ダ・ヴィンチ・コードの真実?:歯科医が解き明かす「ウィトルウィウス的人体図」500年の謎
# ダ・ヴィンチ・コードの真実?
:歯科医が解き明かす
「ウィトルウィウス的人体図」500年の謎
今回は、最近発表された非常に興味深い論文をご紹介したいと思います。テーマは、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたあまりにも有名な**「ウィトルウィウス的人体図」**です。
この絵を見たことがあるでしょうか?円と正方形の中に、男性が手足を広げて立っている有名な絵です。実はこの絵には、500年以上もの間、世界中の研究者が頭を悩ませてきた**大きな謎**が隠されているのです。
最近、この謎を解く鍵となるかもしれない論文が、ロンドンの歯科医ローリー・マクスウィーニー博士によって発表されました¹⁾²⁾。この記事では、この論文の内容を分かりやすく紹介し、私なりの考察を加えてお伝えします。
## 論文の背景:500年前の難しい問題
### 古代ローマ人が出した宿題
まず、この謎がどこから始まったかを説明しましょう。
今から約2000年前、古代ローマの建築家ウィトルウィウスという人が、こんなことを言いました³⁾:
「完璧な人体のプロポーション(体の各部分の比率)は、**円**と**正方形**の両方にピッタリ収まるはずだ」
- 円 = 宇宙を表す
- 正方形 = 地上を表す
つまり、「人間の体は、宇宙と地上の両方に調和するように作られている」という考え方です。
でも、ウィトルウィウスは「そんな絵が描けるはずだ」と言っただけで、実際にどうやって描けばいいかは教えてくれませんでした。これが後の芸術家たちにとって、とても難しい宿題となったのです。
### レオナルドだけが解けた謎
その後、たくさんの芸術家がこの問題に挑戦しました。でも、見事に解決したのは**レオナルド・ダ・ヴィンチただ一人**でした。
レオナルドのすごいところは、**円と正方形の中心を別々の場所に置いた**とです³⁾:
- 円の中心:おへその位置
- 正方形の中心:体の下の方(性器の位置)
この発想により、人体を両方の図形にうまく収めることができたのです。
### 今まで信じられていた「黄金比」の問題
では、レオナルドはどんな計算でこの絵を描いたのでしょうか?
長い間、その答えは**「黄金比」**だと考えられてきました⁴⁾。黄金比とは約1.618という比率で、「最も美しい比率」として有名です。
でも、この論文によると、この説には大きな問題がありました。実際に絵を正確に測ってみると、正方形の一辺と円の半径の比率は**約1.64〜1.65**になります⁵⁾。
黄金比(1.618)とは、2%以上も違うのです。これは「誤差」として片付けるには大きすぎる差でした。
## 論文の核心:新しい発見
### レオナルドが残した重要なヒント
マクスウィーニー博士の研究は、レオナルド自身が絵に書き残した一つの言葉から始まりました⁶⁾。
レオナルドは鏡文字(普通とは反対向きの文字)でこう書いていました:
> 「…両脚の間の空間は**正三角形**をなすであろうことを」
今までの研究者たちは、これを「ただのポーズの説明」だと思っていました。でも博士は、この「正三角形」こそが絵全体の**設計図**なのではないかと考えたのです。
### 歯科医だからこそ気づいた関連性
博士は歯科医だったので、この正三角形を見た時に、ある重要なことを思い出しました⁷⁾⁸⁾。
それが**「ボンウィル三角」**です。
ボンウィル三角って何?
- 左右の顎の関節と、下の前歯の真ん中を結んだ三角形
- 一辺が約10cmの正三角形
- 顎が一番効率よく動くための「理想的な形」
- 今でも入れ歯を作る時などに使われる大切な基準
博士は、レオナルドが描いた脚の間の正三角形が、この「ボンウィル三角」とそっくりだということに気がついたのです。
### 新しい比率「四面体比」の発見
博士がこの「正三角形」を基本にして計算を進めると、今まで知られていなかった比率が出てきました。それが**「四面体比」**です。
四面体比とは?
