入院すると入れ歯が合わなくなるのはなぜ?
よく患者さんから、『数週間入院したら、歯茎が痩せちゃって入れ歯が合わなくなっちゃったよ』と言う相談を受けることがあります。確かに、入れ歯を支えている歯槽骨というのは毎日新しい骨を壊して、作っての繰り返しのなかで、加齢や廃用萎縮で骨を壊すスピードの方が骨を作るスピードを上回ってしまうと、だんだん入れ歯の下にある”土手”が減り隙間が空いて、入れ歯の適合が悪くなって力が伝わりにくくなるかもしれません。でも、本当にそれが入れ歯が噛めなくなった原因でしょうか?数週間から1ヶ月で、急激に骨が吸収され、土手が痩せてしまうような事は何かの病気でなければ生じることは少なく、通常は1ヶ月くらいでは入れ歯が合わないと感じるほど歯槽骨は痩せていないのではないかと思います。きっと、入院中に入れ歯が合わなくなった原因は、他の何かではないでしょうか?
人の咬む力というのは、大きな3つの閉口筋(咬筋、内側翼突筋、側頭筋)によって発揮されます。人の咬む力というのは、大体その人の体重程度、総入れ歯ではその5分の1程度といわれています。
ここで、筋肉について説明したグラフを見てください。
この図は、ある筋肉がだせる最大の力を100%とする時、何%くらい筋力を使うと、筋力が増強するか低下するかを示した図です。一般的に、私たちが日常生活で使う筋力というのは、最大筋力のだいたい30%くらいです。30%くらいの筋力を使っていれば、筋力は低下も増強もすることはありません。
約30~50%程度まで筋肉を使うと、使った筋力に応じて筋力は増強されます。しかし、50%以上使えば増えるかというと筋力の増加率はほとんどかわらないのがわかります。一方で、70%以上の筋力を必要とするような負荷をもつ作業を長時間行うと筋疲労が生じ、持続的な運動が困難になり筋運動の効果は減弱します。また、長期的には筋組織は変性して線維化する、この図は同時に廃用性変化とは、全く筋力を使わないと生じるのではなく、使っていても最大筋力の20%以下の筋力であると生じることも示しています。例えば、体重50㎏のおばあちゃんに、入れ歯を装着して10㎏以下の咬合力で食べられる軟食を入院中に出していると廃用化が起こって筋力は痩せていきます。
入院中は、食事が少しとれなかったりすると、入れ歯を外して食事したり、軟食やきざみ食で給仕されることが多くなると”筋肉の廃用化”が進みます。
入れ歯は、咬合力を支持する”顎堤”も重要ですが、口腔の諸機能時に義歯に加わる内方への圧力と外方への圧力が均衡化される領域を”筋圧中立帯”といいまして、入れ歯自体を筋圧による維持安定の向上を期待するのに入れ歯の収まりの良い場所と言い換えられます。なにを行ってるかと言いますと、口の中で、舌からの圧力と頬や口唇の圧力の両者の圧力のバランスが保たれている場所のことを言います。筋力の低下によって、この力のバランスが崩れると、入れ歯の安定は悪くなり、どちらかに入れ歯は押されて位置がずれるので、咬みにくくなります。おさまりが悪くなると言うことですね。
そうです。入れ歯が合わなくなる原因の他の何かとは、『筋力の低下』です。入院期間が数週間でも体全体の筋力の低下は起こります。入院中も義歯をなるべく装着して、咬む力を維持することも大切です。