治せばアレルギーが治る」といった話にしてしまうのは、科学的には明らかに行き過ぎです。  
ここからは、患者さんにも分かりやすい形で、その限界を整理します。

### 1. 見ているのは「客観的な咬合」

ではなく「自覚的咬合異常」

研究で使われている指標は、歯科医が診査した咬合ではなく、「自分で噛み合わせが悪いと感じているかどうか」です。[1][3]

これは、

- 歯並び・咬合そのもの  
- 見た目へのこだわり  
- 体調の変化に敏感かどうか  
- 心配性・健康不安の強さ  

などをまとめて反映してしまう指標です。[5][1]

そのため、  
「噛み合わせが本当に悪い人に全身疾患が多い」  
というより、  
「いろいろな体の不調や不安がある人ほど、噛み合わせも気になりやすい」  
という側面も強く含まれている可能性があります。

### 2. 横断研究では「原因と結果」は

決められない

大事な点は、この研究が“一時点”のアンケートを使った横断研究であることです。[3][1]

- 噛み合わせが気になる → その結果、全身の病気が増えた  
のか、  
- もともとアレルギーや不整脈などの持病があり → 体調不良が続く中で噛み合わせも気になり出した  
のか、  
- または、ストレス・生活習慣・体質など第三の要因が、噛み合わせの自覚と全身疾患の両方に影響しているのか  

は、このデザインでは区別できません。[1][2]

論文は「closely associated(密接な関連)」という表現を使っていますが、「cause(原因)」とは書いていません。  
臨床的には、この差をきちんと区別しておくことがとても重要です。

### 3. オッズ比2倍前後は、他の生活要因でも十分生じ得る

アレルギーや不整脈のオッズ比が約2倍という数字は、たしかに無視はできません。[3][1]
しかし疫学的には、  
- 睡眠不足  
- 運動不足  
- 食事内容  
- ストレス  
- 家族歴や体質  

などを合わせれば、同程度の差は十分に生じ得ます。[5][3]

全ての交絡因子(混ざり込んだ他の要因)を完全に取り除くことは不可能であり、「噛み合わせだけに原因を求める」のは現実的ではありません。

### 4. 動物実験の結果を、そのまま人間に当てはめるのは危険

咬合挙上マウスモデルでは、極端な咬合の変化が心房リモデリングや心房細動の誘発性に影響した、という結果が紹介されています。[2]

これは、「咬合と心臓の関係」を考える上で非常に興味深いデータですが、

- マウスに与える咬合変化は、人間の日常的な咬合不正よりはるかに極端  
- 飼育条件やストレス要因など、ヒトとはまったく異なる環境  

であることを考えると、そのまま「人間の軽い噛み合わせの問題」と結びつけるのは慎重であるべきです。  
基礎研究は「可能性」を示すものであり、「臨床効果」を保証するものではありません。

***

## 他のレビュー論文はどう評価しているか

噛み合わせと全身の関係を扱った他のレビュー・スコーピングレビューでは、全体としてかなり慎重な姿勢が取られています。

- 咬合や歯列不正は、顎関節症(TMD)や咀嚼筋痛と関連することがあるが、多くの研究は観察研究であり、因果関係は確立されていない。[6][7]
- TMDや全身症状は、ストレス、睡眠、生活習慣、姿勢、体質などが重なり合った多因子の問題であり、「噛み合わせだけ」を主犯にするのは不適切。[8][6]
- 現時点で、「咬合治療により全身疾患を予防・治療できる」と結論づけるのは時期尚早である。[6][8]

Abeらの論文は、こうした慎重な全体像の中で、  
「噛み合わせと全身の関係をさらに探っていくための仮説とデータを提示した論文」  
と位置づけるのが妥当だと考えられます。[8][6][1][2]

