臨時休診のお知らせと、千葉大学法医学教室での学び – 故人の尊厳に触れて(本日研修報告)
# 臨時休診のお知らせと、
千葉大学法医学教室での学び
– 故人の尊厳に触れて(本日研修報告)
本日、当院は臨時休診とさせていただき、患者様には大変ご迷惑をおかけいたしました。誠に申し訳ございませんでした。
実は、私は千葉県歯科医師会の警察嘱託歯科医として、本日、千葉大学法医学教室にて行われました司法解剖見学研修に参加させていただきました。この研修は、歯科医師としての知識・技術の向上はもちろんのこと、社会貢献の一環として非常に重要な機会であり、何よりも、**医学の発展と社会の安全のためにご自身を捧げてくださった故人とそのご遺志、並びにご遺族の皆様に対し、深い敬意と感謝の念を抱きながら**臨ませていただきました。皆様にご理解いただければ幸いです。
今回のブログでは、守秘義務を厳格に遵守し、個人を特定できるいかなる情報も含めることなく、表に出せる範囲とはなりますが、本日得られたばかりの貴重な経験から感じた学びや歯科医療への想いを、速報として綴らせていただきます。
## 生命の尊厳と向き合い、
得る「生きた」情報
法医学の現場は、静謐かつ厳粛な空気に包まれ、真実を解き明かそうとする強い意志が満ちていました。教科書や文献から知識を得ることはもちろん重要ですが、実際に目の当たりにするご遺体からは、それらとは比較にならないほどの情報と、そして何よりも**生命の尊厳**を改めて深く、そして重く感じさせられました。
特に本日印象深かったのは、法医学的検査において確認できた所見の数々です。これまでの知識では、文献上の変化を学ぶことが多かったのですが、今回は組織の性状や色調、細微な変化などを実際に観察することで、わずかな違いから多くの情報を読み解くことの重要性、そしてそのための観察眼を養うことの大切さを改めて痛感いたしました。この学びは、**故人が私たちに残してくださった医学への貴重な貢献**であると謹んで受け止めております。
## 執刀医の的確な視診とインカム活用
– 日常臨床への示唆
さらに、本日大変勉強になったのは、解剖を執刀された法医学の先生が、**故人への最大限の敬意を払いながらも**、メスを進めつつ次々と明らかになる所見を、まるで実況中継のようにインカムを通じて記録係の方へ的確に伝達されていたことです。その鋭い視診と、それをリアルタイムで言語化し記録に残すシステムは、極めて合理的かつ効率的であり、所見の見逃しを防ぎ、客観的かつ詳細な記録を確保する上で大変重要だと感じました。
この手法は、私たちの日常の歯科臨床においても大いに参考になるところが多々ありました。例えば、複雑な外科処置中や精密な診断を行う際に、術者が気づいた微細な変化や特記事項を、手を止めることなくインカム等でアシスタントスタッフに伝え、即座にカルテに記録してもらう、あるいは画像として残すといった応用が考えられます。これにより、より詳細で正確な診療録の作成、スタッフ間のスムーズな情報共有、そしてチーム医療の質の向上に繋がるのではないかと、大きな示唆をいただきました。
## 歯科領域と密接に関連する脳頭蓋底の直接観察 – かけがえのない財産
歯科医師として特に大きな学びとなったのは、普段目にすることが出来ない場所を直接観察できたことです。教科書では何度も目にし、模型でも確認してきた**正円孔(三叉神経第2枝である上顎神経が通る孔)**や**卵円孔(三叉神経第3枝である下顎神経が通る孔)**、そして**下垂体**といった部位を、実際の解剖を通して、その位置関係や周囲組織との連続性を三次元的に、そして「生きた解剖学」として捉えることができました。
これらの部位は、顔面や口腔領域の感覚機能に極めて重要な役割を果たしています。正円孔を通る上顎神経は上顎歯、上顎洞、上唇、頬部、下眼瞼の感覚を支配し、卵円孔を通る下顎神経は下顎歯、下唇、オトガイ部の感覚に加えて咀嚼筋(咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋)の運動機能も担っています。これらの神経走行の正確な理解は、歯科治療における伝達麻酔の効果範囲の把握、原因不明の顔面痛やこの「百聞は一見に如かず」の経験は、今後の臨床における診断精度や治療の安全性向上に繋がる、まさに**私にとってのかけがえのない財産**となりました。これもひとえに、**医学発展のためにご自身を捧げてくださった故人の崇高なご意志のおかげ**です。
## 大学院時代の記憶と、新たな視点
実は、私自身、大学院時代に研究の一環として、献体されたご遺体の頭部を解剖させていただいた経験があります。しかし当時は知識も技術も未熟で、多大な時間を費やしたものの、残念ながら十分に目的を達成できず、中途で断念せざるを得なかったという苦い思い出がありました。
本日、法医学の専門家である先生方による迅速かつ的確な解剖手技と、詳細なご説明を拝聴する中で、当時の疑問点や理解が浅かった部分が次々とクリアになっていくのを感じました。改めて、このような学びの機会の有難さを痛感するとともに、歯科医師として、そして警察嘱託歯科医として、常に知識と技術をアップデートし続けることの使命を再認識いたしました。
## 患者様への還元と、故人への感謝を胸に
今回の研修で得た知見は、直接的には警察嘱託歯科医としての任務に活かされるものですが、人体へのより深い理解、そしてそこから得られた日常臨床への示唆は、必ずや日々の歯科診療において患者様へ還元できるものと確信しております。
**故人の尊厳に深く思いを致し、医学の発展のためにご献身いただいたことへの感謝の念を決して忘れることなく、またご遺族の皆様のお気持ちに配慮し**、この貴重な学びを胸に刻み、明日からの診療においても、医療技術の研鑽に一層励み、皆様により安心で質の高い歯科医療を提供できるよう努めてまいります。
最後になりましたが、本日の臨時休診に際しまして、ご理解とご協力を賜りましたこと、重ねて御礼申し上げます。そして、**この貴重な学びの機会を与えてくださった故人のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、ご遺族の皆様に対しましても深く感謝申し上げます。**
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。