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COVID-19と脳卒中リスク:最新研究解説

# COVID-19と脳卒中リスク:最新研究解説

## はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、最初に報告されてから約5年が経ちました。当初は肺炎などの呼吸器の病気だと考えられていましたが、研究が進むにつれて、全身のさまざまな臓器に影響を与えることがわかってきました。

 特に最近の研究では、COVID-19と脳卒中(脳の血管が詰まったり破れたりする病気)との関連が明らかになってきています。このブログでは、2025年3月に発表された「SARS-CoV-2と脳卒中の関連:メタアンブレラレビューからの見解」という最新研究をもとに、COVID-19が脳卒中のリスクにどのような影響を与えるのかを、解説します。

## 研究方法:「研究の研究の研究」とは?

 今回紹介する研究は「メタアンブレラレビュー」という方法を使っています。これは、どういう意味でしょうか?

* **普通の研究**:「AさんとBさんを比較しました」
* **システマティックレビュー**:「AさんとBさんを比較した研究を10件集めて分析しました」
* **メタアナリシス**:「複数の研究結果を統計的に合わせて分析しました」
* **メタアンブレラレビュー**:「複数のシ ステマティックレビューやメタアナリシスを集めて分析しました」

 つまり、メタアンブレラレビューは「研究の研究の研究」とも言える方法で、より信頼性の高い結論を出すことができます。

 この研究では、34件の系統的レビューから4件が選ばれ、その中に含まれる70件の一次研究の結果が分析されました。さらに、研究の信頼性を確認するために、研究間のばらつき(異質性)やデータの偏り(出版バイアス)も厳密に評価されています。

## 主な研究結果:

数字で見るCOVID-19と脳卒中の関係

 この研究から明らかになった最も重要な点は、COVID-19に感染すると脳卒中のリスクが明らかに高くなるということです。具体的な数字で見てみましょう:

* **虚血性脳卒中**(脳の血管が詰まるタイプ)のリスクは約**1.8倍**高くなります(eOR = 1.76; 95% CI: 1.11–2.80)
* **出血性脳卒中**(脳の血管が破れるタイプ)のリスクは約**3.9倍**も高くなります(eOR = 3.86; 95% CI: 1.79–8.33)
* **脳血管の合併症がある患者**の死亡リスクは、合併症のない患者と比べて約**2.5倍**高くなります(eOR = 2.48; 95% CI: 2.48–19.63)
* **過去に脳卒中を経験したことがある患者**は、COVID-19感染後の死亡リスクが約**6倍**に上昇します(eOR = 6.08; 95% CI: 3.73–9.91)

※eOR(estimated Odds Ratio)は推定オッズ比のことで、リスクの大きさを表す指標です。CI(Confidence Interval)は信頼区間で、この範囲に真の値がある確率が95%であることを示しています。

## COVID-19の重症度と脳卒中リスク:

比例関係

 COVID-19と脳卒中リスクの関係をさらに詳しく見ると、感染の重症度が重要な要素であることがわかります。研究によると、COVID-19の重症度と脳卒中リスクの間には明確な比例関係があり、重症のCOVID-19患者さんは軽症の方と比較して脳卒中になるリスクが約**2.5倍**高くなっています(eOR = 2.48; 95% CI: 1.55–3.95)。

具体的なデータを見ると:
* 一般病棟に入院したCOVID-19患者さんの血栓症発症率は**2.2%**
* 集中治療室(ICU)に入った患者さんの発症率は**14.3%**
* COVID-19患者全体の脳卒中発症率は**2.8%**ですが、重症COVID-19患者さんでは**5.7%**に上昇しています

## なぜCOVID-19は

脳卒中リスクを高めるの?

 なぜCOVID-19が脳卒中リスクを高めるのでしょうか?研究からは、いくつかのメカニズムが示されています:

### 1. 血管の内側への直接的な影響

 SARS-CoV-2ウイルスは、血管の内側を覆う「内皮細胞」に感染し、ダメージを与えることがあります。この現象は一次研究で直接観察されています。血管の内側が傷つくと、そこに血の塊(血栓)ができやすくなります。

### 2. 過剰な炎症反応

 COVID-19では「サイトカインストーム」と呼ばれる過剰な炎症反応が起きることがあります。これは体が感染と戦うために出す物質(サイトカイン)が多すぎて、かえって体を傷つける状態です。この強い炎症が血管を傷つけて血栓を作りやすくします。

