Part.1 成人のむし歯は「慢性疾患」 ——医科と歯科の連携が必要な理由
# 成人のむし歯は「慢性疾患」
——医科と歯科の連携が必要な理由
「むし歯は子どもの病気」「治療すれば終わり」——そう思っていませんか?
実は最新の医学では、成人のむし歯は糖尿病や高血圧と同じ**「慢性疾患」**として位置づけられています。2025年に米国医師会雑誌(JAMA)に掲載された総説論文をもとに、なぜ今、医科と歯科の連携が求められているのかを解説します。
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## ポイント1:成人の9割以上がむし歯を
経験している
米国のデータでは、成人の90%以上がむし歯の経験があり、そのうち約4分の1は未治療のまま放置されています。
JAMAの総説では、むし歯を次のように定義しています。
> 細菌・食習慣・唾液・フッ化物の利用・社会経済的要因などが**長期にわたって複雑に絡み合って生じる慢性疾患**
つまり「甘いものを食べたから穴があいた」という単純な話ではありません。糖尿病や高血圧と同じように、**長期的な管理が必要な病気**なのです。
患者さんへのメッセージ
むし歯は「一度きりの事件」ではなく、生活習慣や体の状態と関わりながら何度も起こりうる**「長くつきあう病気」**です。
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## ポイント2:成人には特有の
リスク因子がある
むし歯の基本メカニズムは年齢を問わず共通しています。プラーク中の細菌が糖から酸を作り、歯の表面からミネラルが溶け出す「脱灰」と、唾液やフッ化物による「再石灰化」のバランスが崩れることで進行します。
しかし成人には、子どもとは異なる特有のリスクが加わります。
**成人特有のむし歯リスク因子**
- **根面の露出**——加齢や歯周病で歯ぐきが下がり、酸に弱い根の部分がむき出しになる
- **唾液分泌の低下**——降圧薬・抗うつ薬・抗ヒスタミン薬などの副作用、糖尿病やシェーグレン症候群の影響
- **糖質飲料の習慣的摂取**——清涼飲料水、スポーツドリンク、砂糖入りコーヒーなどを一日に何度も飲む
- **喫煙・アルコール**——唾液の質の低下、口腔内の乾燥
- **受診困難**——経済的要因や時間的制約による歯科受診の機会減少
重要なポイント
「砂糖の量」「歯みがきの回数」だけでなく、**「薬で唾液が減っていないか」「定期的に通院できる環境か」**という医療的・社会的背景まで含めた評価が必要です。
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## ポイント3:むし歯が重症化すると
全身に影響する
むし歯が進行すると、単なる「歯の痛み」では済まなくなります。
初期むし歯から始まり、歯髄炎(神経の炎症)、根尖性歯周炎(根の先の感染)へと進行します。さらに重症化すると蜂窩織炎(周囲組織への感染拡大)を起こし、まれに敗血症(全身への感染)という重篤な状態に至ることもあります。
このため、**医科の先生が口腔内の感染を見逃さないことが重要**になります。
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## ポイント4:医科に求められる役割とは
JAMAの総説では、医師に対しても口腔の健康への関与を求めています。
**医師にできる4つのこと**
**①診察中の簡易な口腔チェック**——歯の破折や黒ずみ、歯ぐきの腫れ、膿、強い口臭がないか確認する
**②歯科への紹介**——「お口の状態が少し心配ですね。歯医者さんで一度チェックしてもらいましょう」と声をかける
**③全身治療の前後の歯科連携**——糖尿病、心不全、透析、がん化学療法、放射線治療などの患者さんでは特に重要
**④生活習慣指導**——糖質摂取、喫煙、アルコール、口腔清掃について、歯科と同じメッセージで指導する
**患者さんへのメッセージ**
内科の先生が「歯医者さんに行ってますか?」と聞いてくれるだけでも、重症化を防ぐきっかけになります。
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## ポイント5:口腔疾患と全身疾患は
つながっている
「ペリオドンタルメディスン(歯周医学)」という研究領域では、歯周病と全身疾患の関連が多数報告されています。
**歯周病との関連が報告されている全身疾患**
- 2型糖尿病(相互に悪影響を及ぼし合う)
- 冠動脈疾患・脳血管疾患
- 慢性腎臓病
- 関節リウマチ
- 早産・低出生体重児
歯周病による慢性炎症が、炎症性物質を介して全身に影響を及ぼすと考えられています。むし歯・歯周病は**「口だけの問題」ではなく、全身の健康に関わる因子**として認識されるようになりました。
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## ポイント6:予防の4つの柱
成人のむし歯予防について、総説では以下の4点が挙げられています。
**①フッ化物の利用**——フッ化物配合歯磨き剤(1450ppm推奨)を毎日使用する
**②高リスク者への専門的ケア**——歯科医院でのフッ化物塗布(唾液減少・根面露出がある方など)
**③糖質摂取の見直し**——摂取「回数」を減らす、のどが渇いたら水やお茶を選ぶ
**④定期的な歯科受診**——プロフェッショナルケアと早期発見・早期治療
**覚えておきたいこと**
むし歯の発生には糖質の「総量」より**「摂取頻度」**が重要です。一日に何度も甘いものを口にする習慣が、むし歯リスクを高めます。
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## ポイント7:医科歯科連携で目指す
「包括的な慢性疾患管理」
JAMAの総説が示す「医科歯科連携」の考え方をまとめると、次のようになります。
**連携の3つの視点**
**①慢性疾患としての位置づけ**——むし歯・歯周病を、糖尿病・高血圧・肥満と並ぶ慢性疾患として扱う
**②高リスク患者での事前連携**——糖尿病、心不全、透析、がん治療などの患者さんでは、治療前から口腔内を整える
**③共通リスク因子への統一メッセージ**——喫煙、糖質過剰摂取、低い健康リテラシーなどに対して、医科・歯科が同じ方向で指導する
具体的なイメージ
糖尿病の患者さんに対して、「血糖コントロール」「運動」「食生活」の指導に加えて、**「むし歯・歯周病の治療と定期的な歯科受診」**も治療の一部として説明する——これが包括的な慢性疾患管理です。
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## まとめ:お口の健康は全身の健康に
つながっている
**成人のむし歯について
知っておいてほしいこと**
- 成人の9割以上が経験し、4人に1人が未治療のまま
- 糖尿病や高血圧と同じ「慢性疾患」として長期的な管理が必要
- 放置すると全身の合併症リスクが高まる
- 予防の基本は「フッ化物」「糖質摂取頻度の制限」「定期受診」
- 医科と歯科の連携が、より効果的な予防と管理につながる
患者さんへの最後のメッセージ
むし歯は子どもだけの病気ではありません。大人になってからも、歳を重ねてからも、私たちと長くつきあっていく病気です。
かかりつけの内科の先生に「歯医者にも行っていますか?」と聞かれたり、私たちが「血糖値は安定していますか?」とお聞きしたりするのは、皆さんの健康を**お口と全身の両面から守るため**です。
適切な予防と早期発見、そして医科と歯科の連携で、健康な歯と体を一緒に守っていきましょう。
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## 参考文献
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*この記事は最新の医学文献に基づいて作成しています。個々の症状や治療については、かかりつけの歯科医師・医師にご相談ください。*
