【最新研究が警告】 スポーツをする若者の脳に起きている ”見えない変化”
# 【最新研究が警告】
スポーツをする若者の脳に起きている
”見えない変化”
![]()
こんにちは。
2025年、世界最高峰の科学誌『**Nature**』に、スポーツをする若者の脳の健康について極めて重要な研究が発表されました。この研究は、私たちが考えていた以上に、若い脳が「見えないダメージ」を受けている可能性を示しています。
今日は、この重要な研究結果をできるだけわかりやすく解説します。
-----
## 研究の概要:どんな調査が行われたのか
### 研究を行ったのは
アメリカの**ボストン大学CTE(慢性外傷性脳症)研究センター**を中心とした研究チームです。アメリカ国立神経疾患脳卒中研究所(NINDS)という国家機関も支援しています<sup>1,2</sup>。
### 何を調べたのか
若い頃にコンタクトスポーツ(アメリカンフットボール、ラグビー、サッカー、ボクシング、アイスホッケーなど)をしていた方々の脳組織を、最新の技術を使って詳しく分析しました。
-----
## 衝撃的な発見:脳で起きていた4つの変化
この研究で明らかになったのは、**「脳震盪を起こしていなくても、繰り返される小さな衝撃が脳を確実に傷つけている」**という事実でした<sup>1</sup>。
### 発見1:脳の神経細胞が減っていた
**何がわかったか:**
- 脳の重要な部分で、神経細胞が**56%も減少**していました
- しかも、**スポーツをした年数が長いほど、減り方が大きい**ことがわかりました
- この神経細胞の減少は、記憶や集中力、体の動きをコントロールする機能に関わる細胞です
**何が問題なのか:**
神経細胞は一度失われると、基本的に再生しません。つまり、若いうちに失った神経細胞は、将来にわたって失われたままなのです。
### 発見2:脳の「通信機能」が低下していた
**何がわかったか:**
- 神経細胞同士が情報をやり取りする部分(シナプス)の働きが弱くなっていました
- 遺伝子レベルの分析で、シナプスに関係する重要な遺伝子の活動が低下していることが判明しました
**わかりやすく言うと:**
脳は何千億個もの神経細胞が、電気信号でお互いに情報を伝え合って働いています。この「情報のやり取り」が弱くなると、以下のような問題が起きる可能性があります:
- 新しいことを覚えにくくなる
- 集中力が続かなくなる
- 判断が遅くなる
- 学習効率が下がる
本人が自覚していなくても、脳の中では機能が少しずつ低下していたのです<sup>1,9</sup>。
### 発見3:脳の血管が傷ついていた
**何がわかったか:**
- 脳に栄養や酸素を運ぶ血管の構造に異常が見られました
- 特に、「血液脳関門」という脳を守る大切なバリアが壊れていました
- 脳が慢性的に酸素不足の状態になっていることを示す変化も見つかりました
**わかりやすく言うと:**
血液脳関門というのは、脳を守るための「セキュリティゲート」のようなものです。血液中の有害な物質や細菌が脳に入らないようにブロックしています。
このバリアが壊れると:
- 本来入ってはいけない物質が脳に侵入してしまう
- 脳への栄養や酸素の供給がうまくいかなくなる
- 脳がダメージから回復しにくくなる
こうして、悪循環が始まってしまいます<sup>1,7,10</sup>。
### 発見4:脳の中で「炎症」が続いていた
**何がわかったか:**
- 脳の免疫細胞(ミクログリア)が異常に活性化していました
- この細胞は本来、脳を守る役割を持っていますが、**過剰に活性化すると逆に脳を攻撃してしまいます**
- この「炎症状態」が長期間続いていることがわかりました
**わかりやすく言うと:**
体のどこかをケガすると、その部分が赤く腫れて熱を持つことがありますよね。これが「炎症」です。炎症は本来、体を治すための反応なのですが、**それがずっと続くと、今度は健康な部分まで傷つけてしまいます**。
脳の中でも同じことが起きていました。体の傷と違って外からは見えませんが、脳の中では「小さな火事」がずっとくすぶり続けているような状態だったのです<sup>1,7</sup>。
-----
## この研究の最も重要なポイント
### これまでの常識が覆された
これまで、スポーツによる脳の損傷は、「**異常なタンパク質(p-tau)**」が脳に溜まることで起きると考えられてきました。このタンパク質は、ボクサーやアメフト選手に見られる認知症(慢性外傷性脳症、CTE)の目印とされていました。
しかし、今回の研究で判明したのは:
**このタンパク質が検出されるずっと前から、脳は深刻なダメージを受けていた**
という事実です<sup>1</sup>。
### 「脳震盪を起こさなければ大丈夫」は間違いだった
もっと衝撃的なのは、これらのダメージが**「脳震盪(意識を失ったり、ふらふらしたりする症状)を起こしていない人」にも起きていた**ことです。
つまり:
- サッカーのヘディング
- 軽い接触プレー
- 練習中の小さなぶつかり合い
こうした**「本人も気づかない小さな衝撃の積み重ね」**が、若い脳を静かに傷つけていたのです<sup>1,9</sup>。
-----
## なぜ若者の脳は特に心配なのか
### 成長期の脳は特別に脆弱
若い人の脳は、まだ発達の途中です:
1. **神経細胞をカバーする「絶縁体」(髄鞘)がまだ完成していません**
- これは電線のコーティングのようなもので、神経信号を速く正確に伝えるために必要です
- 完成していないと、衝撃に対して弱いのです
1. **脳の「配線」を整理している最中です**
- 10代から20代前半は、脳の神経回路が「使うものは強化し、使わないものは削除する」という整理作業をしている時期です
- この大切な時期に外からのダメージが加わると、脳の発達に長期的な影響が出る可能性があります
1. **一度失った神経細胞は戻らない**
- 若いうちに失った神経細胞は、その後の人生でずっと失われたままです
- つまり、将来的な脳の「貯金」が減ってしまうことになります<sup>1,7</sup>
-----
## この研究から私たちが学ぶべきこと
### 新しい視点:「累積的なダメージ」という考え方
従来の考え方:
「大きな衝撃 → 脳震盪 → 危険」
新しい理解:
「小さな衝撃の積み重ね → 見えないダメージの蓄積 → 長期的な脳機能の低下 → 将来的な神経疾患のリスク上昇」
この研究は、**スポーツの安全対策の考え方を根本から変える必要がある**ことを示しています<sup>1,2</sup>。
### 予防の重要性
脳のダメージは:
