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アルブミン値の本当の意味を理解する ─ 在宅・高齢者施設の現場から見えてきたこと ─

アルブミン値の本当の意味を理解する
 在宅・高齢者施設の現場から見えてきたこと  在宅や施設で歯科の訪問診療をしていると、採血データとして「アルブミン」という項目を目にすることがあります。アルブミンは昔から「栄養状態を表す数値」として使われてきましたが、現在では「栄養だけで決まる数字ではない」ことがわかってきています[^1][^2]。
ここでは、患者さんやご家族、介護職の方にも理解しやすい形で「アルブミン値の本当の意味」を整理してみます。

アルブミンって何の数字?
 アルブミンは、血液の中に多く含まれるたんぱく質の一種で、体の水分バランスを保ったり、ホルモンや薬を運んだりする役割があります[^3]。血液検査では「血清アルブミン」として測定され、数値が低いと「低栄養では?」「体調が悪いのでは?」と心配されることが多い項目です。
 かつては「アルブミンが低い=栄養状態が悪い」と考えられていましたが、今はそれほど単純ではないことが、多くの研究でわかってきています[^1][^2]。

「低アルブミン=低栄養」ではない理由
 最近の研究では、アルブミンは「栄養状態」だけでなく、「炎症」や「病気の重さ(重症度)」の影響を強く受けることが示されています[^1][^2][^4]。
大きなケガや肺炎などで炎症が強いとき、食事がしっかりとれていてもアルブミンは下がりやすくなります[^4][^5]。逆に、長いあいだ少食が続いてやせてきていても、炎症がほとんどなければ、アルブミンがあまり下がらないこともあります[^6][^7]。
 専門家の間では、「低アルブミン血症(アルブミンが低い状態)は、栄養不足と炎症が組み合わさった結果であり、多くの病気では炎症の影響のほうが大きい」と整理されています[^2]。
 つまり、「低栄養はアルブミンを下げる原因のひとつ」ではありますが、「低栄養なら必ずアルブミンが低い」「アルブミンが低い人は必ず低栄養」というわけではありません。

国際的な低栄養の考え方(GLIM基準)
 医療や介護の世界では、低栄養の診断に「GLIM(グリム)基準」という国際的なルールが使われるようになってきています[^8][^9]。この基準では、次のようなポイントを組み合わせて低栄養かどうかを判断します。
体重が減ってきていないか(非意図的な体重減少)、BMIが低すぎないか、筋肉量が減っていないか、食事量が減っていないか・きちんと吸収できているか、そして長引く炎症や大きな病気がないか(がん、重度の慢性病など)といった項目です[^8][^10]。
 ここで大事なのは、血清アルブミンそのものは「診断項目」に入っていないという点です[^8][^9]。アルブミンは「参考情報」にはなりますが、「この数値だけで低栄養かどうかを決めてはいけない」という考え方が国際的な標準になってきています[^11][^12]。

在宅・高齢者施設でのアルブミンの”見方”
 在宅療養されている方や、特別養護老人ホーム・有料老人ホームなどの施設に入所されている方では、採血の機会自体が多くありません。そのため、たまたま測ったアルブミンの数値が一人歩きしてしまうことがあります。
 高齢者の研究では、「栄養状態の評価には、体重の変化、食事量、身体機能(歩けるか、立ち上がれるか)、併存している病気などを一緒に見ていく必要がある」とされています[^13][^14]。公衆衛生・老年栄養の報告でも、「在宅や施設では、ADL(日常生活動作)、フレイル(虚弱)、嚥下機能などとセットで栄養を考えるべきで、血液検査はあくまで補助的な情報」と整理されています[^15]。
 言い換えると、在宅・施設ではアルブミンを「栄養状態の答え」ではなく、「この方、最近やせてきていないかな?食事はとれているかな?炎症を起こす病気はないかな?」と全体を見直すためのきっかけとして使うイメージが適切です。

透析を受けている患者さんの場合はさらに注意
 人工透析(特に血液透析)を受けている患者さんでは、アルブミンの解釈はさらに難しくなります。
 終末期腎不全の総説では、「透析患者の低アルブミンは、しばしば持続する全身性炎症と関連しており、栄養状態の指標としての役割は限定的」と述べられています[^16]。同じ論文で、「透析患者の栄養状態を評価するのに、アルブミンを単独で使うべきではなく、死亡リスクなどを評価する際にも必ずCRP(炎症のマーカー)と一緒に見る必要がある」と結論づけています[^16]。
 他の研究でも、「透析患者の低アルブミンは、炎症(CRPの高値)と栄養不良の両方と関連しているが、多くの場合、炎症の影響がより大きい」と報告されています[^17][^18][^19]。
最近では、透析患者さんの「栄養+炎症」の状態をまとめて見るために、CRPとアルブミンの比率(CRP/Albumin比)や、Malnutrition-Inflammation Score(MIS)といったスコアも使われています[^20][^21]。つまり、透析を受けている患者さんでは、「低アルブミン=すぐに低栄養」とは言い切れず、炎症や病気の状態とセットで評価することがとても重要になります。

歯科から見た「アルブミン」とお口のケア
 訪問歯科診療では、患者さんの全身状態を把握したうえで、義歯調整や口腔ケア、嚥下(飲み込み)の評価を行います。アルブミンの値は、その一部として参考にできる情報です。
アルブミンが低い方は、全身の予後(将来の体調や合併症のリスク)が高いことが多く、誤嚥性肺炎や褥瘡なども起こしやすいとされています[^1][^2]。一方で、「アルブミンが少し低い=食べ物を増やせばよい」と単純には考えず、「義歯が合っているか」「噛める食形態になっているか」「むせずに飲み込めているか」といった口腔機能の確認が欠かせません[^13][^15]。
 お口の環境を整えることで、安全に食べられる量が増えれば、結果として体重や筋肉量が維持され、長期的にはアルブミンや全身状態にもよい影響が期待できます。
 歯科医師としては、「アルブミンの数字そのもの」ではなく、その背景にある食事・嚥下・フレイルの状態を多職種と共有しながら、患者さん一人ひとりに合った支援をしていくことが大切だと考えています。

