「なかなか治らない炎症」の正体がわかってきました 〜ぜんそく・花粉症・慢性炎症と免疫細胞の新しい発見〜
# 「なかなか治らない炎症」の正体が
わかってきました
〜ぜんそく・花粉症・慢性炎症と免疫細胞の
新しい発見〜
## はじめに
「薬を使っているのに、炎症がなかなか治らない」
「一度よくなっても、またぶり返す」
ぜんそく、花粉症、関節の炎症、そして歯ぐきの腫れなど、**慢性的な炎症**に悩む方は少なくありません。
2025年12月、千葉大学を中心とした研究グループが、**「炎症が長引く理由」**を説明できる重要な発見を、世界的な科学雑誌『Science』に発表しました。
今回はこの研究を、患者さんにもわかる言葉で、正確に解説します。
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## 炎症は本来「治って終わるもの」
炎症とは、体を守るための自然な反応です。
- 細菌やウイルスが侵入したとき
- ケガをしたとき
体の中の**免疫細胞**が集まり、原因を排除します。
通常は:
👉 原因がなくなる
👉 免疫細胞が引き上げる
👉 組織が回復する
という流れで**炎症は終わります**。
ところが現実には、**原因がなくなっても炎症だけが残る**ことがあります。これが「慢性炎症」です。
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## カギを握るのは「居座る免疫細胞」
近年の研究で、慢性炎症の現場には、
> **本来は帰るはずの免疫細胞が、組織に居座り続けている**
ことがわかってきました。
この細胞は**組織常在性記憶T細胞(TRM細胞)**と呼ばれます。
### TRM細胞とは?
- 一度戦った場所(肺・皮膚・粘膜など)に残る免疫細胞
- 再び敵が来たとき、すぐ対応できる「見張り役」
本来は**体を守る良い細胞**です。
しかし条件によっては:
👉 いなくてもよいのに残り
👉 炎症を起こす物質を出し続ける
ことで、炎症を長引かせてしまいます。
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## 今回の新発見:
「HLF」というスイッチします
千葉大学の木内政宏助教と平原潔教授らの研究チームは、この「居座る免疫細胞」に共通して働く**重要なタンパク質**を見つけました。
それが**HLF(Hepatic Leukemia Factor)**というタンパク質です。
### HLFの役割(簡単に言うと)
HLFは、免疫細胞の中で働く**「遺伝子のスイッチ役」**です。
研究により、HLFには主に2つの働きがあることがわかりました。
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## ① 免疫細胞を「その場に留める」
HLFが働くと、免疫細胞は:
- 組織から出にくくなり
- その場所に定着しやすくなる
つまり、**「帰れなくなる仕組み」**が作られます。
具体的には、HLFは:
- 組織への定着に関わる因子(CD69など)を増やす
- 組織からの移動に関わる因子(S1PR1など)を減らす
ことで、免疫細胞を組織に閉じ込めます。
マウスの実験では、HLFがないと免疫細胞が組織に長く残れないことが確認されています。
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## ② 炎症を続けやすい状態を保つ
さらにHLFが働いている免疫細胞は:
- 炎症を起こす物質(サイトカイン)を出しやすく
- 結果として、組織のダメージや硬さ(線維化)が進みやすい
状態になることも示されました。
> ※線維化とは、組織がゴムのように硬くなり、元に戻りにくくなる変化です。重症のぜんそくで気道が狭くなる現象などが知られています。
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## 動物実験でわかったこと
HLFが働かないようにしたマウスでは:
- 組織に居座る免疫細胞が著しく減少し
- 炎症が軽くなり
- 組織のダメージ(線維化)も抑えられました
つまり、**HLFは「炎症が長引く状態」を支える重要な要素**である可能性が高い、という結果です。
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## 人でも同じことが起きている?
研究チームは、人の慢性炎症の組織も調べました。
その結果:
- 慢性鼻炎(鼻ポリープなど)の組織
- その他の慢性炎症組織
で、**HLFが働いている免疫細胞**が多く見つかりました。
これは「動物だけの特殊な話ではない」ことを示す重要な知見です。
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## ただし、ここは大切な注意点
この研究はとても重要ですが、**誤解してはいけない点**もあります。
- HLFが「すべての慢性炎症の原因」と決まったわけではありません
- 人での結果は「関係がありそう」という段階です
- すぐに使える新薬ができたわけではありません
科学は一歩ずつ進みます。
今回の研究は:
👉 **慢性炎症の仕組みを理解する大きな前進**
と考えるのが正確です。
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## 歯科の立場からひとこと
歯ぐきの炎症(歯周病)や、なかなか治りにくい口の中の炎症も:
- 免疫の反応が長く続く
- 組織が元に戻りにくくなる
という点では共通しています。
今後、「なぜ炎症が長引くのか」「なぜ再発しやすいのか」を考えるうえで、今回の研究は**重要なヒント**になる可能性があります。
実際、歯周病の進行した組織にも、こうした「居座る免疫細胞」が存在することが分かってきています。
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## まとめ
- 炎症は本来、治って終わるもの
- 慢性炎症では「免疫細胞の居座り」が起きている
- HLFというタンパク質が、その状態を支えている可能性が示された
- すぐ治療が変わるわけではないが、将来につながる大切な研究
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## 参考文献
**【原著論文】**
1. Kiuchi M, Nemoto M, Yagyu H, et al.
**Hepatic leukemia factor directs tissue residency of proinflammatory memory CD4⁺ T cells.**
*Science*. 2025;390(6721):eadp0714.
DOI: 10.1126/science.adp0714
<https://www.science.org/doi/10.1126/science.adp0714>
**【プレスリリース】**
1. 科学技術振興機構(JST)・千葉大学ほか共同発表
**「慢性炎症の原因となるたんぱく質を新たに特定~ぜんそくなどの慢性炎症性疾患の新たな治療法開発に期待~」**
2025年12月12日
<https://www.jst.go.jp/pr/announce/20251212/index.html>
**【背景知識となる総説論文】**
1. Szabo PA, Miron M, Farber DL.
**Location, location, location: Tissue resident memory T cells in mice and humans.**
*Science Immunology*. 2019;4(34):eaas9673.
DOI: 10.1126/sciimmunol.aas9673
<https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30952804/>
1. Ni M, Zhang Y, Xu J, Dai L, Zhao L.
**An Overview of Tissue-Resident Memory T Cells in the Intestine: From Physiological Functions to Pathological Mechanisms.**
*Frontiers in Immunology*. 2022;13:912393.
DOI: 10.3389/fimmu.2022.912393
<https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2022.912393/full>