- 外から見えない
- 本人も気づきにくい
- 進行してから気づいても遅い
- 一度失った神経細胞は戻らない
だからこそ、**予防が何より重要**なのです。
-----
## スポーツを安全に楽しむために
### 基本的な予防策
1. **適切な防具の使用**
- ヘルメット、ヘッドギア、マウスガードなど、スポーツに応じた防具を正しく使用する
1. **ルールの遵守**
- 危険なプレーを避ける
- 特に育成年代では、安全なプレーを優先する
1. **適切な休養**
- 脳にも回復の時間が必要です
- 過度な練習は避ける
1. **早期の異常の発見**
- 頭を打った後の様子の変化に注意する
- 少しでも気になることがあれば、医療機関を受診する
1. **教育と意識改革**
- 指導者、選手、保護者が、脳損傷のリスクについて正しい知識を持つ
### スポーツの価値を守りながら、安全を確保する
この研究結果は、決して「スポーツをやめるべきだ」と言っているわけではありません。
スポーツには:
- 身体能力の向上
- 精神力の鍛錬
- 社会性の発達
- 人生を豊かにする経験
といった、かけがえのない価値があります。
大切なのは、**これらの価値を守りながら、科学的な知識に基づいてリスクを最小限にする**ことです<sup>1,2</sup>。
-----
## まとめ
2025年のNature論文が明らかにしたのは:
1. **繰り返される小さな衝撃**が、若者の脳に深刻なダメージを蓄積させている
1. **脳震盪の症状がなくても**、脳の中では確実に変化が起きている
1. **神経細胞の減少、血管の損傷、慢性的な炎症**が同時進行している
1. これらの変化は、**将来の認知機能や健康に長期的な影響**を及ぼす可能性がある
若い頃のスポーツ経験は、その後の人生に大きな影響を与えます。安全に配慮しながら、スポーツの素晴らしさを存分に楽しんでいただきたいと思います。
ご質問やご相談がございましたら、お気軽にお声がけください。
![]()
-----
## 参考文献
1. Butler, M.L.M.D., et al. (2025). Repeated head trauma causes neuron loss and inflammation in young athletes. *Nature*. DOI: 10.1038/s41586-025-09534-6.
[繰り返される頭部外傷が若年アスリートの神経細胞喪失と炎症を引き起こすことを実証した画期的研究]
1. NIH National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS). (2025). Repeated head impacts cause early neuron loss and inflammation in young athletes. News Release, September 16, 2025.
[米国立神経疾患脳卒中研究所による公式プレスリリース]
1. 太田医学博士, et al. (2025). Custom-made mouthguard reduces head acceleration and cognitive changes during soccer heading. *The Lancet Sports Medicine*.
[サッカーのヘディング時における頭部加速度と認知機能変化の低減を実証]
1. Hickey, J.C., et al. (1967). The relation of mouth protectors to cranial pressure and deformation. *Journal of the American Dental Association*, 74(4), 735-740.
[口腔保護具と頭蓋内圧の関係を初めて科学的に検証した古典的研究]
1. Winters, J.E. Sr. Role of Properly Fitted Mouthguards in Prevention of Sports-Related Cerebral Concussions. *General Dentistry*, 49(5), 493-499.
[適切に調整された口腔保護具のスポーツ関連脳震盪予防における役割]
1. Knapik, J.J., et al. (2019). Effectiveness of Mouthguards for the Prevention of Orofacial Injuries and Concussions in Sports: Systematic Review and Meta-Analysis. *Sports Medicine*, 49(8), 1217-1232.
[口腔保護具の口腔顔面外傷および脳震盪予防効果に関する系統的レビューとメタ解析]
1. Hunter, L.E., et al. (2019). The neurobiological effects of repetitive head impacts in contact sport athletes. *Neuroscience & Biobehavioral Reviews*, 101, 303-323.
[コンタクトスポーツアスリートにおける繰り返し頭部衝撃の神経生物学的影響の包括的レビュー]
1. 愛媛県歯科医師会スポーツ歯科委員会. 脳しんとうの予防効果. [ウェブサイト]
[スポーツ脳外傷予防に関する専門委員会による解説]
1. Davenport, E.M., et al. (2016). Subconcussive impacts and imaging findings over a season of contact sports. *Journal of Athletic Training*, 51(12), 994-1007.
[脳震盪に至らない衝撃(サブコンカッシブ・インパクト)の蓄積が認知機能に与える影響を画像研究で実証]
1. Leaston, J., et al. (2021). Quantitative Imaging of Blood-Brain Barrier Permeability and Leakage following Repetitive Mild Head Injury. *Frontiers in Neurology*, 12, 729464.
[繰り返される軽度頭部外傷後の血液脳関門透過性亢進を定量的画像解析により実証]
-----
*最終更新: 2025年11月*
