1本の歯から、お口全体、そして人生へ ~私たちの診療哲学~
1本の歯から、お口全体、そして人生へ
~私たちの診療哲学~
今回は、私たちが何を大切に考え、どんな想いで診療に向き合っているのかを、いくつかの言葉を通してお伝えしたいと思います。
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### その知識は、
本当に患者様を救えるのか?
「実践無き理論は無力である。理論無き実践は暴力である。」
これは、摂食嚥下リハビリテーションの第一人者として知られる歯科医師・舘村卓先生の言葉であり、医療現場で広く引用される金言です。
この言葉は、私たち歯科医療に携わる者にとって、常に胸に刻むべき基本姿勢を示しています。
- **「実践無き理論は無力である」**
最新の学会や論文からどれだけ多くの理論を学んでも、それを臨床現場で再現できる技術(実践)が伴わなければ意味がありません。
例えば、義歯の咬合調整や口腔機能訓練では、理論的な理解に加え、精密で繊細な手技が求められます。
理論が技術に裏打ちされて初めて、患者様の健康を守る力となるのです。
- **「理論無き実践は暴力である」**
一方で、根拠に基づかない経験的判断だけで治療を行うことは、患者様を危険に繋げてしまうおそれがあります。
すべての処置には「なぜそうするのか」という科学的理由が必要であり、それが医療としての責任であると考えています。
理論と実践は、いわば車の両輪。どちらが欠けても、医療は正しい方向に進むことができません。
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### なぜ、私たちは細部にこだわるのか?
「神は細部に宿る」
この言葉は、建築家ミース・ファン・デル・ローエによって広められた表現で、「優れた仕事は細部へのこだわりによって完成する」という意味を持ちます。
歯科治療の現場では、この言葉の重みを日々実感しています。
歯科の世界は、ミクロン単位(1000分の1ミリ)の精度が結果を左右します。
例えば、詰め物や被せ物の適合に髪の毛1本分のズレがあるだけで、虫歯の再発や咬み合わせの不調につながることがあります。
患者様には見えないような細部の積み重ねこそが、治療の成功と長期的な安定に直結します。
この「精緻さの追求」は、私たちの揺るぎない誇りです。
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### 歯だけを診ていては、
良い治療はできない
「木を見て森を見ず」
この言葉は、「一本の木にばかり注目して森全体を見失ってはいけない」という戒めとして知られています。
私たちは一本の歯を治療する専門家ですが、その背景には必ず「お口全体」や「全身の健康」が関わっています。
「なぜこの歯が悪くなったのか?」
「他の歯や咬み合わせへの影響は?」
「全身疾患や生活習慣と関係していないか?」
「この治療法は、その方のライフスタイルに本当に合っているのか?」
このように、一本の歯を診ながら常に全体を考える視点が、真に患者様の人生に寄り添う医療につながると私たちは信じています。
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### 最後に
私たちの目指す医療は、
**「理論」に裏打ちされた精密な「実践」を行い、細部に徹底してこだわりながらも、常に「全体」を見据える**ことです。
この哲学を胸に、私たちは明日も誠実に診療にあたります。
どうぞ、安心してお口の健康をお任せください。
ご不安なことや気になる症状があれば、いつでもお気軽にご相談ください。
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【参考文献・引用元】
・舘村 卓:摂食嚥下リハビリテーションにおける実践と理論,日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌 ほか
・ミース・ファン・デル・ローエ:"God is in the details"(建築哲学)
・英語格言 "can’t see the forest for the trees"(木を見て森を見ず)
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