### 3. 血液が固まりやすくなる

 COVID-19患者さんの血液検査では、血液が固まりやすくなっていることを示す指標(D-ダイマーやフィブリノゲンなど)が上昇していることが多いです。これは血栓ができやすい状態を示しています。

### 4. 酸素不足

 重症COVID-19では肺が十分に働かず、体が酸素不足になります。脳への酸素供給が減少すると、脳組織が傷つき、脳卒中リスクが高まります。

### 5. 心臓への影響

 COVID-19は心臓にもダメージを与えることがあり、それが心臓内の血栓形成や不整脈を引き起こし、心原性脳塞栓症(心臓から飛んできた血栓による脳卒中)のリスクを高める可能性があります。

## COVID-19に感染したら

どうすれば脳卒中を予防できる?

 COVID-19に感染した場合、特に重症化した際の脳卒中リスクを低減するためには、いくつかの重要な対策があります:

### 1. リスクの高い人を見つける
 高齢者や高血圧、糖尿病、心臓病などの持病がある方は、定期的に神経学的な症状がないかチェックすることが重要です。日本脳卒中学会のCOVID-19対応プロトコルでも、このようなハイリスク患者の早期発見が推奨されています。

### 2. 血液を固まりにくくする薬の使用
 血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬)の使用は、血栓リスクの高い患者さんでは有効な予防策となります。ただし、出血リスクとのバランスを考慮した個別判断が必要です。日本集中治療医学会(2022)の報告でも、適切な抗凝固療法の有効性が示されています。

### 3. COVID-19自体の重症化を防ぐ
 脳卒中リスクはCOVID-19の重症度と密接に関連しているため、COVID-19の適切な治療と重症化予防が脳卒中予防に直結します。

### 4. 持病のコントロール
 高血圧や糖尿病などのコントロール不良は、COVID-19の重症化リスクを高めるだけでなく、脳卒中リスクも増加させます。研究内でも、基礎疾患の管理と脳卒中リスクの関連が明確に示されています。

### 5. 早期発見と迅速な対応
 脳卒中の兆候(片側の手足の麻痺、言語障害、激しい頭痛など)が現れた場合、感染対策を十分に行いながらも、適切な急性期治療を受けることが大切です。日本脳卒中学会誌(2021)でも、COVID-19患者の脳卒中に対する迅速な対応の重要性が強調されています。

## まとめ:

COVID-19と脳卒中から学ぶこと

 今回紹介した研究は、COVID-19が単なる肺の病気ではなく、全身の血管系に影響を及ぼす疾患であることを明確に示しています。特に脳の血管への影響は深刻で、脳卒中リスクの明らかな増加をもたらします。

 この知見から私たちが学ぶべきことは、感染症の影響は当初考えられていたよりも複雑で広範囲に及ぶ可能性があるということです。科学的な研究が進むことで、新たな関連性が明らかになり、それが治療や予防策の改善につながっていきます。

 また、COVID-19と脳卒中の関連は、複数の持病を持つ方々にとって特に注意が必要であることを示しています。高血圧や糖尿病などの生活習慣病の管理は、COVID-19パンデミックの時代においても引き続き極めて重要と言えるでしょう。

 私たち一人ひとりが健康的な生活習慣を心がけ、持病の適切な管理を行うことが、感染症の時代における脳卒中リスク低減の基本と言えるのではないでしょうか。

## 参考文献

1. Baldo de Souza, A. M. L., et al. (2025). "Association between SARS-CoV-2 and stroke: perspectives from a metaumbrella-review." BMC Neurology.
2. 日本脳卒中学会「COVID-19対応脳卒中プロトコル」
3. 木村和美「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に脳卒中を発症した患者の臨床的特徴を明らかにする研究」厚生労働科学研究費補助金(2021)
4. Ritchie, K., Chan, D. (2021). "The emergence of cognitive COVID." World Psychiatry, 20(1): 52-53.
5. 感染症と脳血管障害:感染性心内膜炎と新型コロナウイルス感染症. 臨床神経学 (2021) 61:507-514.
6. COVID-19患者における血栓症の発生状況と抗凝固療法の有効性. 日本集中治療医学会 (2022)
7. Insights from the Global COVID-19 Stroke Registry. Stroke (2021) 52:1766-1773.
8. 日本脳卒中学会誌 (2021)「COVID-19と脳卒中」43(6):419-429.

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