わかな歯科

お知らせ

お口から始まる新型コロナ後遺症?〜口腔内感染とロングCOVIDの関係を解説〜

# お口から始まる新型コロナ後遺症?

〜口腔内感染とロングCOVIDの関係を解説〜

## はじめに

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が広がってから数年。最近では、感染後に長く続く症状「ロングCOVID(後遺症)」が社会問題となっています。長引く倦怠感や呼吸困難に加え、「味がしない」「口が渇く」といったお口に関係する症状も、実はロングCOVIDの一部です。

 2025年に発表された医学レビュー論文「Oral SARS-CoV-2 Infection and Risk for Long COVID(Schwartzら, 2025)」は、口腔がSARS-CoV-2の感染部位であることと、それがロングCOVIDの引き金になる可能性を詳しく検討しています。この記事では、その内容をわかりやすくご紹介し、歯科医院として私たちができることも併せてお話しします。

## 1. 新型コロナは「口の中」にも感染する

 SARS-CoV-2は口腔の粘膜や唾液腺の上皮細胞に感染・増殖する病原体です。 ウイルスが人の細胞に侵入するには「ACE2受容体」や「TMPRSS2」というタンパク質が必要です。これらは舌、頬の内側、唾液腺など口腔内の広い範囲に分布しているため、ウイルスは容易に口腔組織に侵入・増殖できるのです。

さらに、感染者の唾液中には高濃度のウイルスRNAが含まれていることが、PCR検査などで証明されています。つまり、口腔は「感染の入り口」であると同時に「ウイルスの温床」にもなり得るのです。

## 2. 味覚障害やドライマウスは、

ただの一時的症状ではない?

 急性期のCOVID-19にかかった方の中には、「味や匂いがしない」「口が乾く」といった症状を訴える人が多く見られます。ところが問題は、これらの症状が数ヶ月から1年以上も続くことがあるという点です。

Schwartzらのレビューでは、SARS-CoV-2が唾液腺や口腔粘膜に持続感染し、炎症や免疫異常を引き起こすことで、慢性的な口腔症状(Oral PASC: Post-Acute Sequelae of COVID)が現れると報告しています。 これには以下のような症状が含まれます:

* 持続的な味覚異常(味覚障害)
* ドライマウス(口の渇き、唾液分泌の低下)
* 歯肉炎、口内炎
* 歯の痛み、舌の違和感

つまり、これらは一過性ではなく、ウイルスの「口腔内持続」が関係する可能性があるのです。

## 3. 歯周病とロングCOVIDの意外な関係

 特に注目すべきは、「歯周病があるとロングCOVIDが重くなる可能性がある」という指摘です。

歯周病は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と口腔内の後遺症(PASC)の要因になることが示されています。口腔PASCには歯周病、歯の喪失、味覚異常、口の渇き、唾液腺炎や粘膜炎などが含まれます。

 歯周病は慢性的な炎症を引き起こし、免疫系に継続的な負担をかけます。これにより、ウイルス感染時に体が過剰な免疫反応を起こしたり、逆にウイルスを十分に排除できず持続感染状態になったりすることがあるのです。

 口腔の健康状態が悪いと、ウイルスの増殖を促進し、抗ウイルス抵抗力を弱め、SARS-CoV-2感染への感受性を高めることがわかっています。この免疫機能障害は、他のウイルス感染のリスクも増加させ、歯周病や歯内疾患などの口腔疾患を悪化させます。

## 4. 歯科医院でできる感染・後遺症予防

 では、歯科医院として、どのような役割を果たせるのでしょうか?以下のような取り組みが重要です。

### (1)定期的な歯周病ケア

 歯周病の予防と早期治療によって、口腔内の慢性炎症を抑え、ウイルスの感染・持続を防ぐことができます。歯科でのプロフェッショナルクリーニング(PMTC)やスケーリングは特に効果的です。

### (2)唾液分泌のサポート

 ドライマウス対策として、唾液腺マッサージや保湿ジェルの使用指導を行うことで、口腔粘膜のバリア機能を高められます。唾液には抗ウイルス作用があるため、自然の防御力を維持することができます。

### (3)口腔清掃と免疫力の維持

 歯磨きや舌清掃、うがいの指導を通じて、細菌やウイルスの定着を防ぐ清潔な口腔環境づくりをサポートします。特に舌苔(舌の汚れ)はウイルスの付着源になりやすいため、舌ブラシの活用が有効です。

### (4)感染対策の徹底

 患者さんに安心して来院いただけるよう、診療室の換気、器具の滅菌、スタッフの感染防護など、医療機関としての衛生管理を徹底しています。

## 5. ワクチン接種とロングCOVIDの予防

 CDCによると、COVID-19ワクチン接種はロングCOVIDのリスクを減らす最善の手段とされています。研究によれば、ワクチン接種がロングCOVIDの発症リスクを27%低減することが示唆されています。

## おわりに:お口の健康が全身を守る時代へ

「口は健康の入り口」とよく言われますが、感染症の時代には"防波堤"としての役割も果たすことが分かってきました。日々の歯磨きだけでなく、定期的な歯科検診や口腔ケアが、ロングCOVIDのリスクを下げる可能性があるのです。

 歯科医療従事者は、エアロゾルや飛沫による感染リスクが高いため、SARS-CoV-2などの感染症に非常にかかりやすい環境で働いています。 それでも歯科医院は、ウイルス対策にも"もうひとつの前線"として重要な場所です。ぜひ、「自分と家族の健康を守る場所」として、定期的な受診をおすすめします。

## 参考文献
1. Schwartz J, Capistrano K, Hussein H, Hafedi A, Shukla D, Naqvi A. Oral SARS-CoV-2 Infection and Risk for Long COVID. Rev Med Virol. 2025;35(2):e70029. https://doi.org/10.1002/rmv.70029

元のページへもどる