普通、自分の体は自分のものであり、自在に動かすことができるということを誰もが知っています。近年の認知科学的研究の発展により、実験室内に限定されるものの『自分の意図とは無関係に手が動いてしまう』ような体験を錯覚的に引き起こすことができるようになってきています。例えば、ゴム製の手を目の前において自分の手を衝立などで隠した状態で誰かに鉛筆などで両方の手を同時に撫でてもらうと、徐々にゴム手が自分の手のように感じられるようになります。これは、ラバーハンド錯覚(Botvinick & Cohen 1998)と呼ばれるもので、ヒトのの身体的感覚を巧みに騙しながら、ヒトの身体認知の主要素やメカニズムを解明するために用いられる実験です。
https://www.youtube.com/watch?v=lYQLFl-hgts
この実験は、幻肢痛(事故などで手や足を失ったにもかかわらず、失われた身体部位で痛みを感じる現象)や片麻痺(脳梗塞などによって、右か左のどちらかの体が動かしにくくなる症状)、半側空間無視(視力には問題ないのにもかかわらず、目にしている空間の右半分が認識出来なくなる障害)などの治療に用いられることのある、ミラーセラピー(Ramachandran & Blakeslee 1998)を参考にしたものです。
偽薬で病気が治るという思い込みの力が現実になる『プラシーボ効果』といい、副作用のない薬でも思い込むと副作用が表れる『ノーシーボ効果』といい、思い込みがプラスにもマイナスにも働く人間の脳というものは、複雑でもあり単純でもあります。オーラルリハビリテーションに関しても、ポジティブな考えを持ってる人の方が圧倒的に予後がいいです。『病は気から』とはよく言ったもので、偽物の歯である入れ歯も慣れるまでは扱いにくいですが、考え方次第で自分の機能を補ってくれる大事な臓器の一部になることが可能です。