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骨粗鬆症と歯科治療:知っておきたい大切なこと

# 骨粗鬆症と歯科治療:

知っておきたい大切なこと

 先日、今年最後の東京松風歯科クラブ第750回例会に参加してまいりました。今年度、私は幹事を務めさせていただいており、年の締めくくりとなる12月の例会では、松本歯科大学歯学部歯科放射線学講座の田口明教授をお招きして「歯科における骨粗鬆症患者への対処と、薬剤関連顎骨壊死のポジションペーパー2023の解説」というテーマでご講演いただきました。

 田口先生は37年間にわたり骨粗鬆症研究に携わってこられた第一人者で、日本骨粗鬆症学会の理事も務められています。講演の前週には、国際骨粗鬆症財団の日本初の学会で、歯科医師として初めて講演されたばかりとのことでした。

 幹事としての今年最後のお仕事として、この素晴らしい講演の内容を患者さんにもわかりやすくお伝えしたいと思います。骨粗鬆症の治療を受けている患者さんが年々増えている中で、ぜひ知っておいていただきたい重要なポイントです。

## 骨粗鬆症は命に関わる病気です

 骨粗鬆症というと「骨がもろくなる病気」というイメージをお持ちの方が多いと思います。しかし、講演で最も衝撃的だったのは、**大腿骨頸部骨折(足の付け根の骨折)後の5年生存率は49%**というデータでした。

 これは多くのがんの5年生存率よりも低い数字です。骨粗鬆症による骨折は、寝たきりや死亡につながる重大な問題なのです。

 現在、日本には1,600万人以上の患者さんがいると推定されており、大腿骨頸部骨折は年間20万人以上に達しています。

## 骨粗鬆症とお口の健康の深い関係

### 骨粗鬆症の方は歯を失いやすい

研究によると、骨粗鬆症の患者さんは:

- **歯周病になるリスクが2倍**
- **歯を失うリスクが1.7倍**

 さらに、843名の女性を追跡した研究では、手首の骨折がある人(骨粗鬆症の典型的な骨折)は、ない人に比べて**1.7倍歯を失っていた**そうです。

### 歯周病が骨粗鬆症を悪化させる

 驚いたことに、逆の関係もあります。台湾で88,000人を対象に行われた研究では、**歯周病の程度に応じて、骨粗鬆症になるリスクが段階的に上がる**ことが示されました。重度の歯周病では約2倍のリスクになります。

 また、**歯周病がある人は、骨粗鬆症の薬を飲んでも効きにくい**というデータもあります。

### 定期的な歯科受診が骨折を防ぐ

 韓国で250万人を9年間追跡した研究では、**年1回以上歯科を受診し、1日2回以上歯磨きをする人は、そうでない人に比べて骨折リスクが16%低い**ことがわかりました。

お口の健康を保つことが、骨折予防にもつながるのです。

## 薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)について

### MRONJとは

 骨粗鬆症の治療には、ビスホスホネート製剤(ボナロン、アクトネル、リカルボンなど)やデノスマブ(プラリア)といった薬が使われます。これらは骨折を予防する優れた薬ですが、まれに「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」という合併症が起こることが報告されています。

MRONJとは、**顎の骨が露出して8週間以上治らない状態**のことです。

### 実は「感染」が主な原因

 従来は「薬のせいで骨が死ぬ」と考えられていましたが、田口先生の研究で重要な事実が明らかになりました。

 59例のMRI検査の結果、**全例で「骨髄炎」のパターンを示し、真の「骨壊死」の所見は見られなかった**そうです。つまり、**突然骨が死ぬのではなく、細菌感染による炎症が主体**なのです。

MRONJは以下の要因が重なって起こります:

1. **細菌感染**(最も重要):歯周病や歯の根の感染など
1. **外科的な処置**:抜歯など
1. **薬の影響**
1. **局所的な刺激**:合わない入れ歯など

## ポジションペーパー2023の重要な変更点

 講演の後半では、2023年に改訂された日本口腔外科学会の「薬剤関連顎骨壊死ポジションペーパー2023」について詳しく解説していただきました。田口先生もこのポジションペーパーの作成に携わられています。

### 1. 休薬は不要

**最も重要な変更点:抜歯前に薬を休む必要はない**

これまで言われていた「抜歯の前に3ヶ月休薬」には、実は科学的根拠がありませんでした。研究により:

- **薬を休んでもMRONJは減らない**
- **抜歯を待たせるほど、逆にMRONJが増える**
- **薬を休むと骨折のリスクが上がる**

ことがわかったのです。

アメリカもヨーロッパも、最新の指針では休薬を推奨していません。

### 2. ステージ0の扱いの変更

 骨露出がないけれど何らかの症状がある「ステージ0」は、分類としては残すものの、MRONJの定義からは外すことになりました。骨露出がMRONJの定義である以上、骨露出のないものをMRONJと呼ぶのは矛盾しているというのが理由です。

