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## 排便リズムが健康全体に及ぼす影響:最新研究の解説

 私は開業歯科医師として、患者さんの口の健康だけでなく全身の健康にも関心を持っています。今回は、最新の研究で明らかになった「排便リズムと全身の健康との驚くべき関係」について、わかりやすく解説したいと思います。

## 排便リズムが健康全体に及ぼす影響:

最新研究の解説

### はじめに:なぜ「お通じ」が健康のバロメーターなのか?

 毎日のトイレの習慣、つまり「お通じのリズム」は、実は私たちの健康状態を表す重要なバロメーターかもしれません。最新の研究によると、**1日に1~2回の排便ペースが最も健康に良い「ゴールデンゾーン」**で、それより少なすぎても多すぎても体に負担がかかる可能性があることがわかってきました。

 これまで便秘や下痢は単なる消化器の不調と考えられがちでしたが、実際には感染症リスクの増加や認知症などの神経変性疾患との関連も示唆されています。では、なぜお通じの頻度がこれほど健康に影響するのでしょうか?

### 1. お通じの頻度が健康に与える影響

 私たちの日々の「排便」頻度は、思っている以上に全身の健康状態と結びついています。理想的なお通じペースは**1日に1~2回程度**であり、この範囲だと体にとってちょうど良いバランスが保たれることが最新の研究で示されました。

 一方で、便秘(週に1~2回程度しか排便がない状態)や下痢(1日に4回以上など排便が多すぎる状態)が続くと、体にはさまざまな悪影響が及ぶ可能性があります。

#### 便秘の場合(排便が少なすぎるとき)

 腸の中に内容物が長く留まると、腸内細菌たちは食物繊維を使い果たしてしまいます。普段なら食物繊維から短鎖脂肪酸(酢酸や酪酸など、腸の粘膜を健康に保つ良い成分)を作る善玉菌たちが活発に働くのですが、材料の繊維がなくなると腸内の「発酵タンク」は別のモードに切り替わります。

 つまり、残ったタンパク質を分解する方向にシフトし、これによって有害な老廃物(毒素)が発生してしまうのです。代表的なものが**p-クレソール硫酸(PCS)やインドキシル硫酸(3-IS)**といった物質で、いずれも腸内細菌がタンパク質などを分解する過程で作り出す不要な代謝物です。

 これらの毒素は血液中に吸収されて全身を巡り、特に腎臓に負担をかけます。実際、健康な人でも便秘傾向にある群では、このPCSや3-ISといった毒素が血液中で増加し、それに伴って腎臓のろ過機能(eGFRという腎機能指標)が低下する傾向が確認されました。

下痢の場合(排便が多すぎるとき)

 腸を内容物が駆け足で通り過ぎるため、十分な水分・栄養吸収ができないだけでなく、腸内細菌の生態系にも乱れが生じます。下痢のときには腸内の有用菌が流されてしまい、逆に普段は消化管の上流(口や胃など)にいる細菌が腸内で目立つようになることが分かっています

 さらに下痢が続くと、胆汁酸(脂肪の消化吸収を助ける消化液)が大量に便とともに排出されてしまいます。本来、胆汁酸は肝臓で作られた後、腸で働いたのち再び肝臓に回収されてリサイクルされます。しかし下痢だとこのリサイクルがうまくいかず、肝臓は胆汁酸を作り直す負担にさらされます。

### 2. 「口腔細菌」と「腸内細菌」の

意外な関係

 歯科医師として特に注目していただきたいのが、口の中(口腔)と腸の細菌の関係です。口腔内細菌と腸内細菌の間には興味深い関係があり、これが顕著に現れるのが下痢などのお通じの乱れのときです。

人の消化管は一本の長いトンネルのようなもので、口→胃→小腸→大腸とつながっています。通常、口腔内の細菌は歯や舌に住み着き、胃酸や消化液のおかげで多くは腸まで届きません。

 しかし激しい下痢などで腸内環境が乱れると、このバランスが崩れ、本来は口や食道など上部消化管にいる菌が大腸まで紛れ込んで増えてしまうことがあるのです。

#### なぜ口の菌が腸に来ると問題なのか?

**炎症や感染のリスク**:口腔細菌の中には、歯周病菌のように炎症を引き起こす種類もあります。そうした菌が腸に住み着くと、腸粘膜で炎症反応を促したり、腸壁のバリアを乱す可能性があります。

**代謝産物の変化**:腸内細菌は普段、食物繊維を発酵させて酢酸や酪酸など体によい代謝産物を作っています。しかし、もし口腔由来の菌が大腸で幅をきかせると、腸内発酵の様子が変わってしまいます。

**免疫系への影響**:腸は人体最大の免疫器官でもあります。腸内細菌叢の構成が普段と変われば、腸に常駐する免疫細胞の刺激状態も変わります。

 このように、**口と腸は「一本の管」の両端として密接に関連している**のです。日々のデンタルケアや定期的な歯科検診も、間接的にですが腸内環境を守る一助になるかもしれません。

