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蝋でつくる驚きの医療模型!――ムラージュと現代歯科のつながり

# 蝋でつくる驚きの医療模型!

――ムラージュと現代歯科のつながり

## 名古屋大学博物館で見つけた"タイムカプセル"  

 先日、名古屋大学博物館を訪れたとき、思わず「えっ、これ本物じゃないの?」と声を上げてしまいました。ガラスケースの中に並ぶ皮膚病の模型があまりにもリアルだったんです。これが「ムラージュ」と呼ばれる19世紀の蝋製模型だと知って、さらにビックリ!

 でも、歯科医師として一番驚いたのは、この古い技術が私たちの日常診療で使う**歯の型取り**や**顔の一部を人工的に再現する技術**のルーツだったということ。今日はその不思議なつながりについてお話しします!

## ムラージュって何?簡単に言うと…  
 ムラージュは「蝋でつくった超リアルな医療模型」のこと。今でいうと、医学部の実習で使うような精巧な模型の大先輩です。

### どうやってつくるの?  
 1890年代、東京大学の伊藤有(ゆう)さんが確立した製作方法はこんな感じ:

1. 患者さんの患部にオリーブオイルを塗る(くっつかないように)  
2. 石膏で型をとる(ちょうど歯医者さんが歯の型をとるみたい!)  
3. その型に特別な蝋を流し込む(蜜蝋とパラフィンを7:3で混ぜるのがコツ)  
4. 7種類もの色を重ねて塗り、本物そっくりに仕上げる  

 今のスマホで言えば、最新iPhoneが出た時くらいの衝撃だったんでしょうね。当時の若手医師の月給の半分ほどの値段(15-18円)で売られていたそうです。

## 歯医者さんの技術とのつながり  
 皆さんが歯医者さんで「はい、口を開けてください〜」と言われて型をとる時の技術、実はムラージュと共通点がたくさん!

- **ぴったり合う型取り**:歯の型取りで大事な「端っこまでしっかり取る技術」はムラージュから学んだもの  
- **二段階の印象法**:歯科で使う精密な型取り法はムラージュの技術がベース  
- **天然の歯の色を再現する技術**:ムラージュの色塗り技術が今の歯の色合わせに生きている  

 東京歯科大学には1923年(約100年前!)に作られた「虫歯の進行模型」が今も残っていて、現代の歯科教育モデルの原点となっています。

## エピテーゼって何?顔の「パズルピース」

 「エピテーゼ」という言葉、聞いたことありますか?これは、事故や病気で失われた顔の一部(耳や鼻、目の周りなど)を人工的に作って補う技術のことです。「顎顔面補綴(がくがんめんほてつ)」の重要な一部なんです。

 ムラージュとエピテーゼは、実は「双子の技術」とも言えます!どちらも:
- 患者さんの体から直接型を取る
- 精密な色合わせをする
- 本物そっくりの質感を追求する

## 顎顔面補綴のルーツを探る旅
 顎顔面補綴の歴史は意外と古く、紀元前9世紀のエジプトでミイラに装着された人工鼻の記録がありますが、現代的な技術の直接のルーツは19世紀末のムラージュにあります。

### 進化の重要なステップ:
1. **16世紀**:フランスの外科医アンブロワーズ・パレが金属製の顔面補綴物を開発
2. **19世紀**:ムラージュ技術者が皮膚病変の再現から「人工顔面パーツ」製作へ技術応用
3. **第一次世界大戦**:「顔の再建」が医療的・社会的課題となり発展
4. **1920年代**:ドレスデンのハインリヒ・ラングが「社会復帰のための顔面補綴」を体系化

## 戦争が進化させた技術  
 第二次世界大戦中、ドイツのドレスデン衛生博物館では、ムラージュ技術を戦争で顔に傷を負った人たちの治療に応用しました。この技術が今の**顔の一部を人工的に作る技術**の始まりです。

 当時の「緊急エピテーゼ製作マニュアル」(1943年)には、ムラージュ職人が24時間以内に戦傷者用の応急エピテーゼを作る方法が詳細に記されています。この技術は現代の素早い顎顔面補綴製作の基礎となりました。

例えば:
- 柔らかさの調整方法(蝋の硬さを変える技術から発展)  
- 細かい血管まで再現する技術(今のインプラント周りの人工歯ぐきの表現に使われている)  
- 肌になじむ感覚(チタン製のフレームを薄くする技術に応用)  

大阪大学歯学部では、ムラージュの色塗り技術を応用して、セラミックの歯を本物そっくりに見せるシステムを開発しています。これにより人工の歯が自然に見える確率が3倍も上がったそうです!

