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サッカーと脳・歯の健康 ― 事故・外傷から「予防」する科学的根拠 ―

# サッカーと脳・歯の健康

― 事故・外傷から「予防」する科学的根拠 ―

こんにちは。今日はサッカーを中心に、スポーツ時の外傷予防について、医学・歯科の観点から正確な研究結果と実践的なアドバイスをお伝えします。

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## サッカーの外傷と脳疾患リスク

2019年、世界的に権威ある医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』に掲載されたスコットランドの研究では、元プロサッカー選手は一般の方より神経疾患による死亡率が明らかに高いことが示されました。[1]

**研究結果:**

- 認知症による死亡リスク:**3.5倍**
- アルツハイマー病:**5.1倍**
- パーキンソン病:**2.2倍**
- 認知症治療薬処方率:**4.9倍**

この大規模コホート研究では、7,676人の元選手と23,000人の一般の方を対象に、年齢や社会的背景なども統計的に調整して分析されています。

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## 原因として考えられる「ヘディング」

ヘディングは、脳震盪(のうしんとう)や慢性的な微小脳損傷のリスク要因です。プロ選手は20年のキャリアで2,000回以上ヘディングを行い、1回ごとに頭部に体重の20~30倍の衝撃が加わる場合があります。[2][3]

**注目すべき研究結果:**

- ヘディング機会が少ないキーパーは認知症リスクが低い傾向(治療薬処方率が59%低い)[1]
- 高頻度のヘディング経験者ほど、認知機能の低下や脳画像所見(CTE類似所見)の報告が増加

「繰り返される軽微な衝撃」が、長期的に脳に影響を与える可能性が科学的に確認されています。

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## 歯科領域 ― スポーツ外傷と歯髄振盪

サッカーなど接触スポーツでは顔面・口腔外傷も多く、特に **「歯髄振盪(しずいしんとう)」** という目に見えない損傷にも注意が必要です。[4][5][6]

**歯髄振盪とは:**

- 歯の神経(歯髄)が衝撃により一時的に機能を喪失する状態
- 外見上は変化がなくても、神経がダメージを受けていることがある
- 時間経過で自然回復する例もあれば、永久的な壊死につながる例もある
- 小児・若年層は特に発見が遅れる傾向がある

歯と脳はともに「繰り返しの軽微な衝撃」でも、深刻な慢性障害につながることが科学的に確認されています。

### マウスガードは「歯」だけでなく「脳」も守る

マウスガードというと「歯を守るもの」と思われがちですが、実は**脳震盪や脳損傷の予防にも効果**があることが分かっています。[7][8][9][10]

**マウスガードが脳を守るメカニズム:**

1. **衝撃の吸収・分散効果**  
   顔面や顎への直接的な衝撃をマウスガードが吸収し、脳への衝撃伝達を軽減します。
1. **下顎の位置安定化**  
   下顎が安定することで、頭部への衝撃が顎関節を通じて頭蓋骨に直接伝わるのを防ぎます。
1. **クッション効果による脳の揺れ軽減**  
   適切に調整されたマウスガードは、脳が頭蓋骨内で揺れ動く(脳震盪の原因)のを抑制する効果があります。
1. **顎関節の保護**  
   顎関節は頭蓋骨に近い位置にあり、ここを保護することで間接的に脳への衝撃を緩和します。

日本スポーツ歯科医学会の研究でも、適切に作製されたカスタムメイドのマウスガードは、歯の保護だけでなく脳震盪のリスク低減に寄与することが報告されています。[7][8][9][10]

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## 世界的な予防対策の流れ

**アメリカ:**

- 10歳以下ヘディング禁止
- 11-13歳は練習のみ可能

**イングランド:**

- 2024年から12歳以下の公式試合でヘディング全面禁止
- 規制導入により脳震盪発生率が約25%減少した報告あり

**日本の取り組み:**

日本でもスポーツ用マウスガード着用推奨が普及しつつあり、歯の外傷予防効果や口腔内保護(歯髄損傷予防)、さらには脳震盪リスクの低減効果について、日本スポーツ歯科医学会などの専門機関がエビデンス(科学的根拠)を発表しています。[7][8][9][10]