***

## 患者さんへのメッセージ:

どう受け止めるのがちょうど良いか

上記を踏まえ、患者さんには次のようにお伝えするのが、事実に忠実でバランスの良い説明だと考えます。

- 噛み合わせや歯並びの問題が、全身の健康と「まったく無関係」とは言えません。  
- 一部の研究では、「噛み合わせが気になる人に、アレルギーや不整脈が多い」というデータがありますが、  
  - 噛み合わせが原因なのか  
  - 体調不良があって噛み合わせも気になりやすくなっているのか  
  - あるいは他の要因が両方に関わっているのか  
  は、まだはっきりしていません。[1][2][3]

- 現時点では、「噛み合わせを治療すればアレルギーや不整脈が治る/予防できる」とまでは言えません。  
- 噛み合わせ治療の主な目的は、  
  - よく噛めるようにする  
  - 顎・歯・筋肉への負担を減らす  
  - むし歯・歯周病を予防し、口腔内の炎症を減らす  
  ことであり、それが結果として全身の健康にもプラスに働く可能性がある、という位置づけが現実的です。[6][8]

***

## 歯科医としてのまとめ:

論文を「正当に評価し、正当に制限する」

Abeらの論文と関連研究は、

- 咬合と全身疾患の関係を考えるうえで、重要な仮説とデータを提供した  
- 若年者大規模データを用いた点で価値が高い  

という意味で、正当に評価すべき仕事です。[2][3][1]

同時に、

- 指標が「自覚的咬合異常」であること  
- 横断研究で因果方向が分からないこと  
- 交絡因子を完全には除けないこと  

を踏まえると、「噛み合わせが全身疾患の直接の原因」「噛み合わせ治療で全身疾患を予防・治療できる」とまでは、現時点のエビデンスでは言えません。[8][6][1][2]

本院としては、  
- こうした論文を「興味深いヒント」として尊重しつつ、  
- 患者さんには過剰な期待や不安を与えないよう、できるだけ正確で誠実な情報提供を行う  

というスタンスを大切にしています。  

そのうえで、噛み合わせ・歯並び・歯周病などお口の状態と、生活習慣・持病・体調など全身の状態を一緒に考えながら、一人ひとりに合った治療と予防を一緒に相談していきたいと考えています。[7][6][8]

***

## 参考文献

1. Abe K, Mitani Y, et al. Systemic Disorders Closely Associated with Malocclusion in Late Adolescence: A Review and Perspective. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(5):3086.[4][2]
2. Abe K, Mitani Y, et al. Awareness of Malocclusion Is Closely Associated with Allergic Rhinitis, Asthma, and Arrhythmia in Late Adolescents. Int J Environ Res Public Health. 2020;19(6):3401.[3][1]
3. X et al. Occlusion and Temporomandibular Disorders: A Scoping Review. J Oral Rehabil. 2025;52(4):xxx–xxx.[6]
4. Y et al. Exploring the Enigmatic Link Between Occlusion and Systemic Disease. Int J Environ Res Public Health. 2025;23(12):xxxx.[9][10][8]
5. Z et al. Malocclusions and Quality of Life Among Adolescents. Children (Basel). 2023;10(4):xxx.[5]
6. Manfredini D, et al. Temporomandibular Disorders: “Occlusion” Matters! J Oral Rehabil. 2018;45(9):xxx–xxx.[7]

情報源
[1] Awareness of Malocclusion Is Closely Associated with ... https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7551248/
[2] Systemic Disorders Closely Associated with Malocclusion in Late ... https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8951737/
[3] Awareness of Malocclusion Is Closely Associated with Allergic Rhinitis, Asthma, and Arrhythmia in Late Adolescents - PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32664631/
[4] Systemic Disorders Closely Associated with Malocclusion in Late Adolescence: A Review and Perspective - PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35329087/
[5] Malocclusions and quality of life among adolescents https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10230246/
[6] Occlusion and Temporomandibular Disorders: A Scoping ... https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12112774/
[7] Temporomandibular Disorders: “Occlusion” Matters! - PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5976904/
[8] Exploring the enigmatic link between occlusion and ... - PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12829671/
[9] Exploring the enigmatic link between occlusion and ... https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41585984/
[10] Exploring the enigmatic link between occlusion and ... https://pdfs.semanticscholar.org/2904/64e607633f869a7a2ea03f80c00a026719b7.pdf

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