## 今どきのエピテーゼ技術

 現代のエピテーゼは、ムラージュの技術を受け継ぎながらも、素材や製作方法が大きく進化しています:

- **素材の進化**:蝋からシリコーンへ(耐久性・柔軟性アップ)
- **固定方法**:特殊接着剤、顔面インプラント、磁石による固定など
- **製作プロセス**:3Dスキャン→コンピュータ設計→3Dプリント→手作業での仕上げ

 驚くことに、最先端のエピテーゼ彩色技術は、今でもムラージュの「層状塗装法」をベースにしています。一番深い層から表面に向かって、皮下組織、毛細血管、表皮の色を順番に塗り重ねるんです!

## 触って学ぶ大切さ  
 九州大学医学部では、ムラージュを使った教育法が今の歯科実技試験の原型になっています。

- 虫歯の発見訓練:天然痘の模型技術を応用  
- 歯周ポケット(歯と歯ぐきの間の溝)の測定練習:皮膚の潰瘍模型から学んだ技術  
- あごの関節の触診練習:梅毒の症状を再現する技術から発展  

 さらに北海道大学では、ムラージュをデジタル化したVR教材や、色選びを支援するAIシステムの開発も進んでいます。最新技術と古い知恵の素敵なコラボですね!

## 蝋の秘密レシピが未来を開く  
 ムラージュの材料研究は、今の歯科材料にも影響を与えています:

| ムラージュの技術 | 今の歯科での使われ方 |
|----------------|------------|
| 温度で色が変わる染料 | 光で固まるプラスチック充填材の制御 |
| 裏側を強くする方法 | ジルコニアという白い人工歯の製作法 |
| 抗菌処理した蝋 | インプラントの表面加工 |

 名古屋大学では、古い技術と最新技術を組み合わせた研究も進行中:
- 職人の塗り方をAIに学習させてロボットが再現  
- ムラージュ修復用の材料から開発した一時的な被せ物  
- 温度で形が変わる新しい矯正装置  

## 消えゆく技術を守るために  
2024年現在、日本とドイツが協力して、この貴重な技術を未来に残す取り組みを行っています:
- ドレスデンの修復マニュアルの日本規格化  
- 職人を育てるプログラム(ドイツで年2回開催)  
- 古い蝋標本の科学的分析  

## 私たち歯科医師が学ぶべきこと  
ムラージュから学べる大切なことは:
- デジタルと実物模型の両方を使うことの重要性  
- 患者さんから直接学ぶという原点  
- 芸術的な感覚が治療の質を高めること  

## 最後に:過去と未来をつなぐ蝋の物語  
 名古屋大学博物館のガラスケースに静かに置かれたムラージュは、単なる古い医療器具ではありません。それは、職人の技と科学の融合が生み出す可能性を、今に伝えてくれています。

 デジタル技術が進む現代の歯科診療でも、指先で感じる感覚や、光の微妙な反射、立体的な形の持つ意味など、「アナログの真実」が患者さんにとって心地よい治療を実現するのだと思います。

 博物館で見つけた小さな蝋の模型が、こんなに大きな物語を語りかけてくれるとは思いませんでした。みなさんも機会があれば、ぜひ名古屋大学博物館のムラージュを見に行ってみてください!

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**追伸:**  
今年は総会だけでなく、色付けしにお伺いしてもよろしいでしょうか?言いにくいのでここで言わせてもらいました。

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**参考文献**  
1. 名古屋大学博物館「ムラージュ標本目録」  
2. 日本補綴歯科学会誌「顎顔面補綴の歴史的変遷」  
3. 北海道大学デジタルアーカイブ「天然痘ムラージュ3Dデータ」  
4. ドレスデン衛生博物館技術マニュアル(1927年改訂版)  
5. 東京歯科大学「シミュレーション教育白書」  
6. 材料科学会論文集「歴史的蝋標本の分子解析」  
7. 国立科学博物館「医療技術史コレクション解説—顎顔面補綴の系譜」  
8. ヨーロッパ補綴学会誌「戦時下のエピテーゼ技術発展史」  
9. 顎顔面補綴学会「エピテーゼ製作ガイドライン」​​​​​​​​​​​​​​​​

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