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ベッドでの口腔ケア、実は「30度」は危険? 安全を守るための新常識

ベッドでの口腔ケア、実は「30度」は危険?
安全を守るための新常識

ご自宅や施設で、ベッドに寝たままお口のお掃除(口腔ケア)をしている方も多いと思います。
「背もたれを30度くらい起こすと良い」と言われてきましたが、実は【30度の背上げに科学的な根拠(エビデンス)はありません。】

この「30度」という角度は、おそらく【歯科医師がベッド上でお口の中を確認する際に最も見やすい角度】であったことから、長年の慣習として広まったのではないかと考えられています。

しかし、最新の研究や臨床的な知見では、30度ではかえって誤嚥(ごえん:唾液や汚れが気管に入ってしまうこと)のリスクを高めることが分かってきています。

今回は、「なぜ30度ではいけないのか?」そして「安全に行うための正しい姿勢」について、わかりやすくご紹介します。

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1. なぜ「30度」は危険なの?
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口腔ケア中は唾液がたくさん分泌されます。背上げが30度程度だと、重力の影響で唾液やお口の汚れが喉の奥へ流れ込みやすくなります。さらに、頭が後ろに倒れやすく喉が開いた状態になるため、汚れた水分が気管に入りやすくなるのです。

実際に、リクライニング30度では食塊(食物のかたまり)を口腔内に保持することが困難になり、自分の意図しないタイミングで意図しない量の液体が咽頭に流れ込むリスクが指摘されています(参考文献1, 2)。

結果的に、【誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)】のリスクが高まります。70歳以上の高齢者の肺炎のうち約80%が誤嚥性肺炎とされており(参考文献3)、口腔ケア中の姿勢は命に関わる重要なポイントです。

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2. 「45〜60度」が安全な理由
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当院では、ベッドでの口腔ケアを行う際には【「45〜60度の背上げ」】をおすすめしています。

背もたれをしっかり上げることで、自然に顎が軽く引けて喉が閉じ気味になり、気管への流れ込みを防げます。また、この角度ではお口の水分や汚れが手前に流れやすく、安全にケアを行えます。60度の背上げでは嚥下の生理的角度に近い状態となり、食事にも適した姿勢であることが報告されています(参考文献2, 4)。

ギャッジアップした状態で安定した姿勢を保つためのポイントも大切です。

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【Point 1】あごが上がっていないか確認する

ベッドの背上げ角度を上げても、枕の高さや位置が合っていないと頭が後ろに倒れ、あごが上がってしまうことがあります。頸部が後屈した状態(あごが上がった状態)は喉が大きく開き、口腔ケアの際に最も避けたい姿勢です(参考文献5)。枕の位置を調整し、【あごが軽く引けた状態】になるようにしましょう。

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【Point 2】足の裏に当てものをして、ずり落ちを防ぐ

ベッドの背を上げると、体が足元方向にずり落ちやすくなります。ずり落ちると背中が丸まり、あごが上がって「仙骨座り(せんこつずわり)」の状態になり、誤嚥のリスクが高まります。【足の裏にクッションやタオルを当てて支える】ことで、体のずり落ちを防ぎ、安定した姿勢を維持できます。POTTプログラム(食事時のポジショニング技術を体系化した教育プログラム)でも、足底の支持による姿勢安定が重視されています(参考文献6)。

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【Point 3】膝を軽く曲げる

ベッドの膝上げ機能を使って膝を軽く曲げることで、体がずり落ちにくくなります。膝が伸びたままだと体が滑りやすく、姿勢が崩れる原因になります。足底の当てものと組み合わせることで、より安定した姿勢でケアを受けることができます。

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📌 補足:30度が適する場合もあります

重度の嚥下障害があり、医師やリハビリスタッフの指示のもとで嚥下訓練を行う初期段階では、30度から開始して段階的に角度を上げていくことがあります(参考文献2, 4)。ただし、これはあくまで「訓練」としての話であり、日常の口腔ケアでは45〜60度が安全です。ご不明な点は、かかりつけの歯科医師や言語聴覚士にご相談ください。

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院長からのメッセージ
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「30度でいい」と教わってきた方ほど、この新しい考え方に驚かれるかもしれません。しかし実際には、「見やすさ」優先の角度が「安全」とは限らないのです。

姿勢を少し工夫するだけで、口腔ケア中の誤嚥リスクは大きく下げられます。私たちは、患者さんがいつまでも【「お口から食べる喜び」】を守り続けられるよう、最新のエビデンスに基づく「安全なケア」をお伝えしていきます。

正しい姿勢やケアの方法を詳しく知りたい方は、スタッフまでお気軽にご相談ください。

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参考文献
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1. 藤島一郎:口から食べる 嚥下障害Q&A 第4版.中央法規出版,東京,2011
1. 三鬼達人 編著:今日からできる摂食・嚥下・口腔ケア(改訂版).照林社,東京,2019
1. 国立長寿医療研究センター 西澤有生ほか:誤嚥リスクがある高齢者への安全な口腔ケア「水を使わない口腔ケア」(長寿科学振興財団 健康長寿ネット掲載)
1. 田中マキ子 編著:写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング.照林社,東京,2014
1. ナース専科:図解 口腔ケアのコツと手順〜根拠がわかる看護技術(2021年4月掲載)
1. 迫田綾子・北出貴則・竹市美加 編:誤嚥予防,食事のためのポジショニングPOTTプログラム.医学書院,東京,2023
1. 藤島一郎:嚥下障害リハビリテーション入門Ⅰ 嚥下障害入門.Jpn J Rehabil Med 2013; 50(3): 202-211
1. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 編:eラーニング対応 第1分野 摂食嚥下リハビリテーションの全体像 Ver.4.医歯薬出版,東京,2025
1. 埼玉県総合リハビリテーションセンター:要介護者の口腔ケアについて(公式サイト掲載資料)
1. 長寿科学振興財団:摂食嚥下障害に対するリハビリテーション(第6章).令和元年度老人保健健康増進等事業報告書

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の患者さんの状態によって適切な対応は異なります。具体的なケアの方法については、担当の医療専門職にご相談ください。

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