### 3. 研究で示されたデータを読み解く

 今回の研究(Cell Reports Medicine誌 2024年7月発表)では、1,400人以上の健康な成人を対象に、大便の頻度と体内のさまざまな指標との関連が調べられました。

 参加者は自宅で採取した便サンプルと血液サンプルを提供し、さらに詳細な食事・生活習慣に関するアンケートにも回答しました。研究チームは便から腸内細菌叢の解析を行い、血液からは代謝物解析や臓器機能の指標(腎臓のeGFRや肝臓の酵素値、炎症マーカーCRPなど)を測定しています。

主な研究結果

**腸内細菌の傾向**:排便適度(1日1~2回)の人では、食物繊維をエサに短鎖脂肪酸を産生する善玉菌が豊富でした。便秘になると、こうした善玉菌が減少し、代わりにタンパク質を分解する菌や腐敗産物を出す菌が相対的に増えていました。

**血液中の代謝物質**:便秘グループでは、腸内細菌が作り出す毒素であるp-クレソール硫酸(PCS)やインドキシル硫酸(3-IS)が血中で有意に増加していました。一方、下痢グループでは、炎症や肝機能異常を示す代謝物・酵素が上昇していました。

**臓器機能への影響**:便秘による毒素増加が慢性的に続けば腎臓の負担となり、将来的な腎機能低下や高血圧の一因となり得ます。下痢による胆汁酸ロスと炎症反応が続けば肝細胞へのダメージ蓄積や脂肪肝の悪化にもつながりかねません。

### 4. 健康的な排便リズムのために:

日常でできること

 研究から得られた示唆とともに、日常生活でお通じを整えるポイントをお伝えします。

**食物繊維をしっかり摂る**:フルーツや野菜、全粒穀物など植物性食品を多く食べる人ほど、理想的なお通じペース(1日1~2回)に収まりやすい傾向がありました。毎食に野菜を取り入れる、間食に果物を食べるなど工夫してみましょう。

**十分な水分補給**:水分が足りないと便が固くなり便秘につながります。1日あたりコップ6~8杯程度の水を目安に、喉が渇く前に意識的に水分をとることが大切です。

**適度な運動**:身体を動かすと腸の蠕動運動も活発になります。激しい運動である必要はなく、毎日30分の散歩やストレッチでも効果があります。

**規則正しい生活リズム**:自律神経の働きと腸の動きには深い関係があります。毎日なるべく同じ時間に起床・食事・就寝する規則正しいリズムを心がけ、十分な睡眠とリラックスタイムを確保しましょう。

### まとめ

「毎日スッキリと快便であること」は単なる爽快感以上に、腸内細菌が健全に働いて有益物質を産生し、全身の臓器に余計な負担をかけていない理想的な状態を意味します。

 お通じのリズムは一見地味な日常現象ですが、まさに「健康の土台」とも言えるでしょう。歯科医師として、口腔の健康が腸の健康にもつながることをお伝えし、患者さんの全身の健康をサポートしていきたいと思います。

**「毎日気持ちよく出せているか?」**というシンプルな問いかけが、実は健康管理の重要なチェックポイントです。ぜひ今日からご自身の排便リズムに目を向け、腸をいたわる生活を心がけてみてください。

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### 参考文献

1. Johnson-Martínez A, et al. Aberrant bowel movement frequencies coincide with increased microbe-derived blood metabolites associated with reduced organ function. Cell Reports Medicine. 2024;5(7):101617.
1. ScienceAlert (AFP). Your Poop Schedule Says a Lot About Your Overall Health, Study Finds. 2024年7月26日.
1. Hao Chung The, et al. Gut microbiome dynamics in a prospective cohort of patients with post-infectious irritable bowel syndrome. Current Opinion in Microbiology. 2022;65:108-115.

※本記事は最新の科学的知見に基づいて作成していますが、個人の健康状態に関するご相談は必ず医療機関にお尋ねください。​​​​​​​​​​​​​​​​

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