### 3. 予兆の重要性

 画像診断における「予兆」を見逃さないことが強調されました:

- **歯根膜腔の拡大**(歯がぐらぐらし始める)
- **骨硬化像を伴う根尖病変**
- **不適合義歯による潰瘍**

 これらの予兆を早期に発見し、対応することが重要です。

### 4. MRONJは予防できる

兵庫医科大学での実績が紹介されました:

- 132名の患者さんに74本の抜歯を実施
- 10年以上薬を使っている患者さんも含む
- **MRONJ発生率:ゼロ(0%)**

特別なことはせず、**基本に忠実な丁寧な処置と適切な感染対策**で、MRONJは予防できるのです。

## 患者さんへ:3つの大切なこと

### 1. 薬は続けてください

 骨粗鬆症の薬は、骨折を防ぐための大切な薬です。**歯科治療のために休む必要は基本的にありません。**

むしろ、薬を休むと骨折のリスクが上がります。骨折は寝たきりや死亡につながりますので、薬は継続することが重要です。

### 2. 治療を始める前に歯科でチェックを

**骨粗鬆症の治療を始める前に、ぜひ歯科を受診してください。**

このタイミングで:

- 歯周病の治療
- 悪い歯の抜歯
- むし歯や根の治療

を済ませておくことで、MRONJのリスクを大きく減らせます。

### 3. 定期的な歯科受診が最も重要

**治療中も3-4ヶ月ごとの定期的な歯科受診を続けてください。**

ドイツの研究では、定期的に歯科を受診したグループは、年1回だけのグループに比べて**MRONJが10分の1**でした。

定期的なプロフェッショナルケア(歯科衛生士によるクリーニング)で:

- 歯周病を予防できる
- 問題を早期発見できる
- MRONJのリスクを減らせる
- 骨折のリスクも減らせる

**定期的な歯科受診が、最大の予防策です。**

## よくある誤解を解きましょう

**誤解1:「骨の薬を飲んでいると歯を抜けない」**  
正解:必要な抜歯は行うべきです。むしろ、悪い歯を放置する方が危険です。

**誤解2:「薬を飲んでいると突然骨が死ぬ」**  
→ 正解:突然骨が死ぬのではなく、感染が主な原因です。

**誤解3:「抜歯前に薬を3ヶ月休まないといけない」**  
→ 正解:骨粗鬆症の薬は休む必要がありません。

## 当院での取り組み

当院では:

- 問診で服用されている薬を確認させていただきます
- 治療開始前の方には、お口の検査と必要な治療をお勧めします
- 治療中の方には、定期的なメインテナンスを行います
- やむを得ず抜歯が必要な場合も、適切な感染対策で安全に治療します

**最も大切なのは、抜歯しなければならない状態にしないこと**です。日頃からの口腔ケアと定期受診が、MRONJの最大の予防策です。

## まとめ

田口先生の講演とポジションペーパー2023の解説で学んだ最も重要なことは:

1. **骨粗鬆症の薬は大切な薬** - 歯科治療のために休む必要は基本的にありません
1. **お口の健康が骨粗鬆症治療を助ける** - 歯周病の予防・治療が重要です
1. **定期的な歯科受診が最大の予防策** - 3-4ヶ月ごとのメインテナンスで、MRONJはほぼ確実に予防できます
1. **必要な治療は安全に行える** - 適切な感染対策で、抜歯も安全に行えます

 講演の中で、田口先生が前週の国際骨粗鬆症財団の学会で強調されたという「骨折予防の中心は歯科医師である」というメッセージが印象的でした。世界的にも、歯科医師の役割が重要視されているのです。

**骨粗鬆症の治療とお口の健康は、切り離せない関係にあります。**両方を大切にすることで、健康で豊かな人生を送ることができます。

 今年度の幹事としての最後のお仕事として、この重要な情報をお伝えできたことを嬉しく思います。師走のお忙しい中、素晴らしい講演をしてくださった田口先生、そして例会に参加された先生方に心より感謝いたします。

 来年も引き続き、患者さんの健康を守るため、研鑽を積んでまいります。

 ご不明な点や心配なことがございましたら、どんな小さなことでも構いませんので、お気軽にご相談ください。

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## 参考文献

1. 田口明「歯科における骨粗鬆症患者への対処と、薬剤関連顎骨壊死のポジションペーパー2023の解説」東京松風歯科クラブ第750回例会講演(2024年12月17日)
1. 日本口腔外科学会『顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023』
1. 高齢者口腔健康管理学会『顎骨壊死を起こさない骨粗鬆症治療を医歯薬連携で!ステートメント』​​​​​​​​​​​​​​​​

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