- 数値:√8/3 ≈ 1.633
- 意味:自然界で最も効率的な構造を表す比率
- 例:原子がきれいに並ぶ時の基本的な法則
### 論文が主張する驚きの一致
そして、論文で最も重要な発見がこれです²⁾:
この**四面体比(1.633)**は、従来の黄金比(1.618)よりも、レオナルドが実際に描いた絵の比率(約1.64〜1.65)に**とても近い**のです。
この一致は偶然ではなく、レオナルドが実際にこの比率を使って絵を描いていた可能性があるというのが、論文の主張です。
## 私の考察
この論文で最も優れている点は、従来の黄金比説の数値的な問題を解決し、実際のデータにより近い新しい仮説を示していることです。
また、レオナルド自身が書いた「正三角形」という言葉から出発し、美術史と現代医学の知識を結びつけた発想も面白いと感じます。
ただし、現代の考え方を500年前の人の思考に当てはめることには注意が必要で、はっきりとした証拠がない以上、魅力的な「仮説」として受け止めるべきだと思います。
それでも、この研究はレオナルドが芸術と科学を一つのものとして考えていた可能性を示しており、とても価値のある研究だと考えます。
## 現代への影響
### 医学・歯科分野への示唆
この論文が示した考え方は、現代の医学分野にも大切な示唆を与えます:
**機能と美しさの統合**
「最も効率的に働く」ことと「美しく見える」ことが、同じ法則から生まれるという考え方は、現代の歯科治療でも重要です。機能的でありながら美しい治療を目指すという理念と重なります。
**力学的な法則の重要性**
「ボンウィル三角」や「四面体比」といった考え方の見直しは、以下のような分野での応用可能性を示しています:
- より良い入れ歯の設計
- 顎の手術の精度向上
- 医療器具の改良
### 学術研究への示唆
**異なる分野の知識を組み合わせる価値**
この論文は、専門分野の壁を超えた研究の重要性を示しています。歯科医が美術史に新しい視点を提供したという事実は、違う分野の知識が組み合わさることで生まれる新しい発見の可能性を教えてくれます。
**当たり前だと思われていることを
見直す大切さ**
長年信じられてきた「黄金比説」に数値データで挑戦したこの研究は、科学において仮説を検証することの重要性を改めて示しています。
## まとめ
マクスウィーニー博士の論文は、レオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」に隠された500年の謎に対して、これまでとは全く違う解釈を提示しています。
この研究が教えてくれるのは、レオナルドがただの芸術家ではなく、自然界の法則を深く理解し、それを作品に反映させていた可能性があるということです。芸術の美しさ、体の仕組み、物理学の法則が一つの真理として結びついた世界観を持っていたのかもしれません。
論文の内容が全て正しいかどうかは、今後の研究で確かめる必要があります。しかし、この研究が提起した問題意識と新しい視点は、科学と芸術の境界を超えた知的探究の素晴らしい例だと思います。
私たちが日常的に使っている医学や歯科の知識が、人類の文化遺産とこのような形で結びついているという発見は、専門職としての仕事に新たな意味と誇りを与えてくれるものです。
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## 参考文献
1. Nazology. “ダヴィンチの人体図に隠された「500年の謎」を歯科医が解明か”. https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/180797
1. Vietnam.vn. “レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作『ウィトルウィウス的人体図』に隠された秘密を解明”. https://www.vietnam.vn/ja/cong-bo-bi-mat-an-giau-trong-kiet-tac-nguoi-vitruvius-cua-leonardo-da-vinci
1. Wikipedia. “ウィトルウィウス的人体図”. https://ja.wikipedia.org/wiki/ウィトルウィウス的人体図
1. ダ・ヴィンチ・ウェブ. “ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図をわかりやすく解説”. https://davincist.com/davinci-500-memorial-year/
1. Mathematica. “ウィトルウィウス的人体図と黄金比”. https://mathematica.site/web-mag/web-mag-egypt/5-4/
1. Takashi IDA. “ウィトルウィウス的人体図と黄金比”. https://takashiida.net/education/vitruvian_man/
1. OralStudio. “Bonwill三角 − 歯科辞書”. https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/5415
1. YouTube. “咬合器の設計の基本〜ボンウィルの三角とバルクウィル角について”. https://www.youtube.com/watch?v=oeyoOqIAIFI
1. 学研書院. “近世の咬合の歴史”. http://www.gakkenshoin.co.jp/book/ISBN978-4-7624-1671-2/02.pdf
1. 名古屋工業大学. “レオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」と黄金比”. http://www.crl.nitech.ac.jp/~ida/education/MaterialsDesign/03_08/VitruviusJ.pdf
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*本記事は、マクスウィーニー博士の研究論文と関連する学術資料を基に、論文の内容を紹介し、私なりの考察を加えたものです。記載内容は現時点での研究成果に基づいており、今後の研究によって見解が変わる可能性があります。*