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【院長コラム】「最近、気分が晴れない…」それは脳からの大切なサインかもしれません

# 【院長コラム「最近、気分が晴れない…」それは脳からの大切なサインかもしれません

## ―最新研究が教える”心と脳のつながり”―

 日々の診療で皆様のお口の健康を拝見していると、お体のこと、そして心のことなど、様々なお話を伺う機会がございます。特に「昔のようにやる気が出ない」「なんだか気分が落ち込んで晴れない」といったお悩みは、決して珍しいことではありません。

 多くの方は「年のせいかな」と片付けてしまいがちですが、もしそれが将来の健康に関わる**脳からの”大切なサイン”**だとしたらどうでしょうか。

 2025年6月、日本の研究チームが「心の不調」と「脳の健康」に関する常識を大きく変える、非常に重要な研究成果を発表しました。今回は、皆様の今後の健康長寿に役立つこの最新の知見を、できる限りわかりやすく解説いたします。

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## 長年の謎:

「心の不調」と「認知症」の深い関係

 以前から、ご高齢になってから始まるうつ病などの気分障害が、数年後に認知症の発症につながりやすいことは専門家の間では知られていました。しかし、なぜそうなるのか、脳の中で具体的に何が起きているのかは長年解明されてきませんでした。

 それを解き明かしたのが、日本の量子科学技術研究開発機構(QST)を中心とする研究チームです。特殊な検査(PET検査)を使って、生きている方の脳の中を詳しく観察することに成功しました。

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## 最新研究が突き止めた、驚きの事実

 この研究から、私たちの健康観を新たにするような、3つの重要な事実が明らかになりました。

### 1. 気分が落ち込んでいる方の脳には、“ある変化”が起きていた

 研究チームが中高齢で気分障害を発症した方々の脳を詳しく調べたところ、驚くべきことがわかりました。**対象者の半数(50%)で、「タウ」というタンパク質が脳に異常に蓄積していた**のです。

 この「タウ」は認知症の原因となる物質の一つです。健康な同年代の方では、この蓄積が見られたのは約15%でしたから、その差は歴然です。これは、気分の落ち込みが単なる「気の持ちよう」ではなく、脳の物理的な変化と深く関わっていることを示す重要な発見です。

### 2. 脳の「感情を司る部分」から変化は始まっていた

 さらに興味深いのは、タウが蓄積し始めていた場所です。それは記憶を司る部分よりも先に、**感情や意欲、計画などを担う脳の司令塔「前頭葉」に集中していた**のです。

 つまり、脳の中でも「感情のコントロールセンター」とも言える部分が最初に影響を受けていました。この部分の機能が低下することが、物忘れよりも先に「気分の落ち込み」や「やる気の低下」といった症状として現れていたと考えられます。

### 3. “心のサイン”は、物忘れより

「平均7年」も早く現れていた

 そして最も重要な発見がこちらです。亡くなった方の脳と生前の記録を照らし合わせたところ、気分の落ち込みといった**精神的な症状は、物忘れなどの認知機能の症状が現れるよりも、平均して7.3年も早く始まっていた**ことが判明しました。

これは、気分障害が認知症の「前触れ」というよりも、**脳の中で変化が始まってから一番最初に現れる「警告サイン」の一つ**であることを意味しています。

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## 画期的な新知見と、私たちに残された課題

この研究は未来の医療に大きな希望をもたらす一方で、私たちに新たな問いも投げかけています。

### ここが画期的!未来を変える新知見

**多様な脳の変化の「共通の入り口」を発見したこと**

 今回の最大の発見は、気分障害の背景にある脳の変化が、典型的なアルツハイマー病だけでなく、それ以外の様々なタイプの認知症の原因も含まれていたことです。これは「高齢期のうつ」という一つの症状が、将来的に多様な脳の病気へとつながる共通の入り口であることを示唆します。

**治療の「黄金期」を可視化したこと**

 物忘れより7年も早くサインが現れるということは、本格的な症状が出る前に介入できる**「治療の黄金の時間」**が存在することを科学的に示しました。これは将来の根本治療薬の効果を最大限に引き出すための、極めて重要な発見です。

### 私たちに残された、今後の重要な課題

**原因と結果の完全な解明**

 本研究は「脳のタウ蓄積が気分症状を引き起こす」ことを強く示唆しました。しかし逆の可能性、つまり「長引くストレスやうつ状態が、脳にタウを溜めやすくする」という双方向の関係も考えられます。この因果関係の全容解明は今後の大きな課題です。

**診断後の医療体制の構築**

 PET検査で早期に脳の変化が見つかったとして、「まだ認知症ではない方」にどのように結果をお伝えし、どのような医療や支援を提供すべきか、社会全体で考えていく必要があります。これは医療倫理や制度設計に関わる、非常にデリケートで重要な課題です。

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## 最後に:日々の”心の声”に耳を澄ませて

 お口の健康が全身の健康につながるように、心の健康もまた、脳の健康と密接につながっています。

 「最近、どうも気分が晴れない」「以前と比べて楽しめなくなった」といった心の変化は、決して些細なことではありません。それは、ご自身の脳が発している大切なサインかもしれません。

 もし、ご自身やご家族のことで気になることがございましたら、一人で抱え込まず、かかりつけの医師や専門医にご相談ください。早期に気づき、適切に対処することが、健やかな未来を守るための最も確実な一歩となります。

 当院も、皆様のお口の健康を守ることを通じて、生涯にわたる心と体の健康をサポートしてまいります。どんな些細なことでも、お気軽にご相談ください。

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## 参考文献

[1] Kurose, S., Moriguchi, S., Kubota, M., et al. (2025). Diverse tau pathologies in late-life mood disorders revealed by PET and autopsy assays. *Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association*. DOI: 10.1002/alz.70195

[2] Bioengineer.org. (2025, June 9). *Late-Life Mood Disorders Could Signal Early Onset of Dementia*. Retrieved from https://bioengineer.org/late-life-mood-disorders-could-signal-early-onset-of-dementia/

[3] EurekAlert!. (2025, June 9). *Mood disorders in late-life may be early warning signs for dementia*. Retrieved from https://www.eurekalert.org/news-releases/1086599

[4] Mirage News. (2025, June 9). *Late-Life Mood Disorders: Potential Dementia Warning*. Retrieved from https://www.miragenews.com/late-life-mood-disorders-potential-dementia-1474415/

[5] Discover Magazine. (2025, June 9). *Depression and Bipolar Disorder May Be Early Signs of Alzheimer’s*. Retrieved from https://www.discovermagazine.com/mind/depression-and-bipolar-disorder-may-be-early-signs-of-alzheimers

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