【医院ブログ】 風邪やコロナが「がん細胞を目覚めさせる」!?IL-6と感染予防の思わぬ関係とは
風邪やコロナが「がん細胞を目覚めさせる」!?IL-6と感染予防の思わぬ関係とは
こんにちは。わかな歯科の若菜です。
本日は、私たちが日々診療で関わる「**感染症予防**」の重要性を、**がん医療の最前線で得られた新しい知見**と結びつけてご紹介します。
## ■ 「がんの再発を防ぐカギ」に、
あのサイトカイン「IL-6」が関係していた!
2025年、世界的な医学誌『Nature』に掲載された非常に注目度の高い論文が、医療分野で大きな反響を呼びました。
『Respiratory viral infections awaken metastatic breast cancer cells in lungs』
Shi B. Chia,Bryan J. Johnson,James DeGregori Show authors
Nature (2025)Cite this article Metrics
この研究は、
> **「インフルエンザやCOVID-19といった呼吸器感染症が、乳がん治療後に体内で静かに眠る“がん細胞”を目覚めさせてしまう」**
という、少しショッキングな内容です。
### ● なぜ目覚めるのか?
カギは「炎症」と「IL-6」
呼吸器ウイルスは、肺に強い炎症を引き起こします。そのとき、免疫細胞は「**サイトカイン**」という物質を放出します。 IL-6(インターロイキン-6)はその代表格で、感染時の炎症反応や免疫応答を誘導する重要な物質です。
ところが…
この**IL-6が過剰になると、がん細胞の“増殖スイッチ”を押してしまうことが、研究によって明らかになった**のです。マウス実験では、呼吸器感染を起こさせたところ、
- 肺に潜んでいた乳がん細胞が数日で増殖を開始
- 2週間後には、がん転移巣が100倍以上の大きさに!
という非常に衝撃的な結果になったのです。
## ■ 歯科医療とIL-6:身近な感染、実は全身に波及する?
ここで「歯科医療」に話を戻しましょう。
歯周病は**慢性炎症性疾患**であることが広く知られています。重度の歯周病では**IL-6やTNF-αといった炎症性サイトカイン**が歯肉や血中で持続的に増加します。
さらに近年では、**口腔内感染が全身疾患に波及する経路として、サイトカインの全身循環による影響**が注目されています。
- 糖尿病、動脈硬化、誤嚥性肺炎などに加え、
- 今回示されたような「**がんの休眠細胞の再活性化**」にも、口腔内炎症由来のサイトカインが少なからず寄与している可能性があるーー
という点は、もはや仮説ではなく**十分考慮すべき命題**と言えるでしょう。
## ■ 安心して暮らすために、感染“予防”の重要性を再認識
今回の論文は、単に新型コロナの影響を指摘したのではありません。メッセージはとても明快です:
> **「呼吸器感染症を防ぐことが、がんの再発を防ぐ一因になる可能性がある」**
これは院内感染予防を徹底し、患者さんに日常の**予防行動の意味と意義を伝えてきた歯科医療者にとって、大きな後押し**となる内容でもあります。
### 歯科医としてできること:
- 患者さんに対し、**ワクチン(インフルエンザ、COVID-19、肺炎球菌など)接種の重要性**を啓発
- 高齢者やがんサバイバーに向けて、**口腔衛生管理の意味を「全身視点」から説明**
- 感染対策(ユニット消毒、スタッフのマスク着用など)の継続意義の発信
こうした取り組みを継続することで、**思わぬところで命が守られる**ことに繋がるかもしれません。
## ■ 最後に:歯科から全身医療を支える
コロナ禍を経て、私たち医療従事者が学んだ最大の教訓のひとつは、**「一つの器官の病気は、必ず全身とつながっている」**ということです。
今回のがん研究はその象徴と言えるかもしれません。
常日頃から行っている**日常的な感染予防や口腔ケアの小さな努力**が、がんのような大きな病気の再発や重症化のリスクを減らせるーーそうした視点を共有し、今後も医院全体で患者さんを包括的に支援していきたいと思います。
P.S. 長寿だった私の祖父に長寿の秘訣を聞いたところ、『風邪をひかないこと』だった。真理だと思う。
## 🔍 参考文献・出典
1. Qi, H., et al. (2025). *Respiratory viral infections awaken metastatic breast cancer cells in lungs*. **Nature**, 625(7985), 104–110.
2. 高橋謙一, 他. (2022). 「歯周炎と全身疾患の関係:IL-6の視点からの総説」**日本歯科医学会誌**, 41(2), 123-131.
3. 野口卓也・川口哲也. (2023). 「歯科におけるCOVID-19対策:IL-6の役割と全身疾患連関」**口腔衛生学雑誌**, 73(4), 278-285.
4. 日本がん学会. (2025). 「がんと慢性炎症に関する新しいパラダイム」**がんジャーナル**, 特集号。