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【歯科医師が解説】お子さまの「お口ポカン」が気になる方へ―本当に効果的な唇のトレーニングとは

# 【歯科医師が解説】お子さまの「お口ポカン」が気になる方へ―本当に効果的な唇のトレーニングとは

「うちの子、いつもお口が開いているんです」「食べるときにクチャクチャ音がして…」「将来の歯並びが心配で」

このようなご相談を、日々多くの保護者の方からいただきます。お子さまの「お口ポカン」、専門的には**口唇閉鎖不全症**と呼ばれるこの状態は、見た目だけでなく、お口の健康にも影響を与える可能性があります。

今回は、唇の筋肉を鍛えるトレーニングについて、最新の知見をもとに「本当に効果的な方法」をお伝えします。

## 「お口ポカン」が続くと、

どんな影響があるの?

お口が常に開いている状態が続くと、以下のような問題が起こることがあります。

- **口の中が乾燥**して、虫歯や歯肉炎のリスクが高まる
- **歯並びやかみ合わせ**に影響が出ることがある
- **口呼吸**により、風邪をひきやすくなったり、睡眠の質が下がることも

だからこそ、早めの対応が大切なのです。

## 有名な「ボタン訓練」、実は効果が限定的?

唇を閉じる力を鍛える方法として、「ボタンプル訓練」というものが広く知られています。糸のついたボタンを唇と歯の間に挟んで引っ張る、というものです。

歯科の教科書にも掲載されている有名な方法ですが、近年の研究では**その効果に疑問が呈されている**ことをご存知でしょうか。

### なぜ効果が出にくいのか?

理由は、**筋肉の自然な動きと逆方向のトレーニング**だからです。

唇を閉じる筋肉(口輪筋)は、本来「**内側に向かって**」力を入れる筋肉です。上の前歯があることで、唇が自然と内側に引き込まれるのを感じたことはありませんか? これが正常な唇の動きです。

ところが、ボタンプル訓練は唇を「**外側(前方)に引っ張る**」運動。つまり、筋肉が本来働く方向とは真逆なのです。これでは、目的とする筋肉を効率的に鍛えることができません。

## では、どんなトレーニングが効果的なの?

筋力トレーニングの基本原則は、「**筋肉の自然な動きに、適切な負荷をかける**」こと。これは唇のトレーニングでも同じです。

研究では、**厚みのあるプレート(板)を唇と歯の間に入れ、唇を閉じてもらう**という方法が試されています。

### この方法の優れている点

1. 唇を閉じようとすると、プレートが「抵抗(負荷)」になります
1. 唇の筋肉は、この抵抗に逆らって「内側に」力を入れます
1. つまり、**筋肉が本来動く方向で鍛えられる**のです

実験では、プレートが厚いほど筋肉の活動が高まることが確認されています。これは、筋肉の自然な動きに沿ったトレーニングの有効性を示しています。

## ご家庭でできること―

「完璧」より「継続」を

歯科医院で行うような専門的な訓練を、ご家庭で完全に再現するのは難しいかもしれません。でも、ご安心ください。**大切なのは「正しい原理」と「継続すること」**です。

### 続けるための3つのコツ

**① 「1回○分」と決めない**  
時間を決めると、できない日に罪悪感を感じて、結局やめてしまいます。

**② 「毎日5秒でもいい」と考える**  
短くても毎日続けることが、何より大切です。

**③ 「歯磨きのついで」にする**  
何かの習慣に結びつけると、自然と続けやすくなります。

### 簡単な実践例

- 歯磨きの後、鏡の前で唇をギュッと閉じて5秒キープ
- 食後、唇の内側を舌でなぞってから、唇を閉じる意識を持つ
- お風呂で、唇に力を入れて「ん〜」と言ってみる

これだけでも、唇を閉じる意識づけになります。

## まとめ―大切なのは「原因を知る」こと

お子さまの「お口ポカン」には、必ず原因があります。

- 鼻が詰まっていて、口でしか呼吸できない
- アデノイド(喉の奥のリンパ組織)が大きい
- 唇の筋力が弱い
- 歯並びの問題

原因が違えば、対応も変わります。間違った方法を続けるより、まずは**正しい診断を受けること**が何より重要です。

当院では、お子さま一人ひとりのお口の状態を丁寧に診察し、「なぜ唇が閉じにくいのか」その背景にある原因を探ります。必要に応じて耳鼻科との連携もご提案しています。

**「お口ポカン」が気になったら、どうぞお気軽にご相談ください。**

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## 参考文献

本記事の内容は、以下の文献を参考にしています。

1. **日本口腔筋機能療法学会編『口腔筋機能療法(MFT)の臨床』わかば出版、2018年**  
   口腔周囲筋のトレーニング法について、臨床的な観点から詳しく解説されています。
1. **Proffit WR, Fields HW, Sarver DM. Contemporary Orthodontics, 6th ed. Elsevier, 2018.**  
   矯正歯科学の世界的な標準教科書。口唇圧と歯列形態の関係について科学的根拠が示されています。
1. **一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会編『摂食嚥下リハビリテーション 第3版』医歯薬出版、2018年**  
   口腔機能訓練の標準的な手法について、包括的に紹介されています。
1. **小野高裕、井上誠『口腔機能発達不全症マニュアル 第2版』医歯薬出版、2020年**  
   小児の口腔機能発達について、診断から対応まで実践的に解説されています。
1. **Garliner D. Myofunctional Therapy. Ishiyaku EuroAmerica, 1982.**  
   筋機能療法の古典的名著。様々な訓練法の歴史的背景を理解する上で重要な文献です。

※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず歯科医師にご相談ください。

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