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がんとアルツハイマー病の不思議な関係 〜最新研究でわかった脳の”お掃除”のしくみ〜

がんとアルツハイマー病の不思議な関係 〜最新研究でわかった脳の”お掃除”のしくみ〜
 
はじめに:15年来の医学界の謎
「がんにかかった人は、アルツハイマー病になりにくい」
これは世界中の大規模調査で繰り返し確認されてきた、医学界の不思議な現象です。がんを経験した方は、認知症(特にアルツハイマー病)の発症リスクが約2〜3割低いことが、さまざまな国や民族で一貫して報告されてきました。
なぜこのような関係があるのか、長年の謎でしたが、2025年1月に世界最高峰の科学誌『Cell』に発表された研究が、この謎を解き明かす大きな手がかりを示しました。
 
この研究でわかったこと
1. がんが出す「シスタチンC」というタンパク質が鍵だった
研究チームは、がん細胞が分泌するさまざまなタンパク質を調べた結果、シスタチンCという物質に注目しました。このシスタチンCは、もともと私たちの体に存在する正常なタンパク質です。
2. 脳の”お掃除係”を活性化させる
アルツハイマー病では、脳内にアミロイド斑と呼ばれる「ゴミ」のような異常なタンパク質の塊がたまることが知られています。
脳にはミクログリアという「お掃除係」の細胞がいます。シスタチンCは、このお掃除係の細胞にあるTREM2という受容体を刺激して、「もっと働いてゴミを片付けなさい」と命令を出すことがわかりました。
3. マウス実験で記憶力が回復
アルツハイマー病のモデルマウスを使った実験では、体に腫瘍があるマウスは脳内のアミロイド斑が減少し、記憶や学習のテストの成績が良くなりました。これは、長年の疫学データが示していた現象を、初めて実験室で再現した画期的な成果です。
 
なぜこの発見が重要なのか
従来の治療との違い
現在のアルツハイマー病の治療薬の多くは、アミロイドができるのを防いだり、抗体でアミロイドを攻撃したりする方法です。しかし今回の研究は、**「すでにたまってしまったゴミを、脳自身の力で片付けさせる」**という新しい考え方を示しています。
これは、家の掃除に例えると、「ゴミが出るのを減らす」のではなく、「掃除機のパワーを上げて、たまったゴミをしっかり吸い取る」というアプローチの違いです。
 
シスタチンCの「二つの顔」
興味深いことに、シスタチンCは状況によって異なる働きをすることがわかっています。
脳では:アミロイドのお掃除を助ける「善玉」として働きます
がんでは:免疫細胞の働きを抑えて、がんが逃れるのを助ける面もあります
この二面性をうまく利用して、「脳への良い作用だけを取り出す」ことができれば、新しい治療法につながる可能性があります。
 
将来の治療への期待
研究者たちは、「がんそのものを利用する」のではなく、がんが出すシスタチンCの良い作用だけを安全に再現する治療法の開発を目指しています。
具体的には、シスタチンCの働きを模倣する薬や、ミクログリアのお掃除能力を高める薬の開発が期待されており、将来的には既存の治療薬と組み合わせた「アドオン療法」として使える可能性があります。
 
患者さんへのメッセージ
この研究はまだマウスの段階であり、すぐに人間に使える治療ではありません。しかし、「一度たまってしまったアミロイドをどう片付けるか」という大きな課題に対して、新しい道筋を示した研究として、世界中から注目されています。
「がんになれば認知症にならない」ということでは決してありません。 両方の病気を予防するために、バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠、そして定期的な健康診断を続けることが大切です。
 
まとめ
・がん細胞が出す「シスタチンC」というタンパク質が、脳にたまったゴミを減らしてくれることがわかった
・シスタチンCが脳の中の「お掃除係」をやる気にさせて、ゴミ掃除を始めさせる
・今までの薬は「ゴミが出るのを防ぐ」方法だったが、今回は「たまったゴミを片付ける」という新しい方法
・がんにならなくても、この「お掃除スイッチ」だけを入れる新しい薬の開発が期待されている
 
 
参考文献
1. Li Y, et al. Peripheral cancer attenuates amyloid pathology in Alzheimer’s disease via cystatin-c activation of TREM2. Cell. 2025. PubMed
2. Shafi O. Inverse Correlation Between Alzheimer’s Disease and Cancer. Curr Alzheimer Res. 2021. PMC
3. Lower incidence of dementia following cancer diagnoses: evidence from a large cohort and Mendelian randomization study. J Prev Alzheimers Dis. 2023. Link
4. Ospina-Romero M, et al. Association Between Alzheimer Disease and Cancer With Evaluation of Study Biases: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open. 2020. PMC
5. Gagliano SA, et al. Cystatin C in aging and in Alzheimer’s disease. Ageing Res Rev. 2016. PMC
6. Mi W, et al. Cystatin C protects neuronal cells from amyloid β-induced toxicity. J Alzheimers Dis. 2009. PMC
7. Zhou J, et al. Oligomeric cystatin C supports the immunosuppressive microenvironment. Signal Transduct Target Ther. 2025. Nature
 
この記事は2025年1月に発表された最新研究をもとに作成しました。医学研究は日々進歩していますので、今後新たな知見が加わる可能性があります。

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