ノラ・ジョーンズが教えてくれた 「答えなき美しさ」
ノラ・ジョーンズが教えてくれた
「答えなき美しさ」
2025年9月24日、武道館でノラ・ジョーンズのライブを体験しました。会場を後にする今、胸の奥に残るのは満足感ではなく、静かな「問い」でした。それは決して不快なものではありません。むしろ、この曖昧な感情こそが、今日のライブが特別だった証なのかもしれません。
日常に潜む「Don’t Know Why」
https://youtu.be/tO4dxvguQDk?si=42rwEV3yP6QzpC4S
最終曲として響いた「Don’t Know Why」。この選択が絶妙だった理由を、帰り道で考えていました。
私たちの日常は、実は「なぜだろう?」で溢れています。なぜあの時あの選択をしたのか、なぜ今この場所にいるのか、なぜ心が揺れるのか。しかし普段は忙しさに紛れて、そんな根本的な問いと向き合う時間を持てずにいます。
ノラの歌声が武道館に響いた瞬間、会場にいた数千人がそれぞれの「Don’t Know Why」を抱えていることが、不思議なほど伝わってきました。誰もが自分だけの答えなき問いを胸に、同じメロディーに耳を傾けていたのです。
ライブでしか味わえない
「共有する孤独」
「Don’t Know Why」が最後に選ばれたのは偶然ではないでしょう。この楽曲は、解決を求めません。説明を強要しません。ただ、“わからないまま”を優しく包み込みます。
ライブ会場で体験したのは、「共有する孤独」とでも呼ぶべき感覚でした。隣に座る方も、前の列の方も、みんな自分なりの迷いや選択を抱えています。しかしその孤独は、ノラの歌によって温かく結ばれていました。
CDで聴く「Don’t Know Why」と、ライブで体験する「Don’t Know Why」は全く別の楽曲です。録音された音楽は完璧で美しいのですが、ライブにはその場にいる人々の息づかいや、空気の震えが加わります。不完全だからこそ、生きているのです。
### 答えを急がない勇気
現代社会は答えを急かします。効率を求め、結果を要求し、常に正解を探し続けることを良しとします。しかし今夜のライブは、そんな速度に疲れた心に別の可能性を示してくれました。
「わからないまま歩き続ける」ことの美しさ。迷いを否定せず、むしろそれを抱えて生きることの豊かさ。ノラ・ジョーンズの音楽は、そんなメッセージを押し付けがましくなく、ただ歌として届けてくれます。
トリを飾った「Don’t Know Why」が終わった後の静寂。拍手が起こるまでの数秒間に、会場全体が同じ余韻を共有していました。それは「終わり」ではなく、「始まり」のような感覚でした。
### 日常に持ち帰るもの
ライブから帰る電車の中で、窓に映る自分の顔を見つめながら思いました。今日体験したのは、単なるエンターテイメントではなく、「生き方」についてのささやかな提案だったのかもしれません。
明日からまた日常が始まります。仕事の選択に迷い、人間関係に悩み、将来への不安を感じることもあるでしょう。しかし今夜の記憶があれば、その迷いを少し違った角度から見ることができそうです。
「Don’t Know Why」は、答えを探す歌ではなく、問いを大切にする歌でした。そしてライブという一期一会の空間で体験したからこそ、その意味が心の深いところに届いたのだと思います。
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### ライブに行くということ
音楽は録音技術の発達により、いつでもどこでも高音質で楽しめるようになりました。しかし今夜改めて感じたのは、ライブでしか得られない体験の価値です。
それは音響の良し悪しや、アーティストとの距離感だけではありません。同じ時間、同じ空間で、知らない人たちと何かを共有する不思議さ。一人ひとりが抱える人生の重みを、音楽を通じて感じ合える奇跡。
ノラ・ジョーンズのライブは、そんな音楽本来の力を静かに、しかし確実に伝えてくれる体験でした。もしライブに行こうか迷っている方がいらしたら、ぜひ一度足を運んでみてください。答えは見つからないかもしれませんが、問いを愛することができるようになるかもしれません。
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**ライブ情報**
- アーティスト:ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)
- 会場:日本武道館
- 日程:2025年9月24日
- 最終曲:「Don’t Know Why」