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## 歯科医師からの予防行動指針

日常的に実践していただきたい予防策:

- **マウスガードの着用**と定期的なチェック  
  ※カスタムメイドのマウスガードは歯だけでなく、脳への衝撃も軽減します
- **外傷後は症状がなくても**数週間の経過観察と定期受診  
  歯の変化だけでなく、頭痛・めまい・集中力低下なども注意深く観察
- ヘディング機会の多いポジションでの練習では追加の予防策を検討  
  マウスガード着用に加え、適切なヘディング技術の習得が重要
- 脳・歯・顔面への外傷リスクを正しい知識で事前に減らすことが重要

「これくらい大丈夫」と思われる軽い衝撃でも、蓄積すると将来的な健康リスクにつながる可能性があります。特に脳への影響は、すぐには症状が出ないこともあるため、予防的な対策が不可欠です。

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## サッカーの健康効果と正しい予防のバランス

サッカーには多くの健康面のメリットが科学的に証明されています。[1]

**サッカーがもたらす健康効果:**

- 心臓病死亡率:**20%減**
- 肺がん死亡率:**47%減**
- 平均寿命が長くなる傾向

大切なのは、**「頭部や口腔への外傷予防」と「安全に運動を楽しむ」ことを両立する**ことです。

サッカーの素晴らしさを損なうことなく、適切な予防策(特にマウスガードの活用)を取り入れることで、歯と脳の両方を守りながら、より安全にスポーツを楽しむことができます。

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**当院では、歯科スポーツ医学に基づいたケガ予防のサポート、歯髄振盪の早期発見、そして脳保護機能も考慮したカスタムメイドマウスガードの作製・調整など、幅広いサービスを提供しています。ご家族・ご本人のどんな小さな心配事でもお気軽にご相談ください。**

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### 参考文献・科学的根拠

1. Mackay DF et al. Neurodegenerative Disease Mortality among Former Professional Soccer Players. N Engl J Med. 2019.
1. Stewart WF et al. Heading frequency is more strongly related to cognitive performance than unintentional head impacts in amateur soccer players. Front Neurol. 2018.
1. Russell ER et al. Association of Field Position and Career Length With Risk of Neurodegenerative Disease in Male Former Professional Soccer Players. JAMA Neurol. 2021.
1. スポーツ外傷予防に関する日本スポーツ歯科医学会資料
1. 高頻度のヘディングと認知障害リスク(JAMA Netw Open 2023;6:e2323822)
1. サッカーのヘディングが脳画像に与える影響(星稜大学紀要 2021)
1. 脳機能低下とヘディング関連研究報告(CareNet, Medical Tribune)
1. スポーツマウスガードの効果と歯・口の外傷等の予防(文部科学省資料)
1. マウスガードによる脳震盪予防効果に関する研究(日本スポーツ歯科医学会)
1. カスタムメイドマウスガードの衝撃吸収能に関する研究

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**情報源**

[1] 元プロサッカー選手の認知症高リスクは生活習慣とは関連しない  
[2] サッカーのヘディングが脳に及ぼす影響について  
[3] サッカーのヘディングが脳機能の低下に関連  
[4] いざという時に役立つ歯や口のケガの応急手当て  
[5] スポーツ中の歯の外傷 ― 17歳男性の症例から学ぶ適切な対応  
[6] いざという時に慌てない!スポーツで起こる歯や口のケガの対処法  
[7] スポーツ時の歯の保護:マウスガードの重要性  
[8] マウスガードは怪我の予防にどれくらい効果があるのですか?  
[9] スポーツによる外傷から歯を守る スポーツ用マウスガードに注目!  
[10] スポーツマウスガードの効果と歯・口の外傷等の予防  
[11] 高頻度のヘディングは将来の認知障害リスク

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