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「何時間寝るか」より「いつ寝るか」が大切

 「何時間寝るか」より「いつ寝るか」が大切 ― 8.8万人を7年間追跡した

睡眠研究の新発見を

## まず知っていただきたいこと

 イギリスで行われた大規模な研究により、私たちが今まで考えていた「良い睡眠」の常識が変わりました。この研究では88,461人を平均6.8年間追跡し、睡眠と172種類もの病気との関係を調べました。

 その結果分かったのは、**「8時間寝ればOK」ではなく、「毎日同じ時間に寝て起きる」ことの方がはるかに重要**だということです。

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## これまでの睡眠研究との違い

 今までの睡眠の研究は、「昨夜は何時間寝ましたか?」という質問に答えてもらう方法が一般的でした。しかし、実際には私たちの記憶は曖昧で、本当の睡眠時間とはずれていることが多いのです。

 今回の研究では、参加者に**腕時計のような装置を手首に付けてもらい、実際の睡眠を24時間測定**しました。これにより、「本当の睡眠の状態」と「病気になるリスク」の関係が初めて明らかになったのです。

### この研究の規模

- **参加者**: 88,461人(イギリス在住)
- **期間**: 平均6.8年間の長期追跡
- **測定方法**: 手首に付けた装置で24時間測定
- **調べた病気**: 363種類(ほぼ全ての病気をカバー)

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## 重要な発見:規則正しさが健康を左右する

 研究の結果、なんと**172種類もの病気**が睡眠のパターンと関係していることが分かりました。そして、最も重要だったのは「睡眠時間の長さ」ではなく、次の3つでした。

### 1. 毎日同じ時間に寝ること

**深夜0時30分以降に寝る習慣がある人**は、23時〜23時30分に寝る人と比べて、**肝臓の病気になるリスクが2.6倍**になることが分かりました。

「今日は早く寝よう」「明日は遅く寝よう」と日によってバラバラにするより、少し遅めでも毎日同じ時間に寝る方が体には良いのです。

### 2. 睡眠時間のバラつきを

少なくすること

「今日は5時間、明日は9時間」というように、日によって睡眠時間がバラバラな人は、**血管の病気(壊疽)になるリスクが2.6倍**になることが判明しました。

### 3. 昼と夜のメリハリをつけること

 昼間にあまり活動せず、夜もだらだらと起きている生活を続けると、**高齢になったときに体が弱くなるリスクが3.4倍**になることが分かりました。

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## 病気全体に与える影響の大きさ

 この研究では、驚くべき事実も明らかになりました。**92種類の病気において、そのリスクの20%以上が睡眠の乱れと関係している**可能性があるのです。

具体的には:

- **パーキンソン病の37%**
- **糖尿病の36%**
- **心臓病の25%**

これらが睡眠の乱れと関連している可能性があります。つまり、睡眠を整えるだけで、将来多くの病気を予防できる可能性があるということです。

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## お口の健康への影響

 睡眠の乱れは、歯や歯ぐきの健康にも大きく影響します。当院でも、睡眠習慣の乱れている患者さんに口の中のトラブルが多いことを実感しています。

### 夜更かしがお口に与える悪影響

**夜食や間食が増える**
 夜遅くまで起きていると、どうしても何かを口にしたくなります。特に甘いものや炭水化物を摂ることが多く、これがむし歯の大きな原因になります。

**口の中が乾きやすくなる**
b睡眠不足が続くと、唾液の量が減ってしまいます。唾液は口の中を洗い流し、細菌の増殖を抑える大切な役割があります。唾液が減ると、むし歯や歯周病になりやすくなってしまいます。

**歯ぎしりや食いしばりが増える**
 睡眠の質が悪いと、無意識のうちに歯ぎしりや食いしばりをしてしまうことが多くなります。これにより歯が削れたり、歯ぐきに負担がかかったりします。

### 歯周病と睡眠の悪循環

 睡眠不足は体の免疫力を下げるため、歯周病菌に対抗する力が弱くなります。一方で、歯周病による炎症は体全体に影響し、さらに睡眠の質を悪化させてしまいます。

**つまり、良い睡眠習慣は、全身の健康だけでなく、お口の健康を守る基本なのです。**

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## 今日から始められる睡眠改善法

### 基本中の基本:時間を決める

**毎日同じ時間に寝て起きる**

- おすすめの就寝時間:23時〜23時30分
- 土日も平日と同じリズムを保つ
- 30分以内のずれなら問題なし

### 朝の過ごし方を変える

**起きたらまず太陽の光を浴びる**
 朝の太陽光は、体内時計をリセットする最も強力な方法です。カーテンを開けて部屋に光を入れたり、ベランダに出て深呼吸をしたりしましょう。曇りの日でも、室内より外の方が10倍明るいのです。

### 夜の過ごし方を見直す

**寝室はスマホ禁止区域に**
 ベッドの上でスマホを見る習慣をやめるだけで、睡眠の質は大きく改善します。どうしても見たい場合は、リビングで済ませてから寝室に向かいましょう。

**20分ルールを覚える**
 ベッドに入って20分経っても眠れない時は、一度ベッドから出ましょう。リビングで軽い読書などをして、眠くなったら再びベッドに向かいます。

### 食事のタイミングも大切

**夕食は寝る3時間前までに**
 食べ物の消化にはエネルギーが必要です。寝る直前に食事をすると、体が消化に集中してしまい、深い眠りを妨げてしまいます。

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## この研究で注意すべき点

 この研究は「観察研究」と呼ばれるもので、「睡眠の乱れが病気の原因」と断定するものではありません。また、研究の参加者はイギリスの中高年(平均62歳)が中心のため、日本人や若い方にそのまま当てはまるとは限りません。

ただし、規則正しい睡眠が健康に良いことは、多くの研究で確認されており、実践して損はありません。

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## こんな症状があれば病院へ

 以下のような症状がある場合は、睡眠外来や内科で相談することをお勧めします:

- 家族から「いびきがひどい」「息が止まっている」と言われる
- 十分寝ているはずなのに、昼間に強い眠気がある
- 夜中に何度も目が覚めてしまう
- 朝起きても疲れが全然取れない
- 脚がムズムズして眠れない

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## まとめ:睡眠を整えて健康な毎日を

 今回の大規模研究により、**「何時間寝るか」よりも「いつ寝るか」「規則正しく寝るか」の方が重要**であることが科学的に証明されました。

### 覚えておきたいポイント

1. **毎日同じ時間に寝て起きる**(30分以内のずれはOK)
1. **深夜0時30分以降の就寝は避ける**
1. **昼間は活動的に、夜はしっかり休む**
1. **睡眠の乱れは172種類の病気と関連**

### 歯科医師として

 当院では、患者さんの口の健康を守るために、歯磨きの方法や食事指導と同じくらい、睡眠習慣についてもお話しさせていただいています。

 規則正しい睡眠は、むし歯や歯周病の予防だけでなく、全身の健康維持にも欠かせません。まずは就寝時間を決めることから始めてみませんか?

 お口の健康について気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。

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## 参考文献

1. Wang Y, Wen Q, Chen Q, et al. Phenome-wide Analysis of Diseases in Relation to Objectively Measured Sleep Traits and Comparison with Subjective Sleep Traits in 88,461 Adults. *Health Data Science*. 2025;5:0161.
1. Kohn S, Diament A, Godneva A, et al. Phenome-wide associations of sleep characteristics in the Human Phenotype Project. *Nature Medicine*. 2025;31(3):1026-1037.
1. Irwin MR. Why sleep is important for health: A psychoneuroimmunology perspective. *Annual Review of Psychology*. 2015;66:143-172.

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