【口は最大の感覚器官!】
『原始反射とは』
これは、赤ちゃんの持つ特徴を示した絵です。感覚受容器の強さ、「感受性」に応じて描かれた絵です。赤ちゃんにとって口は、外界に対する最大の感覚器官であると思います。
ところで、原始反射という言葉を知っていますか?赤ちゃんが生まれた時から持っている反射です。例えば、口の周りにも
- 吸啜反射
- 咬反射
- 探索反射
- 舌の挺出反射
というものがあります。
例えば、手には把握反射があります。新生児の時、手をギュッと握って生まれてくるのは、進化の過程で、ヒトがまだサルで樹上生活をしていた頃、出生児から木につかまり地面に落ちないために存在すると言われています。
Q.では、どうしてこのような反射が
あるのでしょうか?
探索反射 : 赤ちゃんの口角や頬を指で触ると顔を向ける。
吸啜反射 : その指を吸おうとする動きが見られる。
➡️ 赤ちゃんが乳房に触れると顔を向け、乳首から母乳を吸い栄養を補給する。
Ans.原始反射は、生きていくために必要だから
ただし、原始反射については不明な部分もたくさんあります。
舌の挺出反射は、指などを口に入れようとすると舌が出てきて妨げます。この反射が起こる理由として、固形物は赤ちゃんにとって異物だから、無理に口に入れると喉に詰めて窒息する危険があります。だから、舌による生体防御の一種と考えられています。
咬反射は、臼歯が萌える部分に指を入れられると、歯茎で噛み込む動作が見られます。脳性麻痺児の介助磨きの時、歯ブラシを噛み込み、離さないのはこの反射によるものです。この反射が存在する理由としては、挺出反射と同様で口に異物の侵入を拒むためという説や、咬む筋肉の訓練のためと考えられています。でも、霊長類であるヒトとしては、「動物(サメ・ライオンなど)が獲物を捉えた後、口が開くと獲物に逃げられてしまうので、この反射がある」とも考えられます。
それでも、通常、原始反射は生後4〜6ヶ月で出なくなります。もし、吸啜反射が大人になっても残っていたら、食べ物が口に触れただけで“チューチュー”といった吸う動きしか出来ず、自分の思い通りに顎が動かせません。だから、いずれなくならなければいけないものです。
Q.どのように原始反射はなくなるの?
原始反射は、脳の一番深いところにある脳幹部(延髄・橋)で起こる反射です。
脳幹部は、別名“爬虫類脳”とも呼ばれます。この部分は爬虫類にも存在する脳で、摂食中枢や呼吸中枢など生きていくために必要不可欠な脳です。出生児から乳を探す動き、母乳を探す動きがなければ生きていけません。だから、脳の中でも、最も原始的なこの部分に存在します。
その後、幼児期には大脳辺縁系が発達します。ここは主として喜怒哀楽などの情動をつかさどる働きがあります。「三つ子の魂百まで」という諺があるように、小さい時に受けた刺激は、大人になっても好むようになります。だから、幼児期に甘いお菓子を与えすぎると将来甘いもの好きになると言われます。サケが生まれた川に戻って産卵するのは、稚魚時代の川の臭いを求めて帰るためと言われています。ヒトにおいても生涯の人格形成に大きな影響を与えるのがこの時期です。
その上に創造性や思考の座であ大脳新皮質が形成されます。これらの高次の中枢が発達することによって原始反射は、抑制され隠されます。全く消失するのではないので、交通事故などのように高次の中枢にダメージを受けるとまた現れることがあります。
また、脳性麻痺などの障害をお持ちの方などは、出生児に仮死分娩などで脳がダメージを受け、このダメージによって、高次の中枢の発達が阻害されるため、原始反射が消失しにくい理由です。
『謎解き口腔機能学』岡崎好秀 他
口は最大の感覚器官より
逆に、認知症高齢者でもゆっくり時間をかけて原始反射が出現する場合があります。歯科新聞にこんな記事がありました。
2021年(令和3年) 8月31日
日本歯科新聞
認知症患者の「義歯卒業宣言」を提唱
伊東歯科口腔病院 廣瀬知ニ氏
動物は、歯が無くなれば、生きていけません。人間は、道具を使いこなすことで『食べる』という高次の機能を回復することができます。何らかの理由で経口摂取が難しくなったとしても、点滴や胃ろうといった、入れ歯を使わなくても生きていける手段はたくさんあります。
昔、上司にこれと同じようなことを言われたことがあります。
『入れ歯を作って装着するのも我々の仕事だけど、義歯を外してあげる判断も我々の仕事であることを覚えておきなさい。』