わかな歯科

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医師の脱臼歯の診断について思うこと①

 今、SNSを騒がせているこのニュース。今回のお医者さんの対応については賛否ありますが、和解に至ったことはよかったと思います。

【ニュースの概要】

 福井県の敦賀市立敦賀病院は5月28日、昨年6月に前歯2本が脱落して受診した若狭町の10代男性に対し、当直医が折損と誤って診断し、自歯を元に戻す再植治療ができなくなる医療事故があったと発表しました。男性側に損害賠償金67万5千円を支払うことで和解が成立しました。

【夜間の救急外来での歯の外傷】

 事故などで生じた怪我などの場合、昔、夜間に歯科医師も当直をしていた時は、頭部や全身状態に異常がないことを当直している医師とともに判断した後、顎や歯に損傷があった場合は、口腔内の切創からの出血などの応急的な処置を行います。その後、顎骨骨折などをしてれば動かないように簡易に固定します。その次に脱落した歯が完全脱臼歯であれば脱臼部を洗浄してなるべく元の位置に戻して仮固定を行います。破折歯であれば、神経を取る応急処置を行います。緊急性の高いものから優先的に行いますが、その中の優先順位としては、歯は最後になると思います。翌日、精査の上、シーネにより顎間固定や歯のワイヤーによる固定を行います。

 昨今は経営上の観点から、病院に歯科を置くところは減少し、当直する歯科医師自体も減っていると思います。そうなると、専門外の医師が口腔内の判断を迫られます。急性の外傷の場合、まずは生命の維持が大事ですから、どうしても口の中の事は二の次になることは致し方のないことです。まずは、頭部や全身に関わる損傷がないかを調べることが当直医の仕事であると思います。問題がなければ、顎や歯の処置に入ります。歯科がなければ当然レントゲンなどの歯科用診断機器もありませんから、知識と経験で対処しなければいけません。その上で、医師が脱臼歯の処置を誤診したとしたら、致し方ないと思います。しかし、若い人は大人と違い、細胞が活発に増殖している時期でもあること、さらに、特に口腔内は傷の治りが良いことなどから比較的脱臼した歯も元通りにくっつきやすいと言うことを認識する必要があったと思います。

『一度脱臼した歯は、再植出来ない。』

確かに、時間が経過するにしたがって脱臼歯の生着率は下がると言われていますが、歯の根っこの周りにある『歯根膜』は歯を顎骨にくっつけるのに重要な働きをしています。この『歯根膜』は、乾燥にとても弱く、細胞も塩素の含まれる水道水で長時間洗ったり指でベタベタ歯の根っこの部分を触ると失活してしまいます。歯が顎骨から飛び出た時に、骨の中にも、歯の根っこの周りにも歯根膜の断片はついていますから、あまり過剰にゴシゴ

『一度脱臼した歯は、再植出来ない。』

確かに、時間が経過するにしたがって脱臼歯の生着率は下がると言われていますが、歯の根っこの周りにある『歯根膜』は歯を顎骨にくっつけるのに重要な働きをしています。この『歯根膜』は、乾燥にとても弱く、細胞も塩素の含まれる水道水で長時間洗ったり指でベタベタ歯の根っこの部分を触ると失活してしまいます。歯が顎骨から飛び出た時に、骨の中にも、歯の根っこの周りにも歯根膜の断片はついていますから、あまり過剰にゴシゴシ洗うと脱臼歯はうまく着きません。確かに2時間以内で保存状態が良好であれば歯がくっつくと言われてもいますが、24時間経過しても子供の場合くっつく場合もあります。もし、夜間に歯科のない病院で治療を受けたなら止血などの応急処置だけ行って、翌日に歯科医院で牛乳につけてある脱臼歯が『うまくくっついたらラッキー』的な感覚で再植にトライすることができたらよかったのかもしれません。アンキローシスを起こして数年で歯根吸収をおこし脱落するかもしれませんが、しばらくの期間でも前歯があったかもしれません。

【当直医はどうすればよかったのか?

 救急外来では限られた設備の中で専門外のことを強いられるため、患者さんとの和解に至ったことはよかったと思います。ただし、当直医は、患者の状態を適切に評価し、必要な治療を提供する責任があります。再植が適切でないと判断された場合、他の適切な処置(例:破損歯の保存、痛みの管理、傷の処置)を行う必要があります。

  1. 適切な診断と対応:

    • 当直医は、患者の状態を適切に評価し、必要な治療を提供する責任があります。再植が適切でないと判断された場合、他の適切な処置(例:折損歯の保存、痛みの管理、傷の処置)を行う必要があります。
    • 脱臼した歯を持参した患者に対して、内科医は歯科や口腔外科の専門家と連携し、適切な治療計画を立てるべきでした。

歯科は緊急性が低いこともあり、後回しにされがちですが、医師でも歯科的な対応を迫られることがあるということがわかったニュースでした。

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