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ファントムバイトシンドローム:歯の治療後に感じる不思議な違和感について

# ファントムバイトシンドローム:

歯の治療後に感じる不思議な違和感について

 こんにちは!今回は「ファントムバイトシンドローム」という、あまり知られていない症状についてお話しします。歯の治療をした後に「何だか噛み合わせがおかしい」と感じた経験はありませんか?実は、そのような感覚が長く続くケースがあるんです。

## ファントムバイトシンドロームって何?

 ファントムバイトシンドローム(PBS)とは、歯科治療の後に「噛み合わせが合わない」という強い違和感が続く状態のことです。面白いのは、歯科医が調べても実際には噛み合わせに問題が見つからないのに、患者さんはどうしても「おかしい」と感じ続けるところです。

 この症状の名前は、手や足を失った人が「幻肢痛(げんしつう)」として切断された手足がまだあるように感じる現象になぞらえて、1976年にMarbachという研究者によって名付けられました。

## どんな症状があるの?

 ファントムバイトシンドロームの主な症状には次のようなものがあります:

- **噛み合わせの違和感**:何度調整しても「噛み合わせがおかしい」と強く感じる
- **体のあちこちの不調**:頭痛、肩こり、腰痛、めまい、だるさなど様々な症状を伴うことも
- **治療への強い希望**:「何とかして治してほしい」と繰り返し治療を求める傾向がある

## なぜ起こるの?

 ファントムバイトシンドロームの原因は完全には解明されていませんが、主に以下のような要因が関係していると考えられています:

1. **脳の働きの微妙な乱れ**  
   研究によると、この症状がある人の脳では、特に前頭葉という部分の働きに変化が見られることがあります。脳の中の情報伝達がうまくいっていない可能性があるんですね。

2. **心理的な要因**  
   完璧を求める性格の人や、ストレスを抱えている人、気分が落ち込んでいる人に起こりやすいことがわかっています。ただし、重い精神疾患とは必ずしも関連しないケースが多いです。

## どうやって診断するの?

 ファントムバイトシンドロームの診断は、歯科医師による診察と患者さんへの詳しい問診によって行われます。歯や噛み合わせに明らかな問題が見つからないのに強い違和感がある場合、この症状を疑います。

 また、過去の歯科治療の履歴を確認することも重要です。この症状を持つ人は、様々な歯科医院を転々として治療を受けていることが多いからです。

## 治療方法は?

 ファントムバイトシンドロームの治療は簡単ではありませんが、いくつかのアプローチがあります:

1. **心理的なサポート**  
   症状について丁寧に説明し、患者さんの不安を和らげることが大切です。

2. **薬による治療**  
   抗うつ薬や、場合によっては抗精神病薬が効果的なこともあります。これらは脳内の神経伝達物質のバランスを整える働きがあります。

3. **マウスピース(スプリント)療法**  
   噛み合わせを安定させるためのマウスピースを使うこともありますが、過剰な歯科治療はかえって症状を悪化させることがあるため注意が必要です。

## 予防と生活改善のポイント

 ファントムバイトシンドロームを予防する確実な方法はまだわかっていませんが、以下の生活習慣が役立つと考えられています:

- **ストレス管理**:リラックスする時間を作り、ストレスをうまく発散しましょう
- **良質な睡眠**:規則正しい睡眠習慣を心がけ、睡眠環境を整えましょう
- **姿勢の改善**:良い姿勢を保つことで、顎や首、肩の筋肉への負担を減らしましょう

## 心への影響

 ファントムバイトシンドロームは、患者さんにとって大きな心理的負担となります。症状が良くならないことによる落ち込みや、何度も治療を繰り返すことによる経済的な負担、さらには家族関係の悪化などを引き起こすこともあります。

 そのため、治療には歯科的なアプローチだけでなく、心理的なサポートも非常に重要なのです。場合によっては、歯科医師と精神科医が連携して治療を行うことが必要になります。

## まとめ

 ファントムバイトシンドロームは、実際の噛み合わせに問題がないのに強い違和感を感じる不思議な症状です。脳の働きの変化や心理的な要因が関係していると考えられています。

もし「何度治療しても噛み合わせがおかしい」と感じる場合は、単なる歯の問題ではなく、このような症状の可能性もあることを知っておくと良いでしょう。治療には歯科医師との信頼関係が大切です。

## 参考文献

1. Marbach JJ.: ''Phantom bite'': classification and treatment. J Prosthet Dent. 49:556-559, 1983.
2. Watanabe M, et al.: Case Report: Iatrogenic Dental Progress of Phantom Bite Syndrome. Front Psychiatry. 2021; 12: 701232.
3. Phantom bite syndrome: Revelation from clinically focused review. World J Psychiatr. 2021; 11(11): 1053-1064.
4. The paradoxes of phantom bite syndrome or occlusal dysaesthesia... - Dental Update, 2023.
5. Biological and psychological factors affecting the sensory and jaw... - Wiley Online Library, 2023.
6. Mina M. Faiek, DMD, MHA, FACD: Occlusal Dysesthesia – A Case Study. LinkedIn, 2023.

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