まとめ:アルブミンは”全体像を見直すヒント”
最後にポイントを整理します。
アルブミンは、栄養だけでなく炎症や病気の重さにも大きく影響されるたんぱく質で、「低アルブミン=低栄養」とは言い切れません。国際的なGLIM基準では、体重・筋肉・食事量・炎症の有無などを組み合わせて低栄養を判断し、アルブミンは診断項目から外れています。在宅や高齢者施設では、アルブミンを「栄養の答え」ではなく、「体重・食事・筋力・嚥下などを見直すきっかけ」として使うことが勧められています。透析を受けている患者さんでは、特に炎症の影響が大きく、「アルブミン+CRP」や専用スコアを使って、栄養と炎症をセットで評価する必要があります。
当院では、こうした最新の知見も踏まえながら、医科の先生方や栄養士さん、介護職の皆さまと連携し、「アルブミンの数字」に振り回されない、全身とお口を一体としたサポートを心がけています。

参考文献
[^1]: Li F, et al. Dynamic association of serum albumin changes with inflammation–nutrition interplay and outcomes in hospitalized patients. PMC. 2024. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12302892/
[^2]: Don BR, Kaysen G. Serum albumin: relationship to inflammation and nutrition. Semin Dial. 2004;17(6):432-437. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15660573/
[^3]: Banh L. Serum Proteins as Markers of Nutrition: What Are We Treating? Practical Gastroenterology. University of Virginia Health System. 2006. https://med.virginia.edu/ginutrition/wp-content/uploads/sites/199/2015/11/BanhArticle-Oct-06.pdf
[^4]: Relationship of Nutritional Status, Inflammation, and Serum Albumin Levels During Acute Illness: A Prospective Study. Am J Med. 2020. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0002934319309751
[^5]: Horiuchi T, et al. Serum albumin levels correlate with inflammation rather than nutrition supply in burn patients. J Med Invest. 2014;61(3-4):361-368. http://medical.med.tokushima-u.ac.jp/jmi/vol61/pdf/v61_n3-4_p361.pdf
[^6]: Lee JL, et al. Nutritional Laboratory Markers in Malnutrition. J Clin Med. 2019;8(7):1065. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6616535/
[^7]: Keller U. Malnutrition: laboratory markers vs nutritional assessment. Gastroenterology Report. 2016;4(4):272-280. https://academic.oup.com/gastro/article/4/4/272/2453235
[^8]: Cederholm T, Jensen GL, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition – A consensus report from the global clinical nutrition community. Clin Nutr. 2019;38(1):1-9. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30181091/
[^9]: ESPEN. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition. https://www.espen.org/files/GLIM_criteria.pdf
[^10]: Jensen GL, et al. GLIM Criteria for the Diagnosis of Malnutrition: A Consensus Report From the Global Clinical Nutrition Community. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2019;43(1):32-40. https://pure.fujita-hu.ac.jp/en/publications/glim-criteria-for-the-diagnosis-of-malnutrition-a-consensus-repor/
[^11]: GLIM consensus approach to diagnosis of malnutrition: A 5-year update. Clin Nutr. 2025. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40223699/
[^12]: ASPEN. Appropriate Use of Visceral Proteins for Nutrition Screening and Assessment. 2024. https://nutritioncare.org/wp-content/uploads/2024/12/Appropriate-Use-Visceral-Proteins-Nutrition-Screening-Assessment.pdf
[^13]: Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology. Risk of low nutritional status among Japanese elderly. https://www.tmghig.jp/research/en/etopics/archives/015673/
[^14]: Diversified Analysis of Nutritional Status in Community-Dwelling Older Adults in Japan. J Aging Res Lifestyle. https://www.jarlife.net/3630-diversified-analysis-of-nutritional-status-in-community-dwelling-older-adults-in-japan.html
[^15]: 国立保健医療科学院. Advances in Nutrition Care and Management in Japan’s Aging Society. 日本公衆衛生雑誌. 2024;74(1). https://www.niph.go.jp/journal/data/74-1/202574010005.pdf
[^16]: Carrero JJ, et al. Serum albumin, inflammation, and nutrition in end‐stage renal disease: C‐reactive protein is needed for optimal assessment. Semin Dial. 2019;32(4):348-357. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/sdi.12731
[^17]: Serum C-reactive protein and nutritional parameters in hemodialysis patients. DOAJ. https://doaj.org/article/77f9859fafd64ebbad23806bfcbe66df
[^18]: Kaysen GA, et al. Relationships among inflammation nutrition and physiologic mechanisms establishing albumin levels in hemodialysis patients. Kidney Int. 2002;61(6):2240-2249. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12028466/
[^19]: Association of Serum Albumin and C-Reactive Protein with Outcomes in ESRD Patients Undergoing Hemodialysis. PMC. 2025. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11888703/
[^20]: The C-reactive protein/albumin ratio as a nutritional biomarker in maintenance hemodialysis patients: a cross-sectional study of malnutrition-inflammation status assessment. Front Med. 2025. https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmed.2025.1637536/full
[^21]: Malnutrition-Inflammation Score VS Phase Angle in the Era of GLIM Criteria. J Ren Nutr. 2020;30(2):93-97. